【おばあちゃんと私】後編:「どっちでもいい、みんな持ってるもん」ではない、自分の好きを考えること

編集スタッフ 松浦

「誰かの好きではなく、自分のものさしで好きと思える暮らしができたらそれでいい」

ただそんなことを思う私のものさしも、きっと誰かのものさしからできていると思うのです。どんな偉人だって、きっとみんな誰かの影響を受けて、少しずつ自分のものさしをアップデートさせていったはず。

特集「おばあちゃんとわたし」では、そんなものさしをテーマに、染色作家の佐々礼子(さっされいこ)さんと、そこから影響を受けたというお孫さんの香帆(かほ)さんを取材しています。

大学入学と同時に一人暮らしをはじめたという香帆さん。テーブルや食器、ベッドや本棚…… からっぽの部屋に、少しずつ自分の「好き」を集めました。そんな時、一番に思ったのは礼子さんのこと。

後編では、今の香帆さんのものさしをつくった、礼子さんの「美しく生きる」という考え方についてさらにお話を伺いました。

 

「どっちでもいい、みんな持ってるから」はだめ。

挨拶や姿勢はもちろん、「ものを選ぶこと」にも厳しかったという礼子さん。なかには絶対に言ってはいけないNGワードもありました。

香帆さん:
紅茶とジュースどちらがいい?と聞いてきたおばあちゃんに『どっちでも』と答えたら、『今、何も考えなかったわね。自分でしっかり考えてから答えなさい』と怒られたことがあります。

もうひとつは、『みんな持ってるし!』と言ってねだること。何か欲しい時は、これがこうだから欲しいと、理由もきちんと考えてから話すように言われていました。自分の意思を持たず、話してしまうことに、おばあちゃんはとても厳しかったです」

紅茶かジュースか、のチョイスさえ「どっちでも」が許されないとは……。礼子さんがいかに覚悟をもって孫たちに「自分で考える」ことを伝えようとしたかが分かります。

 

「変わっている」は褒め言葉だと思うの

言葉遣い、姿勢、所作、着こなしなど、細やかなところまで厳しく伝え続けた礼子さん。でもそこに「人と比べる」という視点は一度もありませんでした。礼子さんはいつだって、「自分」に目を向けることを伝えてきました。

礼子さん:
「私が小さい頃は、一日中木に登ったり、屋根に登ったり…… 男の子たちがびっくりするくらい、とにかくおてんばだったんですよ。親戚や友人からも『本当に変わった子だね』と言われてましたから。

でも、人と違って何が悪いの?ってきょとんとしてた。私、『変わってる』は褒め言葉だと思っているんです」

香帆さん:
「実は、私も同じ。おばあちゃんの話を聞いていると、自分のことみたいなんです。母から聞いたエピソードなんですが、私も小さい頃から木に登って虫を捕まえてたみたい。女の子で虫が好きなんて、変わってるって周りからも言われてました」

そう語るふたりは、どこか嬉しそう。そんなの気にしていないと言うより、「変わってる」という言葉を超えて、人がどう思おうと、自分の好きを信じているのを感じました。

 

なんで好きなのかを言葉にする

そんな礼子さんも、今年で 88歳。自分の大切にしているものを、少しずつ家族に引き継ぐ準備をしているといいます。

礼子さん:
「欲しいものがあったら早めに言っておきなさいね〜と、家族が集まるときには、家の中にあるものを少しずつ子供や孫に手渡しています。ずっと私が持っているわけにはいかないですからね」

そこで大切になるのが、なぜそれを選んだのか。礼子さんはできるだけ、孫たちに「なぜ好きなのか」を考えるよう話していたといいます。

香帆さん:
「なんで好きかなのかを改めて考えて、自分の言葉にしたとき、そのものに対する想いがさらに深まった気がしました。

私が選んだのは、おばあちゃんがイタリアで見つけたという、ガラスでできた飴。飴の袋を絞った細工がとても繊細で一目惚れでした。後ろには、『これは香帆にあげます』っておばあちゃんが書いた付箋が貼ってあるんです。大切にしなきゃ」

 

これはいい!と思ったら迷う必要はないの

なんで好きかをじっくり考えて見る。ただ、直感を信じて選ぶ勇気も大切だと礼子さんはよく話していたといいます。

香帆さん:
「おばあちゃんとデパートや蚤の市で買い物をしていると、目を輝かせて『これはいい!』と言う瞬間があります。そんな時は、迷いなく即決。ちょっと高くても、自分が心の底からいいと思った時は、悩む必要はないってよく言っています。

数年前、学校で使わなくなった大きな木の本棚を引き取ったことがるのですが、あの瞬間は、おばあちゃんの『これはいい!』の感覚だった気がします。普段の買い物でも、たまにそう言う瞬間があるんです」

そういって香帆さんが見せてくれたのは、最近買ったという竹でできた組み立て式の虫取り網と、インスタグラムで見かけて、古着屋さんで購入したというバリの籠バッグ。どちらも直感だったといいます。

「本当にいい作りだわ。あなたも、なかなか渋いわね〜」と、満足げな香帆さんの様子を見て、礼子さんも嬉しそうに微笑みます。

 

今はまだ「自信」をもつだけの経験はないから。

家族がノートにまとめるほど、細やかなところまで鋭い指摘が多い礼子さん。ただ、そんな礼子さんが香帆さんに何よりも大切だといったのは、自信を持つことでした。

香帆さん:
「姿勢や所作など小さな『美しさ』に厳しく生きるのも、自分の好きを大切にするのも、全ては自信を持つことにつながっていると、おばあちゃんはよく言ってました。

ただ自信というと、今の私には難しい。おばあちゃんには自信を裏付ける、これまでの経験があります。でも私はまだ20代、経験豊富なんて言えません。

だから私なりに噛み砕いて、それは『自分を好きでいること』かもしれないなって思うようになりました。それなら私にもできる気がするんです」

変わっていたっていい、人がいいといってなくてもいい、ひとりでもいい。何よりも自分を好きでいることが大切。そしてそんな自分が好きなものを信じて。

そう話す香帆さんの姿に、香帆さんが選び取った、礼子さんのものさしが重なって見えた気がしました。

(おわり)

【写真】間澤智大

もくじ

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佐々礼子さん、香帆さん

祖母・礼子さん)1930年生まれ、染色家。芹沢銈介の弟子である村上元彦に師事。国内外で数々の染色の展示を行ってきた。孫・香帆さん)山梨県の大学で生物の研究をする、大学4年生。


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