【エッセイラジオ】第42夜:中川 正子さんのエッセイ「おはなし会」(読み手 スタッフ小林)
編集スタッフ 鈴木
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、写真家・中川正子さん。読み手は、当店スタッフの小林です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
おはなし会
中川 正子
すり鉢状になった暗い部屋。
その中心には女性がひとり。
揺れるろうそくの光に照らされて、
低くきれいな声で朗読をする。
この景色は今でも、
ふとした瞬間に
わたしの脳内モニターに映る。
小さなころのわたしは、
他者と関わるよりも、
本を読むほうがうんと好きだった。
今、人と触れ合う仕事をしているのが
不思議なほどに。
誰にも邪魔されず、
ただずっと本を読んでいたかった。
週に1度、
母が連れて行ってくれる図書館が
何よりの楽しみだった。
「おはなしかい」
この響きを耳にすると今でも胸が高鳴る。
図書館で行われていた読み聞かせの会。
そこはわたしにとっての魔法に満ちていた。
下へ向かって階段のようになった
円形の部屋の床全面には、
ベルベットのような生地が張られていた。
その、はじめて触れる滑らかな感触。
暗い部屋はキャンドルだけに
照らされている。
誰かが少し動くたびに、
影がゆらゆらと、
生きているみたいに、揺れた。
お話のお姉さんは、
見たこともないくらい長い髪を、
おでこの真ん中で
きっちりと分けていた。
(そう、あれは70年代だったのだ)
彼女のかたちは絵本にでてくる
魔女そっくりだった。
魔女は魔女でも、とてもやさしい魔女。
聞いたことのない外国の話。
かわいそうなきつねがでてくる話。
空の向こうの話。
彼女の声は、
わたしたちをあらゆる場所と時間に
連れて行った。
真夏に枯葉の匂いがした。
食べたことのない料理の
湯気が見えるような気がした。
冷たい石が敷かれたお城の廊下を歩いた。
お姉さんの口にする言葉はいつも、
角がまるく、
どんなにおそろしい話を読むときでも、
くちびるのはしっこが、
きゅっと、上がっていた。
当時の地元の新聞に、
その様子が 載っているのを見たことがある。
お姉さんから一番遠いところで、
背筋を伸ばし目を見開いて座っている、
6歳くらいのわたしが写っていた。
おそらく
15分やそこらの会だったのだろうと思う。
お話し会が終わると、
蛍光灯がぱっとつき、保護者たちが
どかどかと、迎えに入ってきた。
その瞬間はまさに、絵本に出てきた
魔法が解けるシーンと同じだった。
わたしも母のところに向かった。
たのしかった? うん。
それ以上は言えなかった。
魔法のことは説明などできない。
あの図書館、設計したのは誰なんだろ。
そんなことを考えてしまうようになった
今のわたしには、
あの類の魔法の時間は
二度と訪れないのかもしれない。
それは少しかなしいことだけれど、
でも、わたしは、
お姉さんの長い影が
ボルドーのじゅうたんの床で
伸びたり縮んだりするさまを、
今でもくっきりと思い出せる。
そういう記憶は、
わたしたちの背骨をささやかに、
でも、確実に支えてくれると思う。
彼女がろうそくを吹き消す、
あの夢みたいな仕草の思い出も。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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