【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十一回:飛べ!
山本 ふみこ
週に一度ほど、東京で仕事をします。
自宅のある熊谷から高崎線で1時間もあれば東京ですが、出たからには用事をいくつか消化しようと、動きまわります。用事と用事のあいだに空き時間が生じることがあり、それが1時間ほどなら、1駅分歩くことで消化できますが、2時間を超えるときは映画館に飛びこみます。
映画館の暗闇が、大好きなのですよ、わたしは。
先日3時間の空き時間ができ、新宿の大型映画館に足を踏みいれると、5分後に『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』がはじまることがわかり、前方の席を選んで観客となりました。
「ハイキュー!!」のことはよく知っています。バレーボールに懸ける高校生たちの物語でしょう? 若い友人たち、うちでは二女が「ハイキュー!!」について熱く語るのを聞きながらも、1歩が踏みだせなかった……。「劇場版ハイキュー!!」は、長く連載のつづいた「ハイキュー!!」の最終章にあたる2作品のうちのひとつだったのです。
つまりわたしは、いきなり「ハイキュー!!」の最終章と出会ったことになります。
映画鑑賞ののち、帰宅するなり動画配信で「ハイキュー!!」1期から最終章直前までを一気に観ました。
どこがよかったのかなあ……。勝負にこだわってはいるのだけれども、何よりバレーボールが好き、という、うまくなりたい、という、高校生たちのモチベーション? それぞれの役割を堅実に果たした成果? メンタルが強くなくても、メンタル以上のメンタルが生まれる瞬間?
アニメのなかで、
応援旗には「飛べ」の2文字。
はっとするほどかたちのいい、うつくしい文字です。
文字を書くのは好きだし、書く機会も少なくないわたしですが、「飛」という字を書くのが苦手なのです。娘たちにも、「『飛』の字、衝撃的に下手!」と笑われる始末です。
「ハイキュー!!」の応援旗を手本に、このひと月、「飛」の字を練習しています。飛、飛、飛、飛……。なるほど、少しでっぷりとした構えに書くといいのですね。わたしの「飛」は痩せて傾いていたのでした。
「ハイキュー!!」には、ほんとうに、いろいろおしえられました。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。最新刊『あさってより先は、見ない。』(清流出版)、ほか著書多数。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/
写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp
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