【わたしの転機】前編:お店をはじめるなんて、思ってもいなかった。「havane(アバヌ)」オーナー・大坂友紀子さん

ライター 長谷川未緒

あのひとの「ターニングポイント」が知りたくて

ターニングポイント=転機とは、生き方が変わるきっかけになった出来事のこと。このシリーズでは、そのひとの「いま」につながる転機について、お話をうかがいます。

今回ご登場いただく大坂友紀子さんは、東京・参宮橋で「havane(アバヌ)」というセレクトショップを営んでいます。お店には、フランスのものを中心とした、飽きずに長く着られるけれど、ほかのひととはちょっとちがうおしゃれを楽しめる洋服や小物が、所狭しと並んでいます。

▲havaneとは、仏語でキューバのハバナのこと。キューバ特産の葉巻色も指すそうで「アバヌってこんな色だよ」と大坂さん

わたし・長谷川と大坂さんは、友人を介して知り合いました。友人は、フランス語会話学校のクラスメイトで、havaneのスタッフとして働いています。

havaneには、フランスのものを中心とした素敵な洋服がたくさんありますから、フランス好きとしては通わずにはいられません。洋服の品揃えのみならず、大坂さんが年に1度はフランスに買い付けに行くという話にも、羨ましさを超えて、あこがれが。

きっとフランス語が堪能にちがいない、とか、前職はデザイナーか何か、アパレル関係だったのだろう、とか、勝手に決めつけていましたが、友人に聞くと、どうやら違うようです。フランス語はまったく話せず、お店も未経験からのスタートだったのだとか。

ある日「お店をやるのって、あこがれます」と正直に打ち明けると「わたしにさえできたんだから、誰にでもできるよ。お店をやりたい、って言うひとには、みんなにそう言ってるの」と朗らかに笑う大坂さん。一体どうやってお店をはじめたのか、どうして続けてこられたのか、あれこれ知りたくなり、単刀直入に伺ってみました。

 

何かやりたいのに、見つけられなかった20代

35歳でお店をはじめたそうですが、やはり若いころからの夢を実現されてのことだったのでしょうか。

大坂さん:
「いえいえ、自分がお店をはじめるなんて、若いころは思ってもいなかったですね。

ただ、子どものころから洋服は好きだったんです。中学・高校時代は、同級生と洋服を持ち寄ってはコーディネートし、写真を撮ったりしていました。高校卒業後は、服飾専門学校のスタイリスト科に進学しまして、パリジェンヌのような服に興味が湧いたのも、そのころですね。バイト先に輸入物の洋服にくわしいひとがいたので。

専門学校卒業後は、輸入物を扱うセレクトショップに就職したんですが、配属されたのは事務だったんです。ほんとうは販売員になりたかったのに、空きがなく、1年ほどで退職することになりました。

会社を辞めたあとは、美容院が経営するダイニングバーでアルバイトしながら、ふらふらしていたんです。留学とか、何かしたいなぁと思いながら、もやもやした日々を過ごしていたところ、オーナーから美容院のほうを手伝ってほしいと誘われて」

▲ご自宅もパリのアパルトマンのよう

はじめてみたらおもしろかったという美容院の仕事をしていた26歳のときに、結婚します。お相手は9歳年上の美容師。といっても同僚ではなく、中学生のころに1度だけ髪を切ってもらいあこがれていたひとと、知人を介して偶然の再会を果たしたのだとか。そしてお店を開くことになったのも、ご主人の影響があった、とのこと。

 

フランスでお店を開こうと思ったものの……

大坂さん:
「結婚後、娘がふたり生まれてしばらく専業主婦をしていたんですが、夫が自営業ですし、子どもをふたり育てていくには、わたしも何かしなくちゃ、と。たまたま知人の妹さんがパリに住んでいて、日本のものが流行っていると聞いたので、フランスで日本の伝統工芸品などを扱うお店を開くのもいいかもしれない、と夫が思いつきました。

私自身ずっと海外にあこがれがあって、留学したいと思ったこともありましたし、子どももバイリンガルになるかも、と。いま思えば、安易でしたが(笑)、家族みんなで実際にパリに行ってみたんです。そしていろいろ調べたら、家賃は高いし、工期はのんびりだし、ひとを雇うにしても条件が厳しくて。

すぐにあきらめました。そんなに甘いものじゃないね、って夫とも話して。行動に移してみて、ダメだとわかったので、自分たちの中で納得できたんだと思います」

しかしこのときの行動が、思いがけず次につながっていくことになります。

 

生まれてはじめての、海外ひとり旅

大坂さん:
「フランスに行ったときに知人の妹さんにすごくお世話になり、お互いに子どもがちいさかったこともあって、友だちになったんです。帰国したあとも、ずっとやりとりが続いていました。

ある日、彼女から『パリにかわいい子ども服があるよ』と教えてもらったのが、honoré(オノレ)というブランドでした。色がきれいで、デザインもシンプルで素敵だし、なにより自分の娘たちに着せたい!と思いました。

ふと、フランスでお店を開くのはたいへんでも、日本でこの服を売るお店ならできるかもと思い、夫に話したら、もともとお店を開くことに前向きだったこともあって、『見ておいでよ』と言ってくれたんです。人生ではじめて、夢のひとり旅ですよ。もう、うれしくて、うれしくて」

ご主人のひとことで、念願だったひとり旅に行くことになった大坂さん。まずは行ってみないとわからないということもあり、不安と期待でいっぱいだったそうですが、さて、どうなったのでしょうか。後編では、いよいよお店をオープンしたお話を伺います。

(つづく)

【写真】木村文平

 


もくじ

 

大坂友紀子(おおさか ゆきこ)

東京都生まれ。服飾の専門学校を卒業後、インポートのセレクトショップで事務職に就いた後、美容院に従事。結婚・出産を経て専業主婦時代の2005年に「代官山honoré」をオープン。2006年に「havane」に店名を改め、2009年に参宮橋に移転。フランスものを中心とした洋服や小物のセレクトに定評がある。店内にカフェスペースも設け、月に数度のイベント開催も。http://havanejp.com

 

ライター 長谷川未緒

東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

 


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