【偏愛の雑貨たち】序章:手にした人の救いになれば。そんな想いで雑貨を届けています(店長佐藤)
編集スタッフ 寿山
「小学生だった頃、ある日学校から帰ると、玄関に脚立を立てて、ドライフラワーをたくさん吊り下げている母がいました。そんな風に、いつもせっせと部屋を飾る母の姿を見るのが好きで。自分たちが暮らす家を、生活を、より良くしようとする母の想いが、子どもながらに嬉しかった」
そう話す当店の店長・佐藤の雑貨好きは、母親ゆずり。今回はそんな佐藤の「雑貨愛」を紐とく特集です。
前編では、好きが高じて雑貨の販売を仕事にするまでのストーリーや、お客さまへの想いなどをお届けします。
店長佐藤の偏愛ストーリー
▲佐藤の母が愛読していた『私の部屋』
幼少期から、母が愛読するインテリア雑誌を盗み見しては、ページに出てくる雑貨やインテリアへの夢を膨らませていた佐藤。
いつしか母親に「こんなカゴだったら、うちに合いそうだね」「食卓を丸いテーブルに変えてみたいね!」と、提案するようになっていきました。
自分のプランが採用されると、何より嬉しかったといいます。
店長佐藤:
「近所の家具屋や雑貨屋で、母や自分が “いいな”と思った雑貨を買って、家に持ちこむことが楽しくて楽しくて。
母はあまり身体が強くなくて。時折、学校から帰ると寝込んでいる日もありました。だから新しい雑貨や植物と楽しそうに触れ合う姿を見ると、それはそれは嬉しかったんです。お母さん、元気そうだなって」
“好きな雑貨を買うことは、人をちょっとだけ元気にする” と、母の姿から悟ります。
わずかなスペースで、インテリアを楽しんでいた幼少期
▲4畳半の子ども部屋
インテリアが好きでも、高校生になるまでは自分の部屋がなかったという佐藤。はじめて与えられた子ども部屋は、兄と共有する4畳半の洋室でした。
部屋の一角にある、わずかな自分のスペースに、お気に入りのアイテムを飾ることがささやかな楽しみだったそう。
中学生になると、リビング横の6畳の和室を兄とシェアすることに。その部屋をカーテンで半分に仕切った、3畳の専有スペースを手に入れました。
そのタイミングで買ってもらったカラーボックスを、縦に置いたり、時には横に寝かせてみたりもして、雑貨や造花をディスプレイしていたのだとか。
▲ディスプレイを楽しんでいたカラーボックス
店長佐藤:
「お小遣いをもらうと、近所のショッピングセンターへ行って、好きな雑貨やカゴ、造花などを買ったりしていました。カラーボックスの1段1段にチェックの布を敷いたりして、買ったアイテムを飾るのに夢中で。あの時ディスプレイの楽しさに目覚めたのかもしれません」
そうして限られたスペースでも、少女の頃からインテリアを楽しでいたといいます。
店長佐藤:
「思い返してみたら、小さな部屋に似合う雑貨を買い集めていたあの頃と、暮らしにひとさじの “非日常” をもたらすアイテムを買い付ける今と、やっていることはあまり変わらないのかもしれません」
「何をすれば人を元気にできるんだろうと、ずっと考えていました」
母の姿や自分の経験から、好きな雑貨と触れ合うことで、人はちょっとだけ元気になると確信していた佐藤。でも具体的に何をすれば、それに繋がる仕事に就けるだろう?と、長期間、悶々と考えていました。
「北欧、暮らしの道具店」をはじめる前には、さまざまな仕事を経験。
その頃、仕事は仕事と割り切りながらも、オフの時間は “自分探し” を続けていたそう。英国式リフレクソロジーの資格を取得したり、アロマセラピーの勉強をしたり、カフェを開こうかと考えたり……
その答えが見つからないまま結婚して、なにを試しても八方塞がりのように感じていた頃、ある日 “自分が本当に好きなものは何だろう?” と考えながら、青山と原宿のインテリアショップや雑貨店をさまよい歩いていました。
北欧の雑貨と出合って、変わりはじめた人生
1日中歩きまわって、疲れ切って最後に入った店で、1客のカップアンドソーサーに出合います。
店長佐藤:
「もうまさにどん底の気分で入ったお店で、20代の頃から憧れている堀井和子さんが著書で紹介していた、ティーマのカップ&ソーサーをはじめて目にして。ひと目で気に入ったけれど、1客3,000円台と当時の自分には高い買い物でした。
でもどん底の自分に “これからは好きなことで生きていくんだ!” と言い聞かせるように、奮発して2客買って帰ったんです」
▲何度も読んだ堀井和子さんのエッセイ
それを機に、インテリアコーディネートの仕事に就いた佐藤は、3年後に実兄である当店代表・青木の誘いで「北欧、暮らしの道具店」を立ち上げることに。
開店当初はインテリアの仕事と兼業していましたが、お客さまに頂いたお便りがきっかけで、この仕事は自分の天職かもしれないと直感します。
店長佐藤:
「はじめて北欧で買いつけた雑貨を買って下さったお客さまから、“この雑貨があるから子育てのストレスを忘れられます” “ずっと探していたカップ&ソーサーを買うことができて、本当に幸せです” という内容のお便りをいただいて、『私の仕事はこれだ!!』と確信したんです」
「たかが雑貨、されど雑貨」と小学生の頃から感じていた佐藤にとって、31歳にしてやっと自分のメッセージが誰かに伝わったことは、何よりの歓びだったといいます。
「雑貨って、すごいパワーを持ってると思います」
▲好きな雑貨のテイストが定まったのは、北欧の雑貨に出合ってからだそう
雑貨が人をちょっとだけ元気にすると信じていた佐藤は、そんな持論を「北欧、暮らしの道具店」を通して、多くのお客さまに伝えることができると気づきます。
店長佐藤:
「雑貨って、大げさでなく、人に救いをもたらすものだと思っています。その原点には、母の姿があるのかもしれないけど、私も実生活では何度も救われてきました。
人生って、キレイ事だけでは済まないこともいろいろありますよね。なりふり構っていられない時や悩んでいる時でも、家にある雑貨たちに日々励まされているんです。
雑貨にはすごいパワーがあると思います」
「手にした人の救いになればいいなと思って、雑貨を届けています」
そんな佐藤が子どもの頃からいつも母に言われていたのが、「自分を大切にしなさい」ということ。さらに「自分を大切にすることは、他人を大切にすることに繋がるよ」とも言われてきたそう。
店長佐藤:
「自分を大切にできるよう、好きでいられるよう、好きな雑貨を身の回りに置いていて。いい時ばかりではなく、髪を振り乱しているような大変な時でも、好きな雑貨と目が合うと、 “自分をないがしろにはしてないよね” と思うことができます。
そうすることで、母に教えてもらったことも忘れずにいられる。忙しさで自分を見失いそうな時も、正気に戻れる。大げさな言い方かもしれませんが、私にとって雑貨は、精神世界を左右する大切な存在です」
お客さまが当店で買ったものを何年後かに見た時、
「わたし当時こういうものが好きだったんだ。これを買った後にいろんな事があって、いつの間にか変わってしまったけれど……こういうのが好きだったんだよね」
と、忘れかけていた本来の自分を思い出したり、取り戻したりする瞬間があるかもしれないと思いながら、この10年お店を続けてきたと佐藤は話します。
店長佐藤:
「雑貨を手にした人の救いになればいい。そんな想いで届けていて。共に働くスタッフにも、すごく責任と意義のある仕事なんだということを伝えたいと思っています」
佐藤にとって心の支えでもある雑貨について、幼少期から現在までのエピソードを、余すところなくお届けした前編。
後編では、そんな佐藤がインテリアを改造中というスタッフ山根宅へ。おすすめの雑貨を手に、山根家をスタイリングします。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
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