【チープ・シックのある暮らし】第1話:福田春美さん!チープ・シックを教えてください
商品プランナー 斉木
雑貨屋さんに行って、「かわいい!」と手に取ったアンティークのテディベアを見て、ふと冷静になる。
「でも、これを置いたら、わたしの部屋のイメージって崩れる? これってわたしのキャラじゃない……?」
はじめの胸の高鳴りは静かに消え、ぬいぐるみを棚に戻し、お店を後にする。
わたし・斉木のいつもの買い物風景です。
でも、あるとき思ったのです。わたしは一体、誰のためにモノを選んでいるんだろう? そこに住むのは、他の誰でもないわたしのはずなのに。
そういえば、数年前、ファッション誌で働き始めた頃も同じようなことを考えていました。
周りはみんな最新の洋服を着こなしていて、駆け出しのわたしはどうにかそこに馴染もうと、自分ではない誰かになろうと毎日必死でした。
そんなとき、仕事の資料として出会った『チープ・シック』という本が、わたしの肩の力をスーッと抜いてくれたのです。
そこに書いてあったのは、まず自分自身をとことん知ること。そしてファッションを楽しむのに、ブランドや価格、人目は関係ないという考え方。
もしかしたら、いまのわたしが目指すのは、好きなものを自分らしく使う、『チープ・シックな暮らし』かもしれない。
……と考えたはいいものの、自分らしいモノ選びやインテリアって、何から手をつけたらいいんだろう?
だからまずは、自分らしく暮らしを楽しんでいる人に、“チープ・シック” を教えてもらおう。そう考えたわたしの頭のなかには、ひとりの女性の姿が浮かんでいました。
福田春美さん、チープ・シックを教えてください!
わたしのチープ・シックの先生は、ブランディングディレクターの福田 春美(ふくだ はるみ)さん。
以前、当店の読みもの「わたしのターニングポイント」でご紹介した通り、2010年から様々なブランドや店舗のコンセプト作りやバイイング、時にそのシステム作りにまで携わる、ブランディング・ディレクターとして働かれています。
最近では、地方自治体や企業が主催する物産展の企画にも関わる福田さんは、仕事柄多くのモノを目にするはず。
その中で、家の中に迎え入れるものをどう選び、どう使うのか。そのアイデアをどんなふうに思いついているのか教えてもらいました。
一目惚れを信じる。福田さん流モノ選び
福田さん:
「わたしのモノ選びの基準はおおきくわけるとふたつ。
ひとつは、『一目惚れを信じる』こと。見ためが心地いいってことですね。はじめにいいと思ったものには、理屈ではいえない良さがあると思うんです。だから、自分のこころに正直でいることを大切にするようにしています。
ふたつめは『動線にハマるもの』。わたしの家は、こういうインテリアを作りたいというところからスタートしてないんです。毎日暮らすなかで、ここが使いにくいなぁというモヤモヤを流してしまわず、そこにハマるものと出会ったときに買う。
それまでは何かで代用せず、コレだ!と思うものと出会うまで気長に待ちます」
▲右にあるのがメッシュワイヤーの入れ物
福田さん:
「例えばこのメッシュワイヤーの入れ物は、葉山の古道具屋さんで300円くらいで見つけたんです。手を洗ったらその流れでハンドクリームをつけるので、このあたりに入れておけるといいな、とずっと思ってました。この形や素材感、吊るせるという機能がドンピシャで、本当に気に入ってます」
チープ・シックは、カッコつけて転んだ先にあるもの
今回のテーマは、“チープ・シック” 。福田さんは、この言葉にどんなイメージを持ちますか?
福田さん:
「チープ・シックを楽しめる人は、ブランドものや、世間でよしとされる価値観にならわずに、それが高かろうが安かろうが、自分がいいと思えるものをいいと言える人かもしれないですね。
ちょっといい家具のとなりに、100円均一のものも一緒に置けてしまうチャーミングさ、というのかな」
でもそれって、もともとモノを見るセンスがある人にしか無理なんじゃ……? わたしにはまだまだそんな自信は持てそうにありません、と不安を口にすると、
福田さん:
「若い頃はそう思えなくて当然ですよ!
わたしも20代や30代でカッコつけたり勘違いしたり、そうやってたくさん転んで、40代ですこしだけ楽になってきたんです。それまでは『ハイヒールの音がヒステリックでした!』なんて言われたくらい気取っていた時期もあったり(笑)
転んで立ち上がる途中で、『こうあるべき』という世間体や、カッコつけたいっていう見栄を捨てていったんだと思います。
いま若い方と仕事をさせてもらうと、みんな全然転ばないなぁと思います。もっと、自分イケてる!って勘違いしたっていいんですよ。そうやってカッコつけて大転びすると、起き上がるために知恵を使うじゃないですか。そういう工夫が人生を面白くするんだと思うんです。
何度も転んで、そこから立ち直る面白さを知ると、失敗しても『まぁこういうこともあるよね〜』って笑いながら修正できるようになる。そういう姿を人に見せてもいいんじゃないかなと思っています」
福田さんの、いまのキッチンとリビングを見せてください!
今回チープ・シックの先生を福田さんにお願いしたのは、Instagramや雑誌で見る福田さんのインテリアに、見たらすぐにわかる “スタイル” があったからです。
決してものが少ないわけではないのに統一感があって、○○風とカテゴライズできない、福田さんらしい空間だと感じていました。そしてどこかで、それは生まれ持ったセンスがあるからできることだ、とも思っていて。
でもその背景には、若い頃にたくさんカッコつけて失敗して、自分の価値観や考えかたを更新していった日々があるということがわかりました。
わたしは最近、いつ失敗しただろう。
つづく第2話、第3話では、そんな福田さんのキッチンとリビングのインテリア、自分らしい住まいづくりについてご紹介していきます。
(つづく)
【写真】岩田貴樹(2枚目以外)
もくじ
福田春美
アパレルショップの店長、マネージャー、バイイングアシスタントを経て『WR』を立ち上げ、2006年からパリで約3年半暮らす。2010年に帰国後、複数のアパレルブランドの立ち上げやリニューアルを行い、現在は『a day』、『to the north』、様々な企業イベントなどのディレクションを手がける。当店オリジナルアパレルのディレクターも務める。
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