【86歳、庭の贈りものと】前編:鎌倉で一人暮らし。自分らしく生き生きと過ごす、北村光世さんを訪ねました

ライター 長谷川未緒

年齢を重ねて、ますます自分らしく、もっと生き生き過ごしたいと思うようになっています。そのためには、知らないことにわくわく・どきどきしたり、好奇心旺盛に一歩を踏み出す勇気が必要そう。

そんなふうに思っていたときに、食文化研究家でハーブ・オリーブオイル研究家の北村光世(きたむら・みつよ)さんのご著書を拝読しました。

若いころからチャレンジングな人生を歩まれ、現在、86歳。

かつてはご主人と息子さんと3人暮らしでしたが、息子さんが巣立ち、ご主人に先立たれてからは、小さな庭のある一軒家でおひとり暮らしをされています。

何歳になっても新しい活動に取り組まれている北村さんに、ハーブとの出合いや日々の暮らしなどを通じて元気に生きていくヒントを伺いに、ご自宅を訪ねました。

第1話では、京都で育った幼少期、19歳でアメリカに留学してから出合ったハーブについて伺います。


料理好きの母がつくるカレーの思い出

鎌倉・稲村ヶ崎のご自宅は、パティオと呼んでいる土間の大きな窓から、さまざまなハーブが育つ庭がのぞめます。

この家に住むようになって50年近く経ち、すっかり海辺の暮らしになじみましたが、19歳で渡米するまで、上賀茂神社や賀茂川がほど近い京都で生まれ育ちました。

ご実家の庭には三つ葉やみょうがが生え、山椒や月桂樹(ローリエ)の木もあったそう。

▲梔子の花。北村さんのお家の小さな庭にはさまざまなハーブや花がある。

北村さん:
「当時は気づいていなかったんですけれど、どれもハーブですよね。

月桂樹は植物として日本に入ってきたので、ハーブとして入ってきたローリエと結びつかない方もいて、庭にあっても料理に使うことは少なかったと思います。

料理好きの母は、どこで教えてもらったのか、ローリエの生葉をカレーに入れたりしていました。私はそれをハーブとしてではなく、香りの良い葉っぱね、入れるとおいしくなるのね、と食べていたんです」

北村さん:
「京都は大原というところが赤じその産地として有名なんですね。母も梅干しを作るときなど、赤じそは大原に限るとよく言っていました。

子どもの頃は何が違うんだろうと思っていましたけれど、大人になって大原産ではない赤じそを使ったら、アクがすごく出て使いづらかった。やっぱり産地というのは大切なんですよね。

どの土地にも何かの植物は生えていて、人間に役立つものを選んでお料理に使ったり薬にしたりして、生活の中で活かしてきたのがハーブです。みんなわかっていたことだけれど、だんだんと科学が進むにつれて、科学的にこういう効果がある、と実証されてきましたね」

 

アメリカ文学を勉強したかったのだけど……

幼少期からハーブと思わず植物に親しんでいた北村さんでしたが、最初にハーブをハーブとして認識したのは、アメリカに留学したときのことでした。

北村さん:
「念願かなって1958年、19歳のときにアメリカの大学に留学しました。奨学金は受けられたものの仕送りはありませんでしたから、牧師さんの家に住み込み、ベビーシッターと皿洗いのアルバイトをしながら勉強したんです。

本当はアメリカ文学を学びたかったんですけれど、1年目は手違いで家政学科に。自分が望んだ学問ではないけれど、せっかくアメリカに来て勉強するのだから思い切りやらなきゃ、と頑張りましたよ。料理を科学的に勉強できたことは、のちの仕事にも役立ちましたから、不思議なものです」

▲アメリカ留学中に購入した料理ブック。帰国後はこの本からさまざまな料理を作った。

北村さん:
「その後、転校した大学ではスペイン語を専攻しました。アメリカ文学は英語ができないと不利ですが、スペイン語ならアメリカ人と同じスタートラインに立てますから。

転校先では、大学の寄宿舎に入り、食堂で働きながら勉強しました。夏休みは東部の避暑地で牧師さんのお宅に泊めていただき、近くのレストランでウエイトレスとして働きました。

その時、教会の夏行事であるビーンサパー(熱した石の熱でゆっくりと煮た豆料理の夕食会)で、ディルというハーブで香りをつけたきゅうりのピクルスと出合ったのです」


和食が恋しかったときに出合った「ピクルス」

▲北村さんが常備しているディル風味のピクルス。

それまでアメリカで食べていたピクルスは、砂糖を使って甘めに仕上げられたものばかり。ところがこのピクルスは、日本のお漬物を思い出させる味でした。

北村さん:
「母は料理に砂糖やみりんをあまり使わなかったので、甘みのある料理に慣れていなかったんです。

だからピクルスも甘くておいしくないと思っていたのに、このディルを使ったピクルスはおいしかった。聞くと、ディルが入っていないとダメよ、と。そうじゃないと甘いと言うわけです。

これが、私とハーブとの出合いです。当時はどこにも日本食が食べられるところはなく和食が恋しかったので、このお漬物みたいなピクルスは、よけいにおいしく感じました」

美味しさに感動したものの、そこからハーブにのめり込んだかというと、そうではなかったのだとか。

北村さん:
「いっぱい勉強しなくちゃいけないし、仕事もしなければならなかったので、すぐに忘れてしまいました。

そして翌年の夏、今度は農家の人たちが集まっている市場に連れて行ってもらったんです。

そこではピクルス用のきゅうりや、花をつけたディルが売られていて、『これがあのおいしかったピクルスの材料かぁ』と感動したんですけれど、買って帰っても台所があるわけでもなし。また勉強、勉強で頭から消えてしまいました」


メキシコでコリアンダーの虜に

必死でスペイン語を学び、好成績を獲得した北村さんは、大学の夏休みにメキシコで行われるスペイン語講座に出席できることに。行ってみたら、メキシコはハーブやスパイスの宝庫でした。

 北村さん:
「中南米は、多くの植物の原産地なんですよね。2か月ほど滞在し、メキシコ料理に使われるハラペーニョとシラントロには魅了されました。

ハラペーニョは唐辛子、シラントロは英語ではコリアンダー、タイではパクチーと呼ばれ、種子はスパイスとして、葉はハーブとして、その土地の料理に使われています」

5年間のアメリカ留学を終え、帰国後は大学でスペイン語の教鞭を取るように。ようやく落ち着いたころ、思い出のメキシコ料理を作りたいと思ったとき、トマトや玉ねぎなどの材料は揃うのに、どうにも味が決まりません。

北村さん:
「やっぱりハラペーニョとコリアンダーがないと、あの味にはならないんだと気がつきました。

いまはスーパーでも買えますけれど、50年以上前のことですから、どこにも売っていなかったんです。自分で育てないと食べられませんでした」


「手に入らないなら育ててみよう」と思ったのがはじまり

北村さん:
「当時、ヒッピーと呼ばれるアメリカのカウンターカルチャーに影響を受けた人たちの店で、ハーブの種も買えるようになってきたところでした。

そこで種を買い、育てることにしたんです。東京のアパート暮らしだったので、ベランダの鉢植えで育てられるものは限られていましたけれどね。

結婚して庭のあるこの家に越してからは、月桂樹をはじめ、さまざまなハーブを育てるようになりました」

戦後まもなく単身アメリカに渡り、それまで見たこともなかった植物と出合い、人生が変わった北村さん。

続く第2話では、ご自宅の庭で育てているハーブのこと、ハーブとの付き合い方、育て方などを伺います。

(つづく)


【写真】土田凌



もくじ

第1話(7月28日)
鎌倉で一人暮らし。自分らしく生き生きと過ごす、北村光世さんを訪ねました

第2話(7月29日)
大事なのは「よく見る」こと。ハーブは、生活の中で、気負わずに付き合って

北村光世

食文化研究家、ハーブ・オリーブオイル研究家。1939年京都市生まれ。19歳で渡米し、5年間の大学生活後、帰国。青山学院大学文学部でスペイン語の教鞭をとり、94年に教員生活に終止符を打つ。以後、ハーブやオリーブオイルを使った料理とその背後の食文化を各メディアで紹介。著書に「シンプルに無駄なく『85歳、ノンナさんの食卓』」(東京書籍)など。


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