【本屋の本棚から】前編:「誰かと暮らす」を考える本4冊(仙台・曲線)
編集スタッフ 松田
ふらりと本屋さんに立ち寄って、本棚を眺める時間。それは、とてもしあわせで、豊かな時間のひとつだと感じます。
本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した連載。
第四弾となる今回は、宮城県仙台市にある書店・曲線の菅原 匠子(すがわら しょうこ)さんに、今の気分に寄り添うテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。
▲本屋・曲線があるのは仙台市の中心部から少し離れた住宅地。築120年を超える建物をリノベーションし2019年9月に開店
▲店内は建物の梁を活かした、落ち着いた空間が広がります
今回の本棚のテーマは「誰かと暮らす」です。
それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。
今日の本棚
「誰かと暮らす」
人生を歩んでいくなかで
自分ではない「誰か」との関わりは
避けられないものです。
誰かと一緒に生きていくこと、
暮らしていくこと。
時にはすれ違いや
ぶつかってしまうこともあるけれど、
そんな日常も愛おしいと思えるような、
他者との関わりについて考える本を
ご紹介いただきました。
【本棚リスト】
『水中の哲学者たち』永井 玲衣 晶文社
『くままでのおさらい』井上 奈奈 ビーナイス
『Leaving and waving』Deanna Dikeman CHOSE COMMUNE
『未来をはじめる』宇野 重規 東京大学出版会
『島暮らしの記録』トーベ・ヤンソン 筑摩書房
『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』アリス&エミリー・ハワース=ブース 青幻舎
『ベルリンうわの空』香山 哲 イースト・プレス
『ちいさないきものと日々のこと』もりのこと+渡辺 尚子(編集) もりのこと
『ふたりはともだち』アーノルド・ローベル(作)、三木 卓(訳) 文化出版局
『きみの町で』重松 清(著)、ミロコマチコ (イラスト) 朝日出版社
この本棚の中から、特に菅原さんが今オススメしたい本についてコメントいただきました。
過ぎていく日々を記録して。まるで映画を観ているような写真集
菅原さん:
「はじめにご紹介するのは、実家を訪れた写真家が、“じゃあね” と別れ際に手を振る両親の様子を、27年間にわたって撮影し続けた作品集です。
定点観測のように、同じ場面のスナップ写真が淡々と続くのですが、時間の経過や喪失の情景が、すごく情感豊かに記録されていて、まるで映画を観ているような感覚になります」
「少しずつ変わっていく風景とともに、歳を重ねていく両親の姿。笑顔だったり心配そうだったり、我が子に向けられるそんな二人のまなざしが印象的です。
最後のページまでめくり終わると胸がいっぱいになる、そんな一冊です」
『Leaving and waving』Deanna Dikeman CHOSE COMMUNE
食べたもので、わたしはできていく
菅原さん:
「次にご紹介するのは、主人公の女の子がお皿の上のさまざまな生きものを “ぱくぱく ごっくん” と食べていく、という絵本です。
なにかを食べるたびに、その食べたものの姿に変わっていく女の子の物語を通して、食べたものでわたしたちはできているということと、一緒に暮らす他者との関わり合いで自分は形成されているという哲学的なメッセージが伝わってきます。
絵本らしい言葉の反復も多く、絵も可愛らしいので、小さなお子さんと一緒に読んでもきっと楽しめるはずです。手のひらサイズの小さな絵本ではありますが、倫理であったり、食べることについて考えたり、さまざまな角度で読むことができる一冊です」
『くままでのおさらい』井上 奈奈 ビーナイス
学校の教室が世界のすべてだった、あの頃に戻って
菅原さん:
「こちらは重松清さんの物語集です。学校の教室がすべての世界だった、そんな子ども時代を思い出す、短編のお話が8つ収録されています。
友達のこと、家族のこと、電車で出会った人のこと。それぞれの出来事を通して、登場する子供たちが少しずつ大人になっていく様子が描かれていて、読んでいると声援を送りたくなる気持ちになります。
ミロコマチコさんの挿絵も魅力的で、物語を一層みずみずしいものにしてくれています。重松さんの温かな文章には、うまくいかないことも悩むときもあるけれど、でも生きることを好きでいてほしい、そんな想いが込められている気がします」
『きみの町で』重松 清(著)、ミロコマチコ (イラスト) 朝日出版社
不思議なタッチで描かれたベルリンの人びとの、やさしい日常
菅原さん:
「最後にご紹介するのは、作者の香山哲さんが、ベルリンに移住して実際にドイツの社会システムに触れ、生活を送るなかでみえてきた、生きていくうえで大切にしたいことを綴ったコミックエッセイです。
ゆるやかな社会と他者との繋がり、共助の意識がそれぞれに育っているからこそ、さまざまな社会問題がうまく解決していくベルリン。不思議なタッチで描かれた人びとは、ささやかだけれどやさしい日常を送っていて、読んでいると温かな気持ちになります。
もちろん、日本とはまた違った大変な部分もあるのですが、『こんな街で暮らしたいな』と読んでいて少し羨ましくなる場面も。同時に、ひとりの力では大きな社会は変えられないかもしれないけれど、自分の身近な周囲から変えられることは、まだたくさんあるのかもしれないと気づきをもらえる一冊です。まさに他者と暮らすことについて考えたくなる本です」
『ベルリンうわの空』香山 哲 イースト・プレス
***
つづく後編は、「雨の本」がテーマの本棚をお届けします。どうぞお楽しみに。
【写真】かんのさゆり
もくじ
曲線
宮城県仙台市にある、築120年を超える建物を店舗とした本屋。おもに新刊書、少しの古書、ZINEやCDなどを販売。本と親和性の高いイベントや展示も行っている。最新刊にこだわることなく、店主みずからが良いと思う本を選び紹介している。「曲線」という店名は、店主が好きな詩人・北園克衛の詩に因んでつけたのだそう。
HP:https://kyoku-sen.com instagram:@kyokusen_8
open|月・木・金・土・日 12:00-19:00
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