【暮らしの色あそび】前編:ペイントで模様がえ。 「部屋の一角」からはじめませんか?
ライター 嶌陽子
春もたけなわ。暖かい日差しや、草木や花の息吹に誘われて、「何かふだんと違うことをしてみたい」という気分になるのも、この季節ではないでしょうか。
そこで、ずばり提案です。暮らしの中で、“色” をもっと楽しんでみませんか?
エネルギーをくれたり、私たちをリラックスさせてくれたり、私たちが色からパワーをもらうことは少なくありません。シックなモノトーンもかっこいいけれど、心機一転の春は、そんな色のチカラを借りてみるのも良いかもしれません。
今回は、思い切ったチャレンジから、すぐに実践できるものまで、さまざまな “色の楽しみ方” を考えてみます。
色づかいに一目惚れ!黄川田としえさんを訪ねました。
お話を伺ったのは、料理家、フードスタイリストの黄川田(きかわだ)としえさん。数々の雑誌や広告などでレシピ紹介やフードスタイングを手がけています。
親子で楽しむ料理や食育をテーマにした活動も人気で、イベントやワークショップを行う “tottorante” を主宰。大忙しの毎日です。
夫と高校生の息子、小学生の娘と4人で暮らす都内のご自宅に伺うと、チャーミングな笑顔で迎えてくれました。
インテリアや食卓、ファッションなど、黄川田さんの暮らしは、色づかいの面で参考になることがいっぱいです。さまざまなものを見せていただきながら、色の取り入れ方、色がもたらす効果などについても教えてもらいました。
はじめての壁塗りは「一面だけ」がおすすめ。
▲テーブルは、友人から譲り受けたヨーロッパ製のアンティーク。鮮やかな壁の色によく馴染む。
築30年ほどだという一軒家。玄関のドアを開けて、まず目に飛び込んでくるのが、ピンクの壁。これだけで、テンションがぐんと上がります。
黄川田さん家族は、家の壁4ヶ所を、自分たちで塗ったのだそう。
黄川田さん:
「この家は、実は賃貸なんです。入居時に壁紙が古くて、汚れている部分があったんですが、大家さんに壁紙は張り替えないと言われて。
それならばと、許可をもらって、数ヶ所を塗ることにしたんです。玄関は、お客様が家に入った時に明るい気持ちになってほしくて、この色を選びました」
玄関から続くリビングの壁の一角も、鮮やかなピンク色に塗られていました。
家族写真がたくさん飾られた、温かみのあるコーナー。フォトフレームはバラバラですが、印象的な色壁のおかげで統一感が出ています。
リビングとつながっているダイニングスペースにある壁も、作り付けの木の棚とイエローがよく馴染んでいました。
飾られているのは、子どもたちが合作したカラフルな絵や、友人のアーティストの絵作品、家族写真など。鮮やかな色合いの絵が、壁の色によく映えます。
それにしても、鮮やかなピンクやイエローなどの色は、壁に塗るには少し勇気がいりそう。どうしてこの色を選んだのでしょうか。
黄川田さん:
「夫が、メキシコの建築家、ルイス・バラガンの自邸が大好きなんです。その色彩を、どうやって自分たちの家に合うように取り入れるかがテーマでした。
最初に友人のウォールペインターに “ピンクも使いたい” と相談した時は、すごくびっくりされました(笑)でも、自分たちらしい家になるのでは、と思って決めました」
リラックスしたい寝室は「深い海の中」をイメージ。
▲シンプルなチェストは北欧ビンテージ。
4ヶ所塗った壁のうち、最後の1ヶ所は寝室。ここだけは一面全部を塗りました。
黄川田さん:
「寝室は、リラックスする場所なので、“深い海の中” をイメージしました。朝は日差しが当たって明るいブルーに見えるんですが、夜は深い紺色のように見えて、眠りへと誘ってくます」
壁を塗ったら、植物や雑貨が生き生きして見えるように。
黄川田さんにとって、壁を色で塗った最大のメリット。それは、日々絶やさずに飾っているという植物が、これまで以上に生き生きして見えるようになったことでした。
黄川田さん:
「植物は昔から大好き。ここに引っ越してくる前の家でもたくさん飾っていましたが、色をバックにすることで、そのきれいさがぐっと映えるようになったと思います」
植物だけではありません。飾ってある小物も、色壁の前に置くことで、素材感や色味がより際立つことに気づかされます。かごなどの自然素材のアイテムを置くと、全体の雰囲気がしまりますよ」
壁に色を塗る時のコツ、注意点は?
塗ったのは、ごく一般的な壁紙クロス。黄川田さんが友人のウォールペインター、須磨阿弥さんから受けたアドバイスの中で一番大事だったのは、“塗る前にきちんと養生すること” でした。
黄川田さん:
「周りの壁や家具にペンキがついてしまわないよう、業務用のマスキングテープを貼ったり、壁の手前に家具がある場合は、ビニールで覆ったりしました」
▲縁の部分にペンキがはみ出ず、きれいな仕上がり。
縁の部分など、細かい場所は刷毛を使い、あとの平面は、ローラーで塗りました。一度塗ったら数時間かけて乾かし、そのあともう一度塗って完成です。
黄川田さん:
「2度塗りすると、色がよく出ます。2度重ねて塗るとムラも出ないので、塗る方向を統一しなくても大丈夫です。
実は、寝室だけは、ペンキが足りなくなってしまい、2度塗りしていません。だからムラがあるのですが、今はそれも味のひとつかなと考えています。それぞれの好み次第だと思いますね」
使用したのはアメリカの “ベンジャミン・ムーア”というメーカーのペンキ。乾きも早いし、臭いがないので、塗っている最中も快適だったといいます。
黄川田さん:
「頻繁に塗り直しはしたくなかったので、色は慎重に選びました。たくさんの種類がある中、色見本を取り寄せて、1ヶ月くらい悩みましたね。
同じ色でも時間帯によって見え方が変わるので、朝と晩に同じ色見本を壁に当ててみるなどして、イメージを膨らませました」
家の中に色を楽しめるスペースが何ヶ所かあるのが、家族にとって、ほっとする要素のひとつになっていると、黄川田さんは語ります。
「私はものを飾るのが好きなので、ものが映えるようなコーナーを作りたかったという思いもありました。
へこんでいる小さなスペースのような壁があれば、ペンキ塗りも意外とハードルが低いので、おすすめですよ」
「自分たちらしい家を作りたい」という思いで、大胆な色を取り入れたインテリアを楽しんでいる黄川田さん。後編では、日用品やファッションなど、日常のちょっとしたシーンでの色の取り入れ方を教えてもらいます。
(つづく)
【写真】鈴木静華
もくじ
黄川田としえ(totto)
料理家・フードスタイリスト・tottorante主宰。メディアでのフードスタイリング、レシピ開発、出演などをはじめ、料理講師、カフェメニュー監修など多岐にわたり活動中。フードスペースやその空間を演出するイベント等のフードケータリング、子どもたちの心と体の成長をサポートする家族向けワークショップを各地で開催中。著書「毎日のごはんと心地よい暮らし(宝島社)」など。
ホームページ toshiekikawada.com
Instagramアカウント @tottokikawada
ライター 嶌陽子
編集者、ライター。大学卒業後、フリーランスでの映像翻訳や国際NGO職員を経た後、2007年から出版社での編集業務に携わる。2013年からフリーランスで活動を始め、現在は暮らしまわりの記事や人物インタビューなどを手がける。執筆媒体は『クロワッサン』(マガジンハウス)、『天然生活』(地球丸)など。プライベートでは1児の母として奮闘中。
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