【私たちの常連店】名曲喫茶「ライオン」前編: “非日常” への寄りみちで頭をからっぽに。
編集スタッフ 二本柳
ここに来るとホッとする。
常連店シリーズ第2弾は「ライオン」
10分でもいいから立ち寄って、コーヒーを一杯。
たったそれだけのことなのに、疲れた心はホッとして “素の自分” を取り戻すことができる。
そんな憩いの場はありますか?
シリーズ 「私たちの常連店」では、クラシコムのスタッフがつい足を運んでしまう、お気に入りのお店をご紹介しています。
第2弾は渋谷に佇む名曲喫茶「ライオン」です。
このお店は、わたし二本柳が紹介したいと思っていた場所。
渋谷・道玄坂という喧噪のただ中に佇む老舗店 「ライオン」 は、その佇まいからか、私にとってちょっぴり敷居が高いような存在でした。
でも 「大迫力の音響でクラシックが聴ける喫茶店がある」 という噂を耳にして、勇気をだして足を踏み入れたのが5年ほど前のことです。
扉を開けたとたん空気が変わり、まるでタイムトリップしたかのような不思議な感覚。
創業90年(移転後66年)という長い月日を経た店内は、それまで敬遠していたのがもったいないくらいに心地の良いものでした。
流行りのデザートがあるわけでも、奇をてらうメニューがあるわけでもない。淡々とそこにあり続ける喫茶店という場所に、初めて興味を抱いた出合いです。
この日、取材のために 「ライオン」 を改めて訪れたのは、まだ開店前の早朝。
出迎えてくれたのは三代目店主の石原圭子さんでした。
誰もいない店内でコーヒーを頂きながら、まるで宝物を見せるようにお店の話をする石原さんとおしゃべりを楽しみました。
そして、私はより一層、このお店が好きになりました。
皆さんにも 「ライオン」 の魅力を知ってもらうべく、前編では私がこの場所へ来たくなる理由を。後編では石原さんからお聞きした、創業当初からの常連さんたちの話を、いくつかご紹介したいと思います。
この場所へ来たくなる理由
今日を「いい日」にするための寄り道。
「ライオン」 では、毎日15時と19時に “定時コンサート” と称して、決められたプログラムのクラシック音楽を流す時間があります。
「同じ曲でも演奏者がちがうだけで別物だから」 と、プログラムには楽団から指揮者の名前までていねいな案内があり、まるでコンサートホールへでも来たような気分に。
内容はホームページでも確認することができるのですが、私はあまり詳しくないので行き当たりばったりです。
でも平日の夜、なんとか19時に間に合うとすごく嬉しい。
大迫力の音響設備で聴くクラシックは、非日常そのものなのです。
※定時コンサート以外の時間もリクエスト曲を流してくれます。
△月1で出している歴代のプログラム。初代店主は絵から宣伝文句まで、すべてを自作していたそうで、そのデザインがまた可愛い。
頭がごちゃごちゃになって 「今日はリフレッシュが必要だ!」 という時。「なんかツイてなかったなあ〜」 という時。そういう日の方が、腰は重たいけれど、寄りみち甲斐があります。
そして行くと決めたら仕事帰りにダッシュで駆けつけます。
重厚な扉を開けて席につき、550円のホットコーヒーを頼み、心を落ち着かせてから音楽に耳を傾ける。
そうしているうちに、スパッと思考が切り替わり、頭の中はすっかり空っぽ。
とはいえ長居はせずに、1時間ほど過ごしたら、いつも通り最寄り駅に帰ってスーパーの買い物袋を下げて家路につきます。
でも、これができた夜は、とっても良い日になるのです。
1人が心地いい。音楽を聴くための席づくり。
実を言うと、私は “1人” を上手に過ごせないタイプです。
休日に1人でふらりと美味しいものを食べに行ったり、雑貨屋さんを巡ったりする人の話を聞くと 「かっこいいなあ〜」 と憧れますが、私が行けるのはチェーン店のコーヒーショップくらいです。
でも 「ライオン」 は特別。
1人でも気兼ねなく、思いっきり “素” になって寛げてしまう。
その理由は、もしかすると席のつくられ方にあるのかもしれません。
ここでは、ほとんど全ての席が正面のスピーカーに向かって並んでいます。
だから家の外にいながら、自然と人目を忘れることができるんですね。
前回お届けしたシリーズ第1弾で、新宿 「ベルク」 の店主さんが、「トイレに入る時、人は一番 “素” の顔だ」 と話していたことを書きました。つまり本当にリラックスしている時、私たちは無表情であるはずだ、と。
これを聞いたとき、なるほど!確かに……と納得しましたが、ここでも同じことが起きているような気がします。
心なしか、お客さんからも 「音楽を聴く時間」 への敬意みたいなものが感じられ、店内に流れるのは程よい緊張感。
この “適度な緊張感” も、非日常を感じさせてくれるエッセンスのひとつです。
店内はほとんどすべてが手作り!という温かさ。
これは取材を通じて知り、それから一層 「ライオン」 が好きになった点でした。
「ライオン」 は昭和元年に初代店主・山寺弥之助(やまでら やのすけ)さんが24歳のときに開いた喫茶店。今のお店は戦後の昭和25年に、同じく山寺さんの手によって再建されたものです。
明治に生まれ、専門的な勉強をしたわけでも、大学に行ったわけでもない山寺さんでしたが、お店はすべてが彼のデザイン。
外装・内装はもちろん、店内の装飾、音響設備のデザイン、パンフレットまで……すべてを自分の手でデザインし、作り上げたそうです。
△精巧な透かし彫りも山寺さんの手作り。
現店主の石原さんによると、「彼は感性の人だった」 と。
70歳ほどで店を石原夫妻にゆずった後も、自邸で池を手作りしたり、滝を作ってみたり、そのバイタリティーと実行力は止まるところを知らなかったとか。
そんな山寺さんがお店に残したものを、ひとつひとつ丁寧に説明をする石原さん。その姿は、人の手をかけて作られた 「ライオン」 がいかに愛情たっぷりに、大切に守られてきたかを物語っていました。
私にとっての 「ライオン」 は、仕事帰りに寄りみちできる “非日常” の場所です。
渋谷の人混みにもまれて、正直ちょっとうんざりしながらも、やっぱりここへ来てよかったと思う。
ソファでどっかり座るような癒しではなく、ちょっぴり背筋がのびるような感じ。そういう種類の 「居心地のよさ」 というのもあるのだなあと、ここへ来るたびに思います。
とはいえ、私は 「ライオン」 の長い歴史を思えばまだまだ新参者。
この喫茶店の魅力を知るには、歴代の常連さんたちの話を聞いてみなければいけません。
そこで、約55年の間お店を見守ってきた三代目店主の石原さんに、ここに集まる人たちの話を聞いてみました。
続きは後編で。どうぞおたのしみに!
(つづく)
「名曲喫茶ライオン」
アクセス: 渋谷駅より徒歩8分
住所:東京都渋谷区道玄坂2-19-13
定休日: なし(お盆休み、年末年始休みあり)
営業時間: 11:00〜22:30
前編(10月4日)
“非日常” への寄りみちで頭をからっぽに。
後編(10月5日)
90年愛されつづける、喫茶店のストーリー。
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