【民藝から考える】第2話:より良い暮らしとは?今も昔も変わらないモヤモヤから生まれたもの
編集スタッフ 松浦
「今よりもっと、いい暮らしを」
約100年前、そんな想いを持った人たちにより生まれたと言われる「民藝」。
彼らは、誰も目に留めることのなかった、日常の生活道具こそ美しいと語り、それらを「民衆的工芸」=「民藝」と名付けました。
「美しい」ってだけじゃない。「昔のものっていいよね」と懐かしむものとも違う。気になってはいるものの、その定義も境界線もよくわからず、なんだかもどかしい…… 一体、民藝って何なんだ。
特集「民藝から考える」では、民藝好きのわたし松浦と、その熱意を受けて少し興味を持ち始めた、民藝初心者のスタッフ二本柳が、民藝を通して、これからの暮らしのヒントを探っていきます。
2話目では、民藝を考えていく上で知っておきたい基礎知識から、今の時代に合った民藝を考えていきます。 お話を伺うのは、引き続き「みんげい おくむら」の奥村忍(おくむら しのぶ)さんです。
スタッフ二本柳:
「民藝という言葉が、ものについてだけではなく、『暮らし方』そのものを指してることは前回の話で少しわかった気がします。でも、そもそも民藝ってどんな背景で生まれたものだったのでしょうか。
暮らし方を改めて考えるなんて、世間で何かモヤモヤが溜まっていたんでしょうか?」
奥村さん:
「その通りです。民藝という言葉が生まれたのが、1926年。当時の日本は工業化が進み、大量生産の製品が少しずつ生活に浸透してきた頃です。便利になる一方、日本はさらに物質的な豊かさを追い求めました。
そんな暮らしに異議を唱えたのが、思想家の柳宗悦、作陶家の河井寛次郎、濱田庄司たちです。工芸といえば、観賞用の作品が主流だった当時、彼らは日常の道具にこそ、美があると唱えました。
こうした名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具を『民衆的工芸=民藝』と名付け、民藝運動を起こしたのがきっかけです。
こうした彼らの民藝の定義や、その後の活動を振り返った時、今の私たちの『暮らしのあり方』へのヒントがあるように感じたんです。
今の時代の『より良い生活』とは何だろうか。
民藝という言葉が生まれたのが、1926年。今から約100年も前のことです。現在に至るまで、私たちを取り巻く環境に、大きな変化があったことを忘れてはいけません。
工業化も進み、インターネットも誕生し、当時とは全く違う暮らしがあります。だからこそ、当時の意味をそのまま使うのは難しいと奥村さんは話します。ここで改めて、当時の民藝の定義を振り返りつつ、私たちの時代の民藝について考えてみたいと思います。
スタッフ二本柳:
「民藝の定義って、何でしょう? 分かるようで分かりません……」
奥村さん:
「民藝が生まれた当時、柳たちはこういうものが民藝だよね、という9つの特性を示していました。例えば、『無銘性』(特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである)や、『複数性』(民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである)。
その多くが、今の時代にフィットしにくいものなんです。ネットで何でも調べられる今、『無銘性』もなかなか難しいですしね」
スタッフ松浦:
「趣旨のひとつに、誰もが買い求められる程に値段が安いという『廉価性』があると思うのですが、正直そこまで安くはないかなぁと思ってしまいます」
奥村さん:
「そうですね…… 当時は、
でも、今は工業製品の方がはるかに安く買うことができるでしょう。
一方、民藝はというと、昔ながらの素材で時間をかけて、丁寧なものづくりを心がけるほど、
柳たちが当時提唱した民藝の特性は、やはり今の時代にそのままあてはめるのは難しいのが実際のところです」
スタッフ松浦:
「もうひとつ疑問というか悩みなのですが、民藝をうまく使いこなせている気がしないんです。
民藝の話でよく耳にする『用の美』という言葉。作り手である職人が、使う人のことを第一に考えて生まれるものだと思うのですが、作り手の意図通りに使えている気がしません。
器とかならそのまま使えるからいいんですけど、竹のカゴとかは使いにくい」
奥村さん:
「民藝はもともと実用を前提にしたものですが、暮らしの変化によって、今の時代では実用的でないものも多くあります。
例えば、竹のりんごカゴ。本来は、りんごを収穫するカゴなんだけど、私たちの暮らしではりんごの収穫はしないでしょう?ただ、それを物入れとして使うことだってできる。
それが暮らしにあることで、私たちはその力強い道具から、暮らしの元気をもらうんです。
本来の使い方とは違うかもしれないけど、自分がそれを使うことで職人の仕事が続いていく助けになるかもしれない。そう考えたらずいぶん楽になりませんか?それで良いと思います」
奥村さん:
「あと、さっき話に出た竹のカゴは、民藝の特徴を表すいい例です。
使い始めは、まだ竹も青くて、持った時も正直馴染みがよくない。でも何年も使っていくうちに、竹の色も黄色になって、茶色になって、そのうちだんだん照りが出てくる。手にもよく馴染んできます。
簡単に言うと、工業製品は、使い始めが100点。買ったその日から100%の力を発揮してくれます。でも、手仕事は違う。使い始めが必ずしも100点ではないんです。ちょっと不自由で、手入れは面倒。ただ、時間が経つほどに、人の暮らし、家族の時間に合わせてどんどん美しくなっていきます。
多少苦戦してでも使いたい、って思えるくらい好きなものと出会えたら、じっくり使ってあげればいいんです。全部民藝にしなきゃ!ではなくて、大切なのは、そのものの特性を知った上での、自分のさじ加減です」
*
「立派な木のまな板より、手入れの楽なプラスチックの方が、“私は” 使いやすい」
「一生に一度買えばいいような栓抜き。ちょっと高いけど、“私は” 南部鉄器を使ってみたい」
どちらがいいではなく、自分のものさしで、自分がいいと思うものを選ぶ。民藝を通して見えた「暮らしのあり方」は、私たちのテーマでもある「フィットする暮らし」と、重なるものがありました。
(つづく)
【写真】原田教正
もくじ
奥村忍
日本や世界各地から集めた手しごとを中心とした生活雑貨を商う「みんげい おくむら」店主。今の時代、今の生活に合った「みんげい」を探し、日々提案している。千葉県生まれ、千葉県在住。http://www.mingei-okumura.com
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