【本屋の本棚から】前編:目的を定めず、あてどなく。「歩く」について考える4冊(不動前・フラヌール書店)
ライター 嶌陽子
ふらりと本屋さんに立ち寄って、本棚を眺める時間。それはとても幸せで豊かな時間だと感じます。
ふと目に入ったタイトルや表紙から思わぬ方向へと思考が広がったり、手に取った本の重みや手触りにほっとしたり。そこはいつだって五感を柔らかく刺激し、新しい発見をくれる場所です。
本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した特集。
第6弾で伺ったのは、東京・不動前にある「フラヌール書店」。店主の久禮亮太(くれ りょうた)さんに、今の気分に寄り添うテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。
▲東急目黒線・不動前駅から徒歩数分。住宅街の中にある店には近所の人たちはもちろん、沿線に住む人々や遠方からのファンも訪ねてくる。
▲本棚やカウンターなど、店内のほとんどが店主、久禮さんの手づくり。
▲文学、人文、社会、芸術、コミック、 絵本や子どもの本、暮らしなどの本が独自のテーマに沿って並び、じっくり店内を回りたくなる。
▲店主の久禮亮太さんは書店員歴20年以上。書店のコンサルティングや執筆活動なども行っている。
本日選んでいただいた本棚のテーマは「 “歩く” について考える本」です。それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。
今日の本棚
「 “歩く” について考える本」
実は久禮さんやフラヌール書店にとって「歩く」は関係の深い言葉。どんな思いで選書したのかを伺いました。
久禮さん:
「店名にある『フラヌール』は、フランス語で「遊歩者」という意味。「歩きながら考える」といったニュアンスのこの言葉が昔から好きです。
目的に向かって一直線に歩くのではなく、無目的にうろうろする時間があったほうがいい気がしていて。
あてどなく歩いている最中に、なんとなく目に飛び込んできたもの、それはおそらく自分の中で元々興味を持っていたことなのかもしれません。そういうことを大事にするのも面白いんじゃないかな、と。
それは本屋さんの楽しみ方にも通じる気がしています」
【本棚リスト】
『ノラネコの研究』伊澤雅子文、平出 衛絵 福音館書店
『街角さりげないもの事典』ローマン・マーズ、カート・コールステッド 光文社
『世界の「住所」の物語』ディアドラ・マスク 原書房
『「地図感覚」から都市を読み解く』今和泉隆行 晶文社
『音さがしの本』R.マリー・シェーファー 春秋社
『建築と触覚』ユハニ・パッラスマー 草思社
『暗渠マニアック!』吉村生、高山英男 ちくま文庫
『僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ』中村一般 シカク出版
『不完全なレンズで』ロベール・ドアノー 月曜社
『熊の敷石』堀江敏幸 講談社文庫
この本棚の中から4冊をピックアップ。久禮さんにコメントをいただきました。
猫の視点で町をうろつきたくなる
久禮さん:
「最初に紹介するのは大人の自由研究みたいな絵本。生態学の先生が、野良猫を本気で追跡調査したものです。
町の野良猫を見かけたらまず似顔絵を描いて、それぞれの個体を識別したうえで、ひたすら追いかけて観察しているんです。歩いたルートも記録して、猫たちが何をしているかを明らかにしていきます。
猫しか通れない塀の上を歩いたり、お気に入りの場所があったり……。これを見ていると、野良猫がいかに気ままに散歩ライフを送ってるかがよく分かります。
大人になると、“歩く” ってたいていは目的地へ最短ルートで向かう手段でしかなくなっているけども、猫は本当にうろうろして寝て、またうろうろして寝てるだけ。目的がないところがいいなあと思います。
自分の家の周りの見え方が変わるというか、猫の視点で町をうろつきたくなる、楽しい1冊です」
『ノラネコの研究』伊澤雅子文、平出 衛絵 福音館書店
街中の忘れ去られそうなものへの繊細なまなざし
久禮さん:
「この漫画の著者、中村一般さんも散歩の達人です。
アスファルトの隙間から生えている草、朽ちかけている建物、捨てられたバイク……。そういった、次に来たときにはなくなっていそうな小さな何か、でも実は街並みをかたちづくっている “人が暮らした痕跡” みたいなものをすごく丁寧に、繊細に見て歩いているんです。読むと路地裏に入り込みたくなります。
タイトルの『僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ』の意味は、作品のなかで語られてはいません。でも、町を自分の足で歩いて、愛おしいと思ったものを自分で見つける。そのことにすごく愛着を持っていて、それが自分の暮らしだと思っているってことなんじゃないかなと思っています。
商業化されていく都市のなかで忘れられていきそうなものを描き残しておこうという思いをひしひしと感じる、そんな作品です」
『僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ』中村一般 シカク出版
地図と仲良くなる方法って?
久禮さん:
「地図を愛してやまない著者による本。地図を見るときの視点や、地図を通して町の成り立ちをどう読み解くのかといったことについて、すごく具体的に書いてくれています。
地図をぱっと見たとき、方向やスケール感が分かりづらいときってありますよね。その際に、何を目印にすればざっくりとしたスケール感が分かるかなんていうことを丁寧に教えてくれます。そういう “地図と仲良くなる方法” もあれば、時代ごとの地図を見比べながら、町の歴史や変遷を読み解く方法もあったり。
自分の住んでいる町でも、旅で訪れた町でもいい。読むと散歩が充実するポイントを学べて、町歩きが楽しくなるはずです」
『「地図感覚」から都市を読み解く』今和泉隆行 晶文社
散歩という行為が、美しく味わいのある物語に
久禮さん:
「最後に紹介するのは堀江敏幸さんの作品。堀江さんは個人的に大好きな作家なんです。
主人公が南フランスの田舎にしばらく滞在し、散歩するというシンプルな話なんですが、この作品のみならず、堀江さんの手にかかると、ただの散歩がとても重層的な、味わいのある物語になるんです。
目の前に現れたディテールの美しさから、そこに宿っている歴史に視点がすっと飛んで、長い歴史を辿らせてくる。そこにはすごく豊かな知識の広がりがあって、そしてそれがまた目の前にあるものの手触りにしゅっと戻ってくる。そんなふうに世界が継ぎ目なく広がっていくような、豊かな散歩体験を味わえます。
その筆致がとても美しいなと読むたびに感じていて。彼のようなイマジネーションを持って町を歩けたら、なんて豊かな散歩になるのだろうといつもため息が出ます。
鮮烈なラストも含めて、小説としても面白い作品です」
『熊の敷石』堀江敏幸 講談社文庫
***
いつもより少しペースを落として、さまざまなものに目を向けながら歩いたら、普段の通り道さえ違う景色に見えてきそう。久禮さんのお話を伺っているうちに、散歩に出かけたくなってきました。
つづく後編では、「身体について考える本」がテーマの本棚をお届けします。お楽しみに。
【写真】土田凌
久禮 亮太
大学在学中に書店でアルバイト勤務を始めて以来、書店員歴25年以上。三省堂書店の契約社員勤務、あゆみBOOKS小石川店店長などを経て2015年、フリーランス書店員として独立。ブックカフェ・神楽坂モノガタリ、書店Pebbles Bookの立ち上げに携わる。2023年3月に「フラヌール書店」をオープン。著書に『スリップの技法』(苦楽堂)
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