【35歳の仕事論】第1話:憧れの人に聞く「35歳のとき、何をしていましたか?」(BEAMS鈴木修司さん×編集マネージャー津田)
ライター 小野民
進むべき道が見えてくる?35歳目前で、あきらめと可能性を天秤にかける
社会人になって10年が経ち、自分なりの「働き方」や「仕事についての考え」が染みついてくる35歳前後。世の中では、転職のラストチャンスなんてささやきも聞こえ、漠然とした不安が頭をもたげます。
「このままでいいの?」という不安とともに、自分の可能性にかけたい気持ちが、天秤の両端でぐらぐらと揺れるような気持ち。友達同士で集まったときの話題も、他愛のない恋話だった時代は終わりを告げ、暮らし、子育て、仕事など、生き方を語り合うことにシフトしてきました。
新企画「35歳の仕事論」では、35歳を前にちょっぴり悩みがちな編集スタッフ津田が、憧れの仕事をしている「あの人」に、仕事について、今気になっている質問を投げかけていきます。
第1弾は、BEAMSのバイヤー・鈴木修司さんに会いに行きました。
シリーズ第1弾に登場するのは、セレクトショップBEAMSにお勤めの鈴木修司さん(41歳)。
大学卒業後すぐにBEAMSに入社し、勤続19年。販売員を経て、BEAMSのレーベルBEAMS MODERN LIVINGやfennicaでは広く商品の管理を行うマーチャンダイザーを経験。現在は、BEAMSの40周年を記念して昨年新宿にオープンしたBEAMS JAPANのバイヤーをされています。
津田は、以前参加したあるトークショーで、いきいきと仕事について語る鈴木さんの姿がずっと心に残っていたそう。今回この企画を始めるにあたって、まずは鈴木さんにお話をうかがいに行くことにしました。
「会社員」でいながら、自分らしく働くには?
津田: 今日はよろしくお願いします。35歳ってひとつのターニングポイントではないか……という予感があって、まずは以前からお話をうかがってみたかった鈴木さんのところへお邪魔しました。
鈴木さん: ありがとうございます。僕なんかでいいんですか(笑)。
津田: はい!もちろんです。
鈴木さんは、アパレル中心のBEAMSにおいて、日用雑貨も扱う仕事を主に担ってきましたよね。ご自身も民藝や工芸品がお好きだということを聞いていたので、その造詣を活かせる今の領域は「好き」と「仕事」が見事に合致しているなあ……という印象で。
同じ会社員という立場にありながら、自分らしい働き方を開拓している鈴木さんは、私の憧れなんです。今日は、そんな活躍の裏にどんな想いがあるのか、色々と探ってみたいと思っています。
鈴木さん: よろしくお願いします!
父親ゆずりの楽天家?自分を信じてマイペースに
鈴木さん: 僕、基本的にすごくマイペースなんですよね。1回しかない人生なんだから、自分のやりたいことを、やりたいペースで進んでいきたい。
自営業で鉄工所をやっている親父から「人間いつ死ぬか分からない。だから常に好きなことやって、食べたいもの食っとけよ」と言われていたのも、大きいかもしれませんね。だから、だいぶ楽天家に育っています(笑)
津田: 素敵なお父さんですね。
鈴木さん: 会社の一員として働きながらも、自分のために仕事をしている感覚を大切にしています。ちょっと嫌なことがあったり、辛いことがあっても、自分のためだと思えばへっちゃら。
なにかあった時に助けてくれるのは自分自身だから、と思いながらやってきました。
津田: 「頼れるのは自分だけ」ってネガティブに変換されがちだけれど、いま鈴木さんから聞くと、挑戦するための言葉に聞こえます。
鈴木さん: でも、楽天家な自分でも迷った時期はあったんですよ。入社から5年目くらい、27、8歳で、社内公募でBEAMS MODERN LIVINGへの異動に手を挙げたときは、とにかく「環境を変えたい」と思っていたときでした。
BEAMS MODERAN LIVINGは、BEAMSが立ち上げたインテリア部門で、工芸や手仕事に興味があったので手を挙げてみたんですけど、正直軽い気持ちだったと思います。
でも、実際に新しい仕事を始めてみると、今までとは全然違う世界が広がっていた。そこでの経験が、社会人になって初めての転機だったと今振り返ると思います。
35歳、田舎に帰るという選択肢を手放した
鈴木さん: 振り返ってみると、確かに35歳もターニングポイントでした。ちょうど家を建てた歳なんですよ。
30歳のときに子供が生まれて、35歳で家を建てて、40歳でBEAMS JAPANという大きな仕事に関わって5年刻みで転機がありますね。
津田: なるほど……。鈴木さんが、35歳で家を建てる決意をしたのは、なにかきっかけがあったんですか?
鈴木さん: ずっと洋服が好きで、新卒でBEAMSに入社しました。入社するときも、いつかは三重の実家に帰って、自分の洋服屋をつくろうと考えていたんです。
でも35歳の頃は、fennicaというレーベルをまかされていて、責任のある仕事をやらせてもらっていました。20代の頃とは状況がどんどん変わっていたんですね。
それと同じ頃、鎌倉で民藝品を扱う「もやい工藝」を営んでいた久野恵一さんと出会って、家族同然の密接なつながりができたことも大きかった。ひとまず鎌倉に家を建てて腰を据えることにしたんです。
津田: もう三重には戻らない、という決意のようなものもあったのでしょうか?
鈴木さん: そうですね。長男なのでいずれは家に帰っても良いかなと思っていましたが、僕の人生、東京をベースに進んでみるべきなのかもという気がして。35歳前後で、「ここで生きる」と腹をくくりました。
つづく2話目では、20代後半、BEAMS MODERN LIVINGという新しい環境で、がむしゃらな努力をした経験についてうかがいます。
(つづく)
【写真】鈴木静華
もくじ
鈴木修司(すずき しゅうじ)
1976年、三重県松阪市生まれ。1998年「BEAMS」に入社。メンズ重衣料からメンズカジュアルを担当後、fennicaの前身であるBEAMS MODERN LIVINGの店舗スタッフに。その後fennica、B:MING LIFE STOREのMDを経て、昨年新たにオープンしたBEAMS JAPANに立ち上げから関わる。2005年、民藝の名店「もやい工藝」のオーナーである久野恵一氏との出会いにより、より深く濃く日本の伝統的な手仕事に傾倒し、民藝品をはじめとして生活雑貨の目利きとして活躍している。
ライター 小野民(おの たみ)
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。
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