【好きな色はなんですか?】ゆらぎながら自分を生きていく。"素” のままに近い「白」(滝口和代さん)

ライター 瀬谷薫子

料理家さんがつける白いエプロン、写真家さんが着る黒い服。日々身にまとう色には仕事柄があらわれるように思います。

自分を鼓舞する日の赤い口紅、歳を重ねてから好きになったピンク。色は、ただ身につけたいという理由だけでない、そっと背中を押してくれる力を持っているような気がします。

好きな色はなんですか? 色から、大切にしていることの話を聞きました。


滝口和代(たきぐちかずよ)

山形県出身、美容室を営む実家で育つ。ものづくりへの興味から大学で服飾を学び、卒業後はファッションブランド「nest Robe」のプレスに。現在はフリーランスでファッションブランドのディレクションやPRなどに携わる。

ーーー好きな色はなんですか?

白です。 ”素の色” 、という方が近いかな。羊毛や麻の糸、無垢の木。何色にも染められていない、そのままの色が好きです。



「nest Robe」など人気ファッションブランドのディレクションやPRを手がける滝口さん。2022年にはオリジナルレーベル「fofo fofa」を立ち上げ、今年は初のソーイング本を出版。

目まぐるしい日々。それでもいつも笑顔で、表裏を感じさせない姿には、素の色という答えがしっくりきます。


ただお話を聞きに行った日の滝口さんは、いつもより少しだけ元気がないように見えました。

「好きだった庭の木が枯れてしまって、この間、切ったんです。あそこの、ホットケーキみたいな切り株です。

植木屋さんにお願いしたんですけど、切られているのを見たら、可哀想になっちゃって。だってきっと痛いですよね。

庭は難しいです。昨年まで元気だった木が急に枯れて、代わりに別の木が元気になったり。もう15年も傍で見ているのに、わからない。でも、こればかりは自然のルールに任せるしかないんでしょうね。人と同じです」

子どもの頃、集団の中で生まれるルールに倣うことが苦手だったといいます。

「中学生のとき、朝礼の時間が嫌でした。大勢がひとつの場所にぎゅっと集って、右向け右、きっちり整列したあの空間。

同じように動かないといけないルールみたいなものが、どうしても肌に合わなくて。頑張って順応しようとしていたけど、しょっちゅうお腹が痛くなっていました」

「実家が美容室をやっていて、そこで働くスタッフやお客さん、たくさんの大人に囲まれて育ったんです。

それはそれで楽しかったけど、いつも周りにいろんな大人の価値観があって、少し窮屈だった。ルールが苦手なのは、だからかもしれません。


数年前、友人とロンドンに行ったんです。その時に、バスがまったく時間通りにこなかったんですね。友人は怒っていたんだけど、私は不思議なことに、なんだかすごくほっとして。きちんとしていないものに出会ったときにすごく癒されちゃったんですよね。

にんじんを食べながら歩いてるおばあちゃんとか、バスの中でプリンを食べてる人とか、向こうの人はなんだか、人間的で、本質的。自由で、すごくいいなあと思ったんです。なんでだろう、本当は私、気持ちが不良なのかもしれない(笑)。

社会も大勢の集団じゃないですか。もちろん楽しいこともたくさんあるけれど、心のどこかで、やっぱり順応しなきゃと頑張っているのかもしれません」



ふわんと浮きたいときの白、感覚を落としたいときの黒。

「白は私にとって軽い色です。着ると、背負っているものがなくなるんですよ。重たいリュックを下ろしたみたいな気分になる。

だから家に居る日とか、今日はもうふわんとしてていいわっていう日には、白や生成りを着ます。海に行くと気持ちが浄化されるような、リセットする感覚に近いです。


でもね、会社に行く時は黒を着ます。会議の時とか、感覚を深いところまで下ろして、皆でぎゅっと頭を使って考える時。自分の中にあるものを見つける時には、黒やネイビーがあった方がいい。色ってハートに左右するのかな。私にとっては、そうなんだと思います」

服作りへの興味から、ファッション業界に入りました。

専門学校で服飾を学んだのち、知人の紹介でご縁があった「nest Robe」へ。メンズラインの配属を希望して入社しました。

「ものづくりに憧れたのは、美容師だった母親の影響もあります。人を綺麗にして、笑顔にする。そのやりとりを見ながら育ってきたから、手仕事ってかっこいいなと思ったんです。

元々はメンズ服が好きで。メンズはレディースのそれとはまた違い、いろんなところにギミック(仕掛けや工夫)があり、その理由となる物語があるんです。

たとえば農作業用のワークパンツには、手を入れやすい角度のポケットがついているし、大工さんのカーペンターパンツには、ハンマーを入れるポケットがある。そういう背景をひとつひとつ紐解いていくのが面白かった。

販売の仕事をするならまずはそこを知りたいと、ショップスタッフをしながら、作る現場に混ぜてもらう時期もありました。

それに、そこまで理解した上でお伝えすると、お客さまも納得して対価を支払ってくださる。そこに手ごたえを感じました」



流されるとしても、自分らしく流れていたい

「今はPRの仕事をしています。でも、人にモノを伝えることの難しさを日々感じています。

少なくとも、かわいいや素敵だけではないって。伝える側がモノの成り立ちを知り、それに対して自分がどう思うか。 ”I think” を入れられて、はじめて届けられるものがあるんじゃないかと思っています。

ひとつひとつのことに、もっと時間を割きたい。忙しいからって何かを見失ったまま走り、あとで振り返った時に大切なものを落としてるなんてことにならないようにしたいです」

「ただ最近になって、時には流されてもいいのかも、とも思えるようになってきました。だってやっぱり限界があるから。

仕事があるけど、子どもがいて、暮らしもある。できると思ってとりかかっても、自分ひとりの力じゃできないことがたくさんあります。


樹木希林さんの『死ぬときぐらい好きにさせてよ』っていう言葉があるんです。テレビCMで、川に漂っている樹木さんの姿を見たことがあって。それがときどき脳裏に浮かぶんですよ。

もちろん、流されないでもうちょっと粘ればよかったと思うときもあるから、黒やネイビーの自分も大事にしたいとは思うんですけど。

自分らしく流れられるなら、流されても案外いいのかもしれないと。たぶん、流れることは自分にとって ”白” なのだと思います」


人は、ゆらぎながらバランスをとる生きもの

「人間って、上がったり下がったり、不安定にゆらぎながら安定している生きものなんだと思います。

動いたり動かなかったり、食べたり食べなかったり、暑い寒いもそうですよね。そうやって交互に繰り返しながら、無意識にバランスをとっている。

このところずっと忙しかったんです。ガシガシ頑張ってきた。それもすごくハッピーで楽しかったけど、やりたいことを全部やって、すっからかんになった。だから今は少しだけ静かでいたいのかもしれません」

白いワンピースを着た滝口さん。今日お会いしてはじめに感じた印象が、繋がりました。

「毎年夏になると、故郷の山形に帰っています。親戚のおじさんが、山で採った木の皮でかごを編んでいて。

それを見るたび、世の中にはブランディングやPRなんて必要ないくらいに素晴らしいものがあるなって思います。

これからはそういうものに光が当たる時代になればいいと。そう思っています」

数日後、SNSにあがった滝口さんは、全身黒のセットアップを着ていました。その表情は、何かに吹っ切れたように凛として見えました。

次は何に感覚を落とし込んでいくのでしょうか。新しい何かを見つけたのかもしれない。

またお話が聞いてみたくなりました。


【写真】吉田周平



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