【らしさを探して】後編:個を守りながら、つながり合える。「あえて行きたくなるオフィス」づくり
編集スタッフ 野村
この春、クラシコムの新オフィスが完成しました。
新オフィスの内装を手掛けたのは、クラシコム全体のデザインに責任を持つコーポレートクリエイティブ室(以下、CC室)と、デザイン事務所の「SIGNAL Inc.(シグナル)」。
実は、シグナルへオフィス設計を依頼したきっかけは、18年前の北欧での出会いにさかのぼります。
▲シグナルの徳田さんと佐藤
今回は、18年ぶりに再会を果たすこととなった、シグナルの代表・徳田純一(とくだ じゅんいち)さんと店長佐藤が、オフィスづくりのあれこれについてお話ししています。
前編では、徳田さんと佐藤の出会いと再会、オフィスデザインのこだわりや苦労話に花が咲きました。
後編では、オフィスづくりを通して、クラシコムのものづくりについて見えてきたことに話が広がっていきます。
2人と一緒に、クラシコムの新オフィスを巡っている気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
執務スペースに、クラシコムらしさがある?
佐藤:
デザインや世界観のこと以外に、「スタッフが集まって働ける場にしたい」という要望も同時に出していました。
クラシコムはリモートワークがメインです。だけど、みんながあえて来たくなるような場所にもしたいよね、と兄(代表 青木)と話していました。
商品開発のための作業台や、スタッフ同士が集まってミーティングしやすい会議室、個人で集中できる執務スペースなど、シグナルさんに対してひとつひとつの場所で細かなオーダーをさせてもらったと思います。
徳田さん:
そうですね。作業台のサイズや、会議室のカーペットの色、執務スペースのパーテーションの高さなど、本当に細かくすり合わせをさせていただきました。
中でも特殊だなと思ったのは、ワンフロアをまるまる大きくとった執務スペースを、すべてパーテーション付きにしてほしいということでしたね。
多くの会社でリモートワークが増えてきているから、ここ最近だと、「オフィス=コミュニケーションの場」という機能をメインに置くケースが多いんです。
でもクラシコムは、オフィスに来ても「個人作業に集中しよう」というスタンスをとても大切にしているのは、変わっているな〜と思っていて。
佐藤:
コミュニケーションできる場も、集中できる場も、どちらも程よく欲しかったんです。
デスクに座ってみると、このパーテーションの高さが絶妙ですね。仕切られているから集中できるけれど、ちょっと腰を伸ばせば、隣や向かいの人とすごく距離感近く話せるんです。
ゆるやかに個を守りながら、ちょっとつながり合える。そんな価値観が形になっている場所だなって思ったんです。
クラシコムが手がける商品やコンテンツ、サービスは、その価値観がベースになっているものかもしれないなぁと私自身感じていて。
だからこそ、この執務スペースはオフィスの中でもすごくシンボリックな空間だと思います。
「らしさ」って揺れ動くものなのかも
佐藤:
「クラシコムを象徴するオフィスにしたい」というオーダーについて、1年経って徳田さんはどんな風に解釈していますか?
徳田さん:
はじめ、クラシコムを象徴するデザインイメージは、やっぱり「作り込んだ内装」でした。
でも、いろいろお話を聞いて感じた、オフィスデザインにおいてクラシコムを象徴するものの正体は、青木さんと佐藤さんとCC室のちょうど真ん中にあるものなのかなと今は解釈しています。
佐藤:
わ、面白い解釈です! 初めてそんなふうに言われたけど、そうかもしれないと腹落ちしました。
▲オフィスツアー中、代表の青木も交えて談笑する時間もありました
徳田さん:
クラシコムとオフィス作りをしている時、「誰かひとり」が決めてるっていう感じが全然しなかったんです。みんなで話し合って決めているんだろうな、とすごく感じました。
ある時は青木さんが出てきて話をしているかと思ったら、今度は佐藤さんが出てきてお話ししている。じゃあオフィスのことは佐藤さん管轄なのかな?と思っていたら、今度はCC室の皆さんがデザインのイメージや方向性についてお話ししている。
三者三様でそれぞれの思いがあるんだけど、その思いの中に重なる部分があって。そこについて深掘りしていくと、どうやらその方向性がクラシコムが希求する姿なんだなと納得する場面が多くありました。
佐藤:
クラシコムの全体的なアートディテレクションも、「北欧、暮らしの道具店」のアートディレクションも、もしかするとそれに近い部分があるかもしれません。
「北欧、暮らしの道具店」のすべては、私が中心的にディレクションしていると思っていただくことも多いです。
でも兄がいて、CC室の存在があって、そして他のスタッフたちの思いも乗っかってくる。本当にひとりで作ったサイトや店だったら今の形にはなっていないんですよね。
クラシコムらしさや、「北欧、暮らしの道具店」らしさの正体って、関係する人たちの間で揺れ動いているんだなぁ、といい気づきになりました。
オフィスを、変化をつなぐ場所に
佐藤:
新オフィスが完成した時、「北欧、暮らしの道具店」を始めるきっかけになった北欧旅行で、兄と話していたことをふと思い出しました。
兄妹2人でクラシコムを起業したばかりの頃だったので、その旅行では、北欧のいろいろなオフィスを興味津々で見て回っていて。
その中に、昔ながらのレンガ造りの縫製工場をリノベーションした素敵なオフィスがありました。机がずらりと並んでいて、上から北欧デザインのランプがぶら下がっていて、とにかく素敵な内装で。
2人して、「超かっこいい!」「夢はいつかあんなオフィスを作ることだよね!」と語っていたんです。
この新オフィスは、その時に夢見ていたオフィスにすごく近づけたんじゃないかな、と私個人として感じています。
徳田さん:
そう言っていただけて嬉しいです。このオフィスはとても特徴的なものができあがったなと僕自身も感じています。
オフィスは、会社が成長していくと移転をしていくもの。だからいずれは移ろうものではあるのですが、仮に、今後移転するとなった時も、何かしらの形で残って欲しいなって思っています。
佐藤:
18年前、まだ私たちクラシコムがどんな事業をするのか不透明な時代に出会った方に、設計・デザインをしていただけたのがこのオフィス。
じゃあ、これから先10年後の自分は、新オフィスができた日のことをどんなふうに振り返るんだろう、と未来のことも楽しみになっているんです。
***
私たちスタッフも、新しくなったオフィスで働き始めてひと月ほどが経ちました。
新鮮な空気と空間の中で仕事をすることに少しソワソワする気持ちも持ちながら、快適に仕事が進めやすい環境だなあと感じることが多いです。
これからも、お客さまにより楽しんでいただけるような商品・コンテンツづくりに注力していく「北欧、暮らしの道具店」を、どうぞよろしくお願いします。
(おわり)
photo:吉田周平
新オフィスの全貌を、動画でご覧いただけます
新オフィスの様子をまとめた、オフィスツアームービーも作成しました。こちらの動画もあわせてお楽しみいただけたら嬉しいです。
もくじ
SIGNAL Inc.
徳田純一 新海一朗
オフィスデザインや店舗デザイン、プロダクトデザインまで、幅広く設計・デザインを手がけるスタジオ・SIGNAL Inc.を共同設立。訪れた人がワクワクし、心地よくなるだけでなく、それを誰かに伝えたくなる場所づくり。色や形にとどまらず、人々の記憶と感情が連鎖していくデザインを目指す。
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