【愛しのマイルーム】第2話:片付けすぎないのが丁度良い。夫婦と子ども1人の賃貸マンション暮らし

編集スタッフ 齋藤

「憧れの部屋」が、自分にとっての「良い部屋」とは限らない。そう考えたら、自分自身を軸にして、等身大で目の前の暮らしと向き合う方が、楽しく感じられるようになりました。

私と同じように「自分のための居心地の良さ」を大切にする人たちの、ふだんの暮らしをもっと知りたい。

今回のこの特集では、職業も年齢も家族構成も異なる一般の方のお宅に伺い、お部屋を見せてもらいました。

第2回目は、ご夫婦それぞれ美容師と翻訳の仕事をしている、成重(なりしげ)さんのお宅です。

 


夫は雑貨好き、妻は本好き
片付け「すぎない」成重さんのお宅


成重さんは3人家族。夫の松樹(まつき)さんと、妻のゆみこさん、そして1歳3ヶ月のお子さんで、広さ約60平米、間取りは2DKの都内の賃貸マンションに暮らしています。

玄関を入ってすぐのリビングはとても明るく、窓が大きいのが印象的でした。

ゆみこさん:
「光がたくさん入って明るいのも、この物件の決め手になりました。5階ですが坂の上の方に建っているため、景色も良いんです」

 

リビングは、雑貨と本でいっぱい!

リビングは、本や雑貨に囲まれた空間。どれもこれも棚に置かれてはいますが、その姿は「仕舞ってある」というよりは、「飾ってある」と言った方が近いかもしれません。

ゆみこさんは、「常に文字に囲まれていたいんです」と話します。

ゆみこさん:
「父は出版社勤めで、母は英語と日本語を使って表現を学ぶ教育機関に携わっていました。そんな両親の元、本がたくさんある環境で育ったんです。

自分の部屋に本がある人はいるけれど、私の場合は本が目立つ場所にあって、メインのインテリアになっている方が落ち着ける気がしています」

▲洋書は横書きの英語が見やすいように、横向きに重ねているそう。棚も横向きに使用しています。

ちなみにゆみこさんは、翻訳業の他にご自身の文芸誌も作っており、イベントで販売もしています。

そして松樹さんも、美容師という職業の他に、写真家として、自ら撮った写真で冊子の制作もしているんです。

▲松樹さんが撮影したゆみこさん。

本がゆみこさんの好みなら、雑貨は松樹さんのこだわり。松樹さんにとっては、好きな雑貨を飾ることで生まれる日常の風景が、作品作りのインスピレーションになっているのだとか。

ちなみにお二人、それぞれ創作活動をしているものの、個人の部屋は持っていないそう。

そのため必然的にリビングで過ごすことが多く、リビングにお互いに好きなものを置くスタイルになったそうです。

 

でもお子さんがいると、すっきり片付けたくなりませんか?

1歳3ヶ月のお子さんがいる成重さんの家。丁度家の中を楽しそうに動き回り、いろんな物に触れたいお年頃です。

そんな年齢だからこそ、片付けているお家も多いのではないでしょうか。

でも成重さんたちは、あえて、物を減らす必要はないと考えているそう。

ゆみこさん:
「最初は、娘に子ども用のおもちゃも用意したんです。でもすぐ飽きてしまって。その代わりに、おもちゃではない物に興味持つことが多いとわかりました。

それからというもの、大人のものに触れることで学びとれるものもあるなと思うようになったんです。

だから私や夫の好きなものに囲まれていても、それに触れて自分らしい感性を育んでいければ良いと思っています」

こういった価値観は、松樹さんの幼少期にも関係しているそう。美容師になるために東京に出てくる前、松樹さんが育ったのは多くの自然に囲まれた場所でした。

松樹さん:
「本当に、周りには自然以外何もない環境だったんです。でもそのおかげで、遊ぶために用意された物ではなく、木の棒や石など、自然の物でいかに遊ぶかを考えるようになりました。

その感覚が、今でも創作活動をするベースになっていると感じています。

娘にも、彼女専用に用意されたものだけではなく、この家に生まれてきたのだから、この家だからこその環境に触れて育って欲しいなぁと思っているんです」

成重さんのお宅のリビングは、テーブルが壁付けにされ、娘さんが遊ぶスペースがしっかり取られています。

さらにこの家に引っ越す前、棚として使用していたリンゴ箱は、出産を機に危ないからと片付けたそう。

▲ダイニングテーブル・ダイニングチェア:デンマークのヴィンテージもの、子ども用の椅子:STOKKE(ストッケ)

お二人がしたのは、子どもが遊びやすいように環境を用意した上で、あえて、子ども専用にはしないという選択。

さらにちょっと驚いてしまったのですが、例え好きな本が破かれても、「しょうがない。そういうもの」と、やわらかに受け止めているそう。

ゆみこさん:
「この本、お気に入りだったんですが、破かれてしまって。でも破かれた雰囲気も、この本には似合っているなぁと感じているんです」

お気に入りの本が破かれてしまったら、私だったら気持ちがふさぎこんでしまうかもしれません。でもゆみこさんも松樹さんも「そういうものだから」と、なんともさっぱりした笑顔。

好きなものを受け入れあって、お互いの行動に寛容なることが、成重さん家族が笑顔で暮らす秘訣なのかもしれません。

 

あえて片付けすぎないからこそ、日常にドラマが生まれる

でも、きちんと片付けられたお宅にも憧れがあるんですよと、ゆみこさん。

ゆみこさん:
「きちっと収納されている部屋の方が、片付けの効率は良いだろうし、掃除や育児をする上で時短にもなるだろうなとは思っているんです。でも、物が多い方が私は落ち着くんですよね。

高校生の時に、壁にコラージュをするのが好きでした。その時のように好きなものを見て心を弾ませる感覚が、今でも残っているのかもしれません。

すっきりとした部屋もステキだけど、それは私らしくないし、生きやすいかもしれないけれど、楽しいかはわからないなと思っています」

松樹さん:
「僕も雑貨や本があることによって、妻や娘がそれを動かして、自分の意図を超えた風景が生まれるなぁと感じています。

それを見ているのが楽しくて、日常の風景を撮影する上での、インスピレーションにもなっているんです」

子どもも大人も、お互いに今大切にしたいものや好きなものが違うからこそ、時にすれ違ってしまうことも。そうならないためには部屋を分ける手もあるし、大人の物に触れられないよう工夫する手もあります。

でも、お互いの好きなものをあえて共有のスペースに置くことで、自分が意図しないものを感じとり学ぶこともできる。

たまに誰かに壊されてしまったとしても、それを通して出来上がった新たな日常を受け入れて楽しむ心があれば、それで良いのかもしれません。

みんなで過ごす場所に、それぞれの好きなものを置く。そしてそこから生まれる日々のドラマを楽しむ。それが、成重さんたちの愛しのマイルームのようです。

 

次回は、「北欧から日本へ。23平米のシンプル暮らし」

次回伺うのは、スウェーデン人のナタリーさんのお宅。サイズは約23平米と1人暮らしの平均的な大きさながら、ソファやテレビボードなど、家具がしっかり揃っているのが印象的でした。

日本での家具の選び方から、好きなものまで、日本で作り上げた愛しのマイルームをご紹介していただきます。

(つづく)


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