【受け継いだもの】第2話:「こうしなきゃ」を手放してみたら、毎日の料理はきっと楽しい

ライター 小野民

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親から子へ、先輩から後輩へ、友人から友人へ……。

誰かに育てられ、その経験から受け継いだ価値観は、私たちの人生にどのように影響を与えるのでしょう。

シリーズ「受け継いだもの、こと」の第2弾では、料理家の真藤舞衣子さんにお話をうかがっています。

第2話では、IT関連の仕事を経て料理家になり、現在にいたるまでのお話をうかがいます。(第1話はこちら)

 

料理の道へすすんだのは「おせっかい」から

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食べることもつくることも好きな祖母と母の元で、料理の腕を磨いてきた真藤さん。

高校生になる頃には、スパイスから調合した本格的なカレーやお菓子をつくっては、友人たちに振舞っていたといいます。

しかし、短大卒業後に新卒で入社したのは、IT会社。料理家へと方向転換したのは、24歳のある日起きた、ひとつの出来事がきっかけでした。

真藤さん:
「小さな子どものいる友人宅に行ったときのこと、冷凍庫の中にずらりと並んだお弁当の中からひとつを取り、電子レンジで温めてそのまま食卓へ出していて。

もちろん忙しい日は、出来合いのものに頼ることもあると思います。でも『本当にそれでいいの?』と疑問を感じずにいられなかったんです。それが私の正直な気持ちでした

以前から、なにか疑問を感じたら放っておけない、自称「おせっかいな性格」。

自分の原体験の中にある、祖母や母との料理の記憶と照らし合わせると、やるべきことがある気がしたといいます。

そして、食の大事さを伝えていく道を選んだのでした。

_DSC3613▲パリ時代の仲間と思い出の一枚

会社勤めを辞めてまず赴いたのは、京都。お寺で1年間暮らし、四季を通じて野菜を育てて料理をしたり、座禅やお茶、庭づくりなど日本の文化も改めて学びました。

初めての農作業で意識した野菜の旬、育てる苦労や新鮮なものを食べる喜び。ここでの経験は、いま、真藤さんが料理を通じて伝えたいことの、核のひとつとなっています。

真藤さんはさらに、フランスに半年間留学し、お菓子づくりのディプロマも取得。日本でもお菓子店に勤務したのち、東京にmy-anを開店します。

 

まいにちの食卓を豊かにする、ちょっとの工夫

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実家のほど近く、赤坂にオープンした場所は、ただのレストランではありません。

「最初から、お店をするなら、伝えることもセットで料理教室をやろうと決めていました」というように、開店当初から料理教室を開き、それが人気となりました。(※現在は東京の店舗は休業中)

その後、2014年にオープンした山梨県山梨市のお店の料理教室にも、毎月近所の方から県外の方まで、たくさんの生徒さんが通ってきます。

520A6986▲店内には、真藤さんの著書や掲載誌が並び、自由に手に取れる

真藤さん:
「料理教室では、考えることが大事だと伝えています。同じ料理をつくるにしても、冷めないで出すには何を用意しておくか、とか。

作法とか、ささいなことも結構うるさく言ってます(笑)。

思い返すと、直箸はダメとか、箸置は季節によって変えるとか、実家でずっとやっていたことなんです。

なんでも簡単になっていく時代だけど、食べる知恵は知らないより知っている方が絶対いい。私が祖母や母から伝えられたことを、今のお母さん世代にも伝えられたらと思っています。

私が伝えたいことは、自分自身が日々豊かに生きていけるヒントなんだと思います。豊かな日々を送るときに、愛着が持てるものがそばにあるだけで励まされる。私にとってはすし桶がそういう存在なんですね」

そういえば、私の実家でも必ず取りばしが食卓にありました。一番年上の祖父から順番に箸を配り、最後が自分、とめいめいの箸を配るお手伝いが好きだったことも、真藤さんのお話を聞きながら思い出しました。

いま、私の夫と娘との慌ただしい食卓では、すっかり作法が抜け落ちていることを反省。ちょっとの時間は節約できていても、豊かに生きることとは遠ざかっていたかもしれません。

 

絶対においしい料理をつくる秘訣、知っていますか?

shindomaiko_insta▲ある日の真藤さんの食卓。揚げ物をしながらの煮物が、いつもの手順

一方、お店や料理教室、生出演のテレビ、書籍づくりなど毎日多忙なはずの真藤さんですが、ご自身のインスタグラムには、いつも素敵な食卓写真がアップされています。

その秘訣は?とうかがうと、「時間ないときは、いつも揚げ物にしちゃう。一番簡単なんですよ」と意外な答え。

家でやりたくない、めんどくさい料理の代名詞のように思っていた揚げ物の名前が挙がって驚く私に、さらに意外な答えが返ってきました。

真藤さん:
「私、つくりおきはほとんどしないんですよ。忙しいとそんな時間もなかなかないですよね。

揚げ物なら、家にあるものを衣にくぐらせて揚げるだけで立派なおかず。油をたくさん使うのが嫌だったら揚げ焼きでもいい。揚げ物とビールがあれば、私幸せなの(笑)」

私も、常備菜に憧れるものの、たくさんつくりすぎて余らせてしまったり、そもそもつくる時間を確保できなかったりするので、真藤さんの言葉にふっと心が軽くなるような気がしました。

真藤さん:
「一番大切なのは、どこで、何を、誰と食べるか。本当にそれに尽きると、最近つくづく思うんです。

絶対においしい料理をつくる秘訣、知っていますか?

食べさせたい相手がいて、その相手のことをよく考えること。そうすれば、どんな料理も、必ずおいしくなりますよ」

 

「こうしなきゃ」を手放したら、料理は楽しい

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私は長らく、料理が下手というコンプレックスを抱えていました。

レシピを見ないとなにもつくれない。レシピ通りにやったつもりなのに、家族にダメ出しをされたり、幼い娘にペッとされてしまったり。悪循環の末にすっかり自信を失っていたのです。

「相手のことを考えれば、必ずおいしい料理ができる」

真藤さんが自信たっぷりに言ってくれた言葉が、そんな私の中にすとんと落ちてきました。

夫と、1歳半の娘と囲む食卓ですが、大人も子どもも喜ぶものをつくりたい。

そう考えると、レシピには「歯ごたえが残る食感がポイント」と書いてあるにんじんの茹で方も、小さく切って、すぐにつぶれるくらいにじっくりゆがいてみる。

思い切って、おかずの味付けはほとんどせずに、お気に入りの調味料を食卓に並べておく。

難しいと避けていた、調理法やレシピを考えることは、思ったよりずっとわくわくすることでした。

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「こうしなきゃ」を手放してみよう、そして「家族の喜ぶ顔がみたい」と毎晩の夕ごはんを自分で考えてみよう。真藤さんに出会って、一歩踏み出す勇気がもらえました。

いま、自分や家族にとっての「おいしい」を探求する楽しみが、日々の豊かさにつながっていく気がしています。

(おわり)

【写真】土屋誠

 

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真藤舞衣子(しんどう まいこ)

東京生まれ。24歳の時に1年間京都の大徳寺内塔頭にて畑作業、土木作業や茶道生活を経験する。東京の菓子店で勤務後、赤坂でカフェ&サロン「my-an」をオープン。6年半営んだ後、結婚を機に山梨に移住。東京と山梨で料理教室を主催や店舗プロデュース、レシピ開発などを行う。最新刊は『おいしい発酵食生活 意外と簡単 体に優しい FERMENTED FOOD RECIPES (講談社のお料理BOOK)』。http://www.my-an.com/

 

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ライター 小野民(おの たみ)

編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。

 

連載「受け継いだもの」の過去記事はこちら>>uketsuidamono_cate_160831

 


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