【チャーミングに生きる】西田尚美さん〈前編〉石橋は、叩かず渡る。失敗は必要なことだから

ライター 長谷川賢人

「西田尚美さんがチャーミングな理由って、なんだと思います?」

ドラマに出ていた彼女について思い出すことは、演技と感じられないほどの自然さでした。登場人物の「今日」だけではなく、昨日は昨日の、明日は明日の暮らしが続いていそうなほどの。肩に力なんて入っていない、「その人」として在るたたずまい。

今年の4月に公開した「北欧、暮らしの道具店」オリジナル短編ドラマ『青葉家のテーブル』で、主演の青葉春子役を演じた西田尚美さん。春子の気取らない性格が西田さんの雰囲気とぴったりでした。

今回、ドラマ製作に携わった店長佐藤や、スタッフ二本柳によると「西田さんは、とにかくチャーミングな人!」とのこと。

なにしろ、そもそも気になるのです。人は、なぜ、誰かを見て「チャーミング」と思うのでしょう?

▲左から、店長佐藤、西田尚美さん、スタッフ二本柳

たぶん、いろんな理由があって、いろんな思いがあるはずです。ただ今回、西田尚美さんの言葉から教わったのは、「チャーミングとは、にじみ出るものだ」ということでした。

容姿や振る舞い、着ているものだけでは作られないんです。もっと大事なのは、心の窓の開け方。自分の強みも弱みも知って、人生から得てきたものを使って、「わたし」という人をまわりに押し付けることなく表現できることです。言い換えると、チャーミングな人って「上手に自己開示できている人」なのかもしれません。

インタビューは、今日と明日の前後編。この「チャーミングをめぐる探検」は、西田尚美さんが故郷の広島をあとに、東京へ出てきたところから始まります。

 

石橋は、叩かないでササッと渡るタイプです。

広島県福山市で育った西田尚美さん。両親や親戚も公務員を務めており、「きっちりしている家庭」だったといいます。高校生の頃から公務員になる期待を寄せられていましたが、心に浮かぶのは進学への想い。取り寄せた学校案内を机に置いてアピールするも、資料は目にするだけで捨てられてしまうほど……。

西田尚美さん:
「でもある日、この先に続く暮らしの風景とか、未来のビジョンが見えてしまったように感じて。もっと未知のことへ、どうなるかわからないけれど、とりあえず飛び込んだほうがいいんじゃないかと思ったんです。大阪あたりへ出て行く友達はいましたが、どうせ出るなら何でも選べて、自分にもやれることがきっとあるはずと思える東京にしようかなって」

祖母の助けを得て、親を説得。18歳の西田尚美さんは漠然とした憧れを胸に上京します。

未知へ飛び込むことの怖さはなかった。それは今でも続いています。

西田尚美さん:
「わたしは石橋を叩かないタイプ。叩く前にササッと渡って、問題にぶちあたってから『まずい!』って思うような(笑)。それでも、とりあえず行くというのが、自分には合っているんですね。

人生で選択に迷ったときも、迷うなら行ったほうがいいと思う性格です。じたばた悩む時間はもったいないですから。『時間には限りがある』というのを、中学生の頃に亡くなってしまった母親を見て、わたしは感じ取ったんだと思います」

 

いつでもギアは、ニュートラルに入れ直せる

そして始まった、服飾やデザインの専門学校である「文化服装学院」での日々。当時はDCブランドが花盛りで、着たい洋服もたくさんありました。新宿ミロードにあった靴屋、下北沢の雑貨屋、青山のイタリア料理店……あちこちでアルバイトに精を出すなか、学校の友達から誘われたのが「モデル」でした。

西田尚美さん:
「モデルのことなんて何もわからず、とりあえず事務所へ電話しました(笑)。呼ばれたので行ってみたら宣材写真を撮る流れになったんです。そこから少しずつ、仕事をするようになって」

とはいえ、モデルの仕事は順風満帆ではありませんでした。初めての撮影は「直立不動でカチンコチン」。それでも雑誌編集者が「来月もお願い」と声をかけてくれたことから、その期待に応えようと仕事を重ねていったそう。

西田尚美さん:
「もし、この仕事で食べられなくなったり、別に楽しいことが出てきちゃったりしたら、いつでもギアをニュートラルに入れ直せると自分では思っていたんです。生活レベルも変わるし、苦労もあるだろうけれど、とりあえずは『なんとかなるんじゃないか』って。上京したときの貧乏暮らしも、それはそれで楽しかったですしね」

 

挫折や失敗があるたびに修正して、好きなほうへ向かっていく

モデルの仕事で袖を通すことも手伝って、洋服への興味は尽きなかったといいます。

西田尚美さん:
「MILKが好きだったときもあったし、古着を探しまわったことも。モデルのころはアメカジブームで、撮影で着た服を買ったりするようにもなって。

そうしたら、自分が好きなのはダッフルコートやローファーといったトラッドの系統にあるものだと感じてきたんです。当時の雑誌でいうと『mc Sister』や『Olive』に載っているような定番アイテムですね。

良いものを長く着るスタンスが自分に合っているなと思って、形が好きなニットの色違いを買い揃えたりしました。たしか、23歳ぐらいのころです」

今でも試着はたくさんするそう。それは「失敗したくない」という気持ちからではなく、「お金が減らないほうがいいから」というシンプルな理由です。むしろ、失敗は必要なことだと考えていました。

西田尚美さん:
「恥をかくとか、損をするとかは、経験としてあったほうがいいって思っちゃう。役者の仕事につながることもあるけれど、挫折や失敗をしているほうが、たぶん人間的にも魅力が出てくるはずだから。それに、そういう体験がないと、わからないことのほうがいっぱいあるはずですよね。

そのたびに自分を修正して、修正して、こちらのほうがいいかなって正して、好きなほうを選んで生きていくんだと思うんです。だから、挫折や失敗って大事なんですよ」

 

「まったく興味がなかった」女優としてのスタート

雑誌『an・an』や『non-no』などでモデルを務め、走り出した西田尚美さんにドラマオーディションの機会が持ち込まれます。本人いわく「まったく興味がなかった」そうですが、担当マネージャーから強く請われて会場へ。オーディションでは、たまたま見知ったモデル仲間と台本を読み合うことになり、ホッと一息つくほど。

結果は、西田尚美さんがヒロインを務めることに。しかし、モデルデビューの頃と同じく、ご自身で振り返っても「初めては悲惨な出来で……ほんとうに」と苦笑い。

西田尚美さん:
「3ヶ月の撮影を終えたら、今回みたいにヒロインではなく端役を演じたくなりました。もっと外側から現場を見てみて、ドラマのことを俯瞰したくなったんです。そこが女優としての再スタートでした。

ギアをニュートラルに入れることもできたけれど、負けず嫌いの性分が出ちゃったんでしょうね。女優を辞めるにしても、こんな宙ぶらりんのままじゃなくて、もっとその世界が見えてからがいいなと思いました」

再スタート後は、女優としてのキャリアを着実に積み上げます。結婚し、2008年には第一子を出産。女性としての転機も経験します。後編では、新しく始まった生活のこと、お子さんとのことなど、プライベートな西田尚美さんの一面を伺っていきます。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門
【ヘアメイク】茅野裕巳<Cirque>
【スタイリスト】岡本純子
【衣装協力】
・ワンピース、タンクトップ:共にTOUJOURS
・パンツ:ikkuna/suzuki takayuki
・その他:スタイリスト私物

▼ドラマ本編 (17分)はこちらから!

 

もくじ

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西田尚美

女優。広島県出身。文化服装学院を卒業。モデルを経て女優に転身。近年の出演作に映画『リバーズ・エッジ』『友罪』『美知の通勤電車』、ドラマ『三匹のおっさん シリーズ』『監査役 野崎修平』、舞台『新世界ロマンスオーケストラ』『すべての四月のために』など。公開待機作に映画『生きてるだけで、愛。』(2018年秋公開)、ドラマ『いよっ!弁慶』(NHK BSプレミアム/10月31日21時〜)がある。ほかにもCM出演やWEBマガジン『marble』で書き手を務めるなど幅広く活躍する。2008年には第一子を出産し、育児と女優業の両立に奮闘するママでもある。

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ライター 長谷川賢人

1986年生まれの編集者、ライター、スピーカー。日本大学芸術学部文芸学科卒。紙の専門商社やビジネスメディアを経て、「北欧、暮らしの道具店」元スタッフ。2016年よりフリーランスで活動。ウェブメディアを中心に、インタビューや対談構成などを手がける。趣味はサウナと銭湯と料理。インターネットとラジオを愛する。影響を受けた作家は吉行淳之介と江國香織。


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