【民藝から考える】第3話:かわいいだけじゃない。背景を知ると見えるもの

編集スタッフ 松浦

「今よりもっと、いい暮らしを」
約100年前、そんな想いを持った人たちにより生まれたと言われる「民藝」。

彼らは、誰も目に留めることのなかった、日常の生活道具こそ美しいと語り、それらを「民衆的工芸」=「民藝」と名付けました。

「美しい」ってだけじゃない。「昔のものっていいよね」と懐かしむものとも違う。気になってはいるものの、その定義も境界線もよくわからず、なんだかもどかしい…… 一体、民藝って何なんだ。

特集「民藝から考える」では、民藝好きのわたし松浦と、その熱意を受けて少し興味を持ち始めた、民藝初心者のスタッフ二本柳が、民藝を通して、これからの暮らしのヒントを探っていきます。

3話目では、グラスや刺し子、カゴなど身の回りの民藝の背景について考えていきます。 お話を伺うのは、引き続き「みんげい おくむら」の奥村忍(おくむら しのぶ)さんです。

 

奥村さん:
「なぜそれが生まれたのか?なぜその形なのか?

いつも何気なく使っているものの背景を知ることで、身の周りのモノに対する、暮らしの解像度がぐっと高くなる感覚があります。

いつもと変わらない日常の中での気づきが、暮らしをもっと豊かにするはず。

また、そのプロセスは、日本だけではなくどの国でもあったもの。民藝という言葉は日本だけですが、同じような意味合いの言葉は世界中であるんです。今回は、日本のものから世界の民藝も合わせて、それが誕生した背景を見ていきたいと思います」

 

奥村さん:
「まずは、日本のものを。沖縄本土で作られている琉球ガラスです」

スタッフ松浦:
「琉球ガラスは有名ですが、沖縄はもともとガラス生産が盛んだったんですか?」

奥村さん:
「もともとありましたが、第二次世界大戦中に物資がなくなり、生産がストップしてしまっていたんです。戦後、限られた物資の中で、材料として見つけたのが、コーラなどの空き瓶でした。これらを砕いて溶かして作ったのが、今われわれが”琉球ガラス”と主に呼んでいるものです」

スタッフ二本柳:
「緑がかったブルーが綺麗ですね!これも空き瓶ですか?」

奥村さん:
「実は、これは瓶ではなく窓ガラスなんです。窓を作る際に出た廃材。今は泡盛や窓ガラスなどの廃材を使うことが多いようです」

スタッフ松浦:
「なんだかぽってりした形も可愛いです。結構重いんですね!」

奥村さん:
「そうなんです。ちょっと倒したくらいじゃ割れないくらい丈夫なんですよ。でもこんなに分厚いグラスは、ワインの専門家からすれば、とるにたらない形かもしれません。でも私は、この気取らない感じが好きです。これでどんなワインでも飲みますよ」

スタッフ二本柳:
「ワイングラスって、白と赤、さらには種類で使い分けようとすると、お金もかかるし食器棚のスペースも必要で大変。琉球ガラスのおおらかさは、民藝の考え方にも通じますね」

奥村さん:
「ちなみに、ワイン発祥の地アルメニアでは、素焼きの甕でワインを醸造するところを見ました。きっと、昔はワインも素焼きのコップで飲んでたのかもしれませんね」

スタッフ松浦:
「なかなか豪快でいいですね!」

奥村さん:
「ワインはこうして飲まなきゃいけないなんてルールはないんです。だから、大切なのは自分のものさし。自分がこれでいいって思ったら、それでいいと思います」

 

奥村さん:
刺し子の布も、身近な民藝ではないでしょうか。

これは大判の風呂敷です。2m×2mくらいあるので、結構大きいです。でもこんなに大きな布、切れやすいのも事実。だからこそ、この白い糸で刺し子が施されています。

刺繍のように可愛いイメージのある刺し子ですが、本来は、丈夫にすることが目的。豊かではなかった時代、古くなったボロボロの布を重ねて合わせて、縫っていきました。

また、寒さが厳しい東北地方では、暖かく過ごすため、麻布や木綿布の隙間を木綿糸で補強していました。これが東北の『こぎん刺し』のはじまりと言われています。ないところから生まれた庶民の工夫ですね

スタッフ松浦:
「私もこの間北欧に行った時に、東北で見た刺し子のようなテキスタイルに出合いました!作り手のおばあちゃんも同じようなことを話していて、びっくりです。雪国の人々の知恵ですね」

奥村さん:
「もちろん、国や地域によって装飾は少しずつ変わりますが、きっと生まれた理由は同じはず。デザインが似ているのも納得ですよね」

 

奥村さん:
「これは、中国・雲南省で今も作り続けている竹のカゴです。プーアル茶など中国の茶葉を保存するためのものなのですが、このまあるい形がかわいらしいですよね。

そしてもちろん、この形にも意味があります。このまあるい形は、餅茶と呼ばれる丸型の茶葉、雲南省ですから主にプーアル茶に合わせて作られています。竹の硬い芯の部分と、柔らかい表皮に近い部分が組み合わせられて、機能も見た目も本当にすばらしい」

スタッフ二本柳:
「スタッフにもかご好きが多く、色んな国のものを買うけれど、その土地ならではの用途や背景がわかると、より愛おしく感じられますね!現地ではこの形でお茶が販売されているんですか?」

奥村さん:
「そうですね、今もこの形で売っています。今は輸送というよりも、この形の方が熟成に適しているから、という理由の方が大きいかもしれません」

 

おおらかで、気取らない空気が、どこかかわいい民藝のものたち。ただ、どれもかわいいだけではなく、理由や思いがあってこそ、生まれたものでした。

奥村さん:
「昔のものを愛でる骨董ではなく、現在も作られ続けているのが民藝。どんな人たちが、どう作っているのかを知ることができるのも民藝の魅力のひとつですよ」

(つづく)

【写真】原田教正

もくじ

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奥村忍

日本や世界各地から集めた手しごとを中心とした生活雑貨を商う「みんげい おくむら」店主。今の時代、今の生活に合った「みんげい」を探し、日々提案している。千葉県生まれ、千葉県在住。http://www.mingei-okumura.com


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