【大人の涙】第2話:泣くとスッキリするのはなぜ?知らなかった涙のチカラ
編集スタッフ 奥村
大人になるにつれて、「泣くこと」に後ろめたさを感じるようになったわたし奥村。きっと同じように涙をぐっと我慢した経験のある人も、少なくないのではないでしょうか?
今回の特集ではそんな大人になってからの「涙」との向き合い方を、全3話で探ります。
第1話ではクラシコムスタッフに、日頃の涙事情について話を聞きました。つづく第2話では、心理カウンセラーの竹内好美(たけうち よしみ)さんをお招きして、そもそも涙とはどんなものなのか、意外と知らない涙のメカニズムや効能を伺います。
「涙」には意外なチカラがある?
竹内さんは、仕事や人間関係で悩みを抱える人への心理カウンセリングをメインに行っています。さらに、泣くことでストレスの解消を促す「号泣セミナー」というグループカウンセリングも不定期で実施。
そもそもセミナーを通じて「泣くこと」を提案するようになったきっかけは、カウンセリングの際、クライアントが泣くことで気持ちが整理され、悩みを自発的に口にできるようになる姿を多く見てきたから。
涙はただの感情の現れではなく、脳や心に何らかの影響をもたらしていることを実感し、注目するようになったといいます。
泣いたあと、スッキリするのはなぜでしょうか。
▲著書の「号泣セラピー(青春出版社)」(現在は絶版)
第1話でスタッフに実施したアンケートでは、「泣くとスッキリする」という意見があがりました。それは一体なぜなのでしょうか?
竹内さん:
「人の涙には大きく3つの種類があります。目の表面を常に潤している『基礎分泌の涙』と、目にゴミが入った時や玉ねぎを刻んで目にしみた時など、刺激を受けた時に出る『反射の涙』。
そして3つ目が、ふだん私たちが感情の動きにつられて流す『情動の涙』です。
自律神経には、体を興奮させる『交感神経』と、反対にリラックスさせる『副交感神経』があり、通常はそれぞれのつり合いがとれています。
でもストレスを感じると、交感神経の方が一時的に優位に働き、自律神経は乱れがちに。そんな時に、この『情動の涙』が自律神経のバランスを回復してくれるんです」
竹内さん:
「怒りや悲しみだけでなく、嬉しさなどのポジティブな感情であっても、過度なものはすべて『ストレス』になり得ます。
そうしたストレスで自律神経が乱れた時に、バランスを元に戻す役割をもつのが『セロトニン』という神経物質。これは、人が涙を流す時に多く分泌されると言われています。
『セロトニン』は、リラックス効果のある副交感神経を活発にするため、別名『幸せホルモン』とも呼ばれる物質。泣くことで『セロトニン』が身体をリラックスさせるから、涙を流した後は心が落ち着くんですよ」
感動して泣くことも、ストレス解消になる?
第1話で、涙もろいスタッフ、泣かないスタッフどちらにも共通していたのが、大人になってから感動して泣くことが増えたという実感。竹内さんのお話によると、それにはちゃんとワケがあるといいます。
竹内さん:
「左脳と右脳には、それぞれ違う役割があります。言語や論理的な思考を担当しているのが左脳。それに対して、芸術的な感性や感情を担当しているのが、右脳です。
映画を見て感動した時や、スポーツの試合で選手の奮闘に心打たれた時。涙が出る背景には、左脳がストーリーを解釈し、右脳がそれに共感することで『泣く』という仕組みがあります。
左脳がストーリーを理解できるのは、自分が経験してきた喜怒哀楽の記憶をもとに、状況を想像することができるから。また、たとえ経験したことのない場面でも、他者の気持ちを察することができます。
だから、苦労したことや大変だったこと、それを乗り越えて得た喜び、そうした経験を多く積んできた人ほど、人の状況に共感して涙を流すことができるといわれています」
感動や共感の涙は、大人になったことのしるしともいえるのかもしれません。
竹内さん:
「感動する映画や小説を観て思いきり泣いた後には、心がスッキリした経験のある方も多いのではないでしょうか。感動して流す涙も、『情動の涙』の一つ。ストレス解消に効果的だといわれているんですよ」
すべての涙が、良いわけではないんです
竹内さんに涙の意外な力を教えてもらって、「泣いてもいいんだ」と少し心が軽くなったわたし奥村。
けれど、意外な指摘もありました。
竹内さん:
「泣くことが、どんな時でもストレス解消につながるわけではないんです。
たとえば『今は泣いちゃいけない場面だ』とぐっと我慢しながらも、こらえきれずに泣いてしまう時。涙をおさえようとする気持ちの負荷で、かえってストレスが増大してしまうこともあるんですよ。
大事なのは、『泣いても大丈夫』と自分を肯定できる状況で、誰に気兼ねすることもなく手放しで泣けることです」
今まで「我慢しきれず泣いてしまう」ことが多かったわたし。その我慢がさらなるストレスになり得るというのは、ちょっぴりショッキングな事実でした。
「手放しで泣ける」状況って?
では「手放しで泣ける」状況って、具体的にはどんな時でしょうか?
竹内さん:
「やはり1人きりでいる時は、涙を流しやすい状況ですね。また、何かに感動して流す涙もその1つです。
何かに感動して泣く時は、気後れや「泣いちゃダメだ」という気持ちを抱くことはあまりないのではないでしょうか。
そんなふうに気兼ねなく、自分の感情のままに流せる涙こそ、実はいちばんのストレス解消につながっているんですよ」
竹内さんのお話を聞いて知った意外な涙のチカラと、ストレス解消には「手放しで泣くこと」が大切だというポイント。
けれどやっぱり大人だから、いつだって手放しで泣けるわけではないものです。
涙もろい人、泣かない人、それぞれがちょうど良い塩梅で涙と付き合っていくにはどうすればよいのでしょうか?
次回は竹内さんに、涙との上手な付き合い方を伺います。
(つづく)
【写真】木村文平
もくじ
竹内好美
心理カウンセラー。「竹内好美カウンセリング事務所」代表。東京大学文学部卒業後、20年間、広告代理店でコピーライター、クリエイティブディレクターとして活躍したのち、部下のメンタルの問題をきっかけに心理カウンセリングの道に進む。現在、東京や名古屋で不定期に「号泣セミナー」を主催し好評を得ている。http://jibunworks.web.fc2.com/
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