【大人になるってなんだろう?】第三話:地を磨くこと。もっとすてきな大人になるために(ファーマーズテーブル 石川博子さん)
ライター 片田理恵
大人になるってなんだろう? 第3回のおしゃべりにつきあっていただくのは「ファーマーズテーブル」の石川博子(いしかわ・ひろこ)さんです。
「新聞(第一話参照)にこんな記事があったんです」と取材依頼のメールをすると、「その子はすばらしい感性の持ち主。すてきな大人になりそうですね」と返事をくださいました。
1985年、東京・青山の同潤会アパートに生活雑貨の店を開いた石川さん。その後恵比寿に場所を移し、ファーマーズテーブルは今年で39年目を迎えます。
大人って「年齢のこと」じゃない
石川さん:
「連絡をもらって思い出した景色があるんです。もう10年以上前のことなんだけど、小学生の男の子がふたりとそのお母さんたちがお店にいらしたんです。ひとりのお母さんは赤ちゃんをおんぶしていてね。
片方の男の子が何か買い物をして、もうひとりが自分も欲しいって騒ぎ出した。そりゃそうですよね。お母さんはどうするのかなと思ったら、赤ちゃんをおんぶしたままその男の子の視線の高さまでかがんで、こうこうこういうわけだから今日は買わないよ、と静かに説明したんです。
そうしたら男の子がスーッと落ち着いたの。子どもなりに納得できたんでしょうね。私はそれを見ていて、このお母さん、若いのにえらいなぁって思ったんです。この子はきっとすてきな大人になるだろうなって」
「そういう、若くてもちゃんと大人としてふるまえる人っているでしょう? 憧れますよね」とにっこり笑う石川さん。
大人って、年齢のことじゃない。その考え方にハッとする気持ちがしました。予測不能な子どもへの対応は、まさに大人としての姿勢が露呈してしまうところ。騒いだことを叱るのではなく、流されて買い与えるのでもなく、伝えるべきことを伝えて落ち着かせる。確かに、憧れます。
石川さん:
「私、私立の小学校から区立の中学校に進学したんです。だから最初は知り合いが誰もいなくてね。さりげなくみんなの輪の中に入れてくれたのは、実家がお蕎麦屋さんの友達でした。遊びに行くと彼女のお母さんがお蕎麦をふるまってくれるんですよ。お店だって忙しいのに。
それで思ったの。そういうお母さんを見て育ったから、彼女もこんなふうにできるのかなって」
褒めて、褒められて、大人になる
すてきになりたい気持ちはあれど、最初の一歩の踏み出し方がわからない。だからいい見本やお手本を見つけては心に留めておく。いつか、あんなふうになれるように。
石川さんもずっとそうやって歩んできたといいます。そして、いろんな大人のいいところを自分なりに取り入れようと始めたのが「褒める」こと。
石川さん:
「今、娘と一緒に働いているんです。そんな予定じゃなかったんだけど、ひょんなことからそうなって。最初の数年は、まあ、ギスギスしていました。
住んでいる家も同じ、職場も同じ、定休日も同じだから、娘も気が休まらなかったでしょうね。家に帰ってくつろいでいる時に『あの仕事はこうしてね』なんて話しかけられるわけだから(笑)」
石川さん:
「よかれと思って仕事の指導やダメ出しをしたり、接客がなっていないと思えば出ていって代わったりもしていました。それが娘を苦しめていたってことは、ずいぶん後までわからなかったです。
ある時『私だってがんばっているんだから横から来て割り込まないでくれ』と言われて、なるほどそうかと。悪いことをしてしまっていたんだなと反省しました。
その時に、任せるところは任せて口を出さないようにしよう、彼女に対して『今日もお店に来てくれてありがとう』という気持ちでいようと決めたんです。朝はまず笑顔で『おはよう』。それから『その服似合うね』とか『美容院に行ったの? いいね』って褒めています。
そうしたら最近、彼女も私を褒めてくれるようになりました。一緒に働くようになってお互い少し大人になったのかもしれない、なんて思っています」
「飽きたらやめる」をやめた先に
ファーマーズテーブルを開く前、石川さんはスタイリストをしていました。仕事は楽しく順調だったものの、5年ほどでやめることを決意。もう一通りのことはやってしまった、おおよそのことは学んでしまったと感じて、ほかの仕事に目が向くようになったのだそう。
石川さん:
「私、子どもの時から何をやっても続かないんです。飽きちゃうの。ピアノに習字、ほかにもいろいろやったけど、ひとつも身についていない。スタイリストをやめる時も、隣の芝生がよく見えて。それが雑貨屋さんでした。
それでお店をやったんだけど、案の定、雑貨屋もやめたくなったんです。始めて1年くらいの時だったかな。主人は反対しませんでした。彼はいつも私を褒めてくれるし、認めてくれる人。その時も、やりたいことをやったらいいし、君の好きにしたらいいと言ってくれました。
でもその後にこう言われたんです。『だけど、やるべきことはすべてやったのか?』って」
石川さん:
「最初にそう言われたら『やったもん!』と意固地になったかもしれない。
でも気持ちを受け止めてくれて、その上で言われたものだから、素直にその言葉が聞けたんですね。まだやるべきことがあると思えた。それがそのまま、今日まで続いています」
石川さんは朝、出勤して扉を開けると、店内が「いい空気になっているかどうか」を、お客さんの視点で見るようにしているといいます。
もしもなっていなければ、それは「自分のやるべきことをやっていなかった」から。毎日自分に問いかけ続けることで、39年間を過ごしてきました。
これからの自分に期待しているんです
石川さん:
「ひとつのことを長く続けるっていいことだなと思います。
歳を重ねると、壁にぶつかるのも楽しくなるのよね。だってそれは前に進んでるってことだから。乗り越えるのは大変かもしれないけど、乗り越えたあとはまた成長してると思えば楽しみでしょう?
私自身、まだまだ大人として完成形とはいえないですね。だから地の自分、取りつくろっていない本来の自分を磨いていきたい。これからの自分に期待しているんです。どんなすてきな大人になれるんだろうって」
大人になることは、子どもの私となかよくすること。
大人になることは、私はがんばってきたと思えること。
大人になることは、もっとすてきな自分になれること。
3人への取材を終えた今、「大人になる」という言葉が、以前とは少し違った意味あいを持った気がしています。何かに秀でているから大人だというわけではないし、大人になったらもうそこで終わりというわけでもない。私たちはそれぞれのやり方で、今、大人でいることを、今、大人になることを、楽しめる。
大人になるってなんだろう? その答えがいくつもあるって、ちょっとすてきだと思いませんか。
(おわり)
【写真】川しまゆうこ
もくじ
石川 博子
ファーマーズテーブル店主。文化女子短大、文化服装学院卒。スタイリストを経て、1985年に生活雑貨の店を始める。著書に『「ファーマーズテーブル」石川博子 わたしの好きな、もの・人・こと』(主婦の友社)がある。
WEBサイト https://www.farmerstable.com/
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