【小さな家のインテリア】第2話:1.5 畳のスペースでも快適。キッチンは小さい方が料理が楽しい?
ライター 大野麻里
今回のインテリア特集のテーマは「小さな家」。30平米のマンションでご主人と暮らす、柳本あかねさんのご自宅を全3話でお届けしています。
リビングの使い方を伺った1話に続き、第2話では柳本さんならではのユニークなアイデアが詰まったキッチンを見せていただきました。
ストックは持たない! 調味料は「ミニサイズ」がマイルール
柳本家のキッチンは、玄関からリビングにつながる廊下にあります。通路幅は約70cmでスペースにしたら約1.5畳ほど。夫婦がすれ違うのも、ぎりぎりのサイズです。
このコンパクトなキッチンが、こんなにすっきり片付いて見えるのは、もの選びに秘密がありました。
柳本さん:
「この家で決めているのは、 “家具は大きく、道具は小さく” 。特にものが増えやすいキッチンでは、調味料やキッチンツールなどの道具はミニサイズを選ぶようにしています」
スペースが限られているからこそ、サイズには敏感。誰かが小さいサイズのものを使っていたら、『それどこの?』と、すかさずチェックするのが柳本さん流です。
▲110リットルの冷蔵庫は、できるだけ空っぽの状態をキープ
引き出しや冷蔵庫を見せていただくと、一目瞭然。しょうゆや酒などの調味料はミニボトル、ソースやケチャップはお弁当用の個別包装など、まるでミニチュアのような世界です。
食材も同様に、野菜は1個売りや少量パックのもの、パンは2〜3枚入り……というように何でも小さなものを買うのだそうです。
柳本さん:
「割り切ってこういう買い方ができるようになったのはこの家に暮らしてから。ストックを一切持たないのは、必要なものがすぐ買える便利な都会の環境だからこそ、できることかもしれません。
この買い方は多少割高かもしれないですが、使い切れず無駄にするより気持ちよくて。ミニサイズだと鮮度が落ちないうちに、完全に使いきれる感覚がいいんです。
『食材をストックしておかなければ』という不安からも解放されて、料理が楽しくなりました」
キッチンツールはこの引き出しに収まる、小さなサイズだけに絞って
キッチンツールは、ガスコンロ下の小さな引き出しに収納。おたまやしゃもじもミニサイズ。長くて収納に困った菜箸はやめて、割り箸を代用しているとか。
柳本さん:
「小さなツールは100円ショップで探すことも。100円でも『小さければ何でもいいや』とはせずに、シンプルなデザインや、使いやすく工夫されたものなど、いつもじっくり吟味して買っています。」
器は夫婦2人分だけ。「いつか」を気にして来客分はカウントしない
▲20年前にデンマークで買った「ボダム」のボウル。毎日使っている食器のひとつ
割り切って整理したことのもうひとつが、食器です。
以前は人を招くことも好きで、「器は山のように持っていた」という柳本さん。この家に越してくるときに、それらのほとんどを手放したのだそうです。
柳本さん:
「これは私のなかでもドキドキで勇気のいる選択だったのですが……。『いつか来る来客』に縛られず、いまの暮らしにフォーカスして、夫婦ふたりの食器だけを残しました。
現在は夫婦の休みすらなかなか合わず、来客がなくなったことも理由のひとつ。お客さんが来ることがあれば、それはそのとき考えればいい。そう割り切っています」
柳本さん:
「作家さんの器を使っていた時期もあるのですが、それらはお店にまわして、自宅では手入れがラクで汎用性の高い器を使うようになりました。
欲しいものに迷ったときも「食器棚に入らないから!」と割り切れるように。まるで自分への言い訳のようですが、この狭いキッチンに背中を押してもらっています」
普段づかいのカトラリーを手放して、1軍を毎日の食卓に
▲箸置きに置いたカトラリーは、フィンランドのブランド「ハックマン」のもの
たくさんあったカトラリーも、このバスケットに入る分だけに。袋にしまって大切に保管していた、1軍だけを残しました。
柳本さん:
「ハックマンのカトラリーは、大好きすぎて使えず、ずっとしまっていたものです。けれども、それっておかしいよね? と思って。飾っておくならまだしも、しまっているだけなんて!
普段づかいのものは手放して、このハックマンを日常づかい用におろしました。これで食べると何だか毎日の食卓がホテルのレストランみたいで、暮らしが豊かに満たされた気持ちになります」
キッチンの真ん中に置いた「幸せの箱」
▲15年選手の食洗機。「ル・クルーゼ」の片手鍋は18cmの小さめサイズ。持っている鍋はこれひとつだけ
1話でお話を聞いたクイーンサイズのベッドと同様、キッチンの真ん中に堂々とたたずむ食洗機の存在感にも驚かされました。聞けば結婚のお祝いでもらったものだそうで……。
柳本さん:
「真ん中に置いた理由は、ここしか場所がなかったから。主張してますよね(笑)。
“なんでも洗って乾かしてくれるカゴ” と考えて、食器のほかツールや五徳なども全部これで洗っています。乾燥したものを置いておくあいだも、水切りカゴより見た目がすっきりするんです。
なるほど、これもベッドやテーブルと同じ考え。雑多なものをごちゃごちゃ置くよりも、大きな箱でカバーすることで、空間をすっきり美しく見せているようです。
柳本さん:
「うちは共働きなので、機械にやってもらえるものはやってもらおうという考えです。食洗機のおかげで片付けの押し付け合いにならないし、私にとってこれは夫婦円満に導いてくれる “幸せの箱” 。
だからこの小さなキッチンでも、食洗機を置くことを優先しました」
▲作業スペースが必要なときは折りたたみテーブルを出し、そこで切ったり盛り付けたりする
選ぶプレッシャーから解放されると、料理はもっと楽しくなる?
このキッチンになってから、夫婦ともに料理に対する心境の変化があったといいます。
柳本さん:
「スペースは限られていますが、この範囲でやれることをしようと考えるのが楽しくなりました。広いキッチンだと、私自身が管理しきれず、全部をきれいに保つのが難しい。小さい方が気楽です。
そして、夫が料理をするようになりました。道具や食材が限られているので『選ぶプレッシャーがなくなった』そうです。普段料理しない人が料理すると、『その鍋使っちゃうの?』とか『この料理にこの器?』ということ、ありますよね?
そういう選択肢が狭まった分、夫も料理を楽めるようになったそうです」
「狭い=使いにくい」のではないと、柳本さんのキッチンを見て感じました。制限のある場所でも、快適に使えるかどうかは工夫次第のようですね。
3話では、クローゼットをはじめ、小さな家の収納術について伺います。
(つづく)
【写真】北原千恵美
もくじ
柳本あかね
グラフィックデザイナー、二級建築士として働きながら、夕方からは東京・飯田橋のカフェバー「茜夜」店主を務める。日本茶インストラクターの資格も所有し、講座やワークショップも開催している。著書に『「茜夜」のシンプルに暮らす小さなキッチン』(河出書房新社)、『小さな家の暮らし』(エクスナレッジ)など。
ライター 大野麻里
編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。
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