【金曜エッセイ】思春期あたりから苦手だった「ランキング1位」(文筆家・大平一枝)
文筆家 大平一枝
第十話:苦手な「ランキング1位」
思春期あたりから、ランキング1位になるものが苦手だった。きっとそれは誰にもよくあることで、私は人とは違うのだという自己顕示欲や、若さ特有の自意識の表れによるものだと思う。
それでもふつうは、二十歳も過ぎれば、1位だから嫌だという感情は薄まってくる。
ところが私は、けっこう最近まで、本や映画、音楽など、とにかくベストセラーをすんなり買ったり見たりするのに抵抗があった。ブランドもそうだ。みんなが買っているものを、色眼鏡で見ていた。
自分は天邪鬼だからしょうがないと、いつからか開き直っていた。そのくせ、天邪鬼を貫き通すわけでもなくだいぶ遅れてから鑑賞する。ベストセラーは半年後くらいに。映画はロードショーが終わってからDVDや2本同時上映のニ番館などで。だったら、みんなと最初から素直に見ればいいのに。結局、内心では人がいいというものが気になっているのだ。
じつは、今回忘れていたのは、つい最近まで自分が“人の決めた1位”が苦手だったということである。
良く行くカフェで毎日流れているイギリスの歌手の曲に惹かれ、CDを買ったらこの冬、どっぷりハマった。毎日聴いても飽きない。また、ベストセラー作家の取材で、資料のために過去の本を読んだら、ものすごく魅力的で圧倒的な筆力の高さだった。そんな調子で、1位になるものを抵抗なく楽しんでいる自分を通して、抵抗があった過去を思い出した次第なのである。
沢山の人がいいと思ったものは、やっぱりそれなりの理由があるものだなあと、あたりまえのことを再確認している。
なぜあの頃、1位が嫌いだったのか。
多勢に同調するのは格好悪いことと、いたずらに信じ切っていたからだろう。
人の評価でなく、本質的にものの善し悪しを判断できるようになるには、年月がかかる。そして、それは人それぞれ必要な時間が違う。
表現することをなりわいにしていると、いいものをいいと素直に認めるのがわりに難しかったりする。
しかし、自分はみんなと変わらないと認めたところから、本当の勝負は始まるのではないかと今は思う。そこからどんなものを生み出せるか。何を立脚点にするか。わたしの個性をどう生かすか。
こういう心境になった自分に、本当はちょっと驚いている。”丸くなった”というのでもないし、なにかをあきらめたのでもない。いいものを素直に認められる自分に、なんだかわくわくしている、という表現がいちばん近い。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。失われつつある、失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『dancyu』『Discover Japan』『東京人』等。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)などがある。朝日新聞デジタル&Wに、『東京の台所』(写真・文)連載中。プライベートでは長男(22歳)と長女(18歳)、二児の母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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