【愛すべきマンネリ】後編:くり返した先には、安心と幸せがある。(柳瀬久美子さん)
ライター 長谷川未緒
料理研究家として活躍する柳瀬久美子さんに、「愛すべきマンネリ」について、前後編の2話連載で、お話を伺っています。
前編では、好きなものがわかってきて、マンネリ覚悟で選んでいるものや、マンネリこそが技術のベースとなるお菓子づくりについて、お聞きしました。
つづく後編では、マンネリでも好きな味のことや、マンネリの先にあるものについて、語っていただきます。
流行も好きだけど、ずっと好きな味もある
▲この日いただいたプリンケーキ。キャラメルのほろ苦さと卵のやさしい甘さのマッチングが、最高のおいしさ
柳瀬さん:
「お菓子も料理も、レシピには基本配合があるのね。そこから、いまの時代はバターを少なめにした軽い味が流行っているとか、少し濃厚なのが人気みたいとか。
そういう世の中の好みはすごく意識していて、流行の味の作り方を知ることも楽しいんですよ。そういうお菓子や料理の中で気に入ったものは、つくり続けていつか『私のマンネリ』に仲間入りすることもあるでしょうし。
「いつも違う」より、「いつも同じ」を選んだ理由
マンネリの良さに気づくには、ほかのものを試したり、失敗したりといった試行錯誤と、ある程度の時間が必要かも、と柳瀬さん。それは、教室の生徒さんを招いて、ここ10年ほど開いているクリスマス会でも感じるそうです。
柳瀬さん:
「最初のうちは、毎年毎年、ちがうメニューにしなければいけないと思っていたので、大変だったんです。常温で長く置いておけて、みなさんに美味しいと思ってもらえるものは、限られますし」
柳瀬さん:
「でも、数年続けるうちに『この料理』という、わたしの定番ができてきて、毎年来てくださる長年の生徒さんが、『あぁ、この季節が来たのね』とか、『これが食べたかったんです』と言ってくれるようになりました。
プレッシャーになりながら、毎年ちがう料理をつくるんじゃなくて、同じ料理をつくるというのも、それはそれで素敵なことかもしれないな、と」
マンネリの先には、安心がある
柳瀬さん:
「ここ数年は、お正月に両親と姉家族がおせち料理をうちに食べにきています。みんなそれぞれに好きなものがあって、父と私のパートナーは数の子、姉家族はなます、母は黒豆なんです。
『あれをつくってね』なんていわれると、最初のうちは、また同じものをつくらないといけないのか、と面倒に思うこともありました。でも、『これが食べたかったのよ』と喜んでくれると、やっぱりうれしんですよね。
じつは昨年の夏、父が亡くなって……。毎年、マンネリだと思いながらも、家族が好きな料理をつくれることは、じつは幸せなことなんだなぁ、と思いました」
▲結び柳の蒔絵がほどこされた、柳瀬さんのお重
柳瀬さん:
「いまの心境としては、マンネリの先には、安心があるような気がします。旅行しても、おうちに着くと『やっぱりここが一番』って、ほっとするじゃない? マンネリの良さって、そういうのと似ているかもしれないですね」
あれこれ試し、失敗もして、時間をかけて選んできたものや、飽きてもくり返し、続けてきたこと。「ほんとうにこれでいいのかな」と、ときには迷いながらも、「やっぱりこれでよかったんだ」と思えるようなこと。
柳瀬さんのお話からは、日々の丁寧な歩みこそが、自分の基礎となり、安心感につながっていくのだという、「愛すべきマンネリ」の、大切なヒントを教わりました。
(おわり)
【写真】有賀傑
もくじ
柳瀬久美子
高校在学中から洋菓子店でアルバイトをはじめ、そのままお菓子屋さんへ就職。都内洋菓子店、レストランなどで働いたのち、フランスへ渡る。滞在中、リッツ・エスコフィエ、ディプロム取得。フランス人家庭での生活の中、フランス家庭菓子・料理を覚え、帰国後、フードコーディネーターに。現在は、広告や雑誌のレシピ制作・調理のほか、企業のメニュー開発、少人数制のお菓子教室を主宰。旅行と動物と遊ぶことが好き。
http://k-yanase.com
ライター 長谷川未緒
東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
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