【私らしい部屋づくり】第4話:トライ&エラーの繰り返しで、「今の好き」を日々アップデート
ライター 藤沢あかり
雑誌で見た素敵なオブジェを気に入って買ってはみたものの、どうにもうまく飾れない。自分のインテリアはこれで合ってる?と自信が持てない。インテリアが好きだからこそ、誰もが経験する思いではないでしょうか。
雑誌やSNSで目にする素敵なお宅に住む人たちは、「誰の真似でもない自分らしさ」にあふれているように感じます。
でも「自分らしい」ってなんだろう? 好きなものに囲まれる部屋って、どんなふうに生まれるの? そんな疑問を胸に、好きなものを詰め込んだ空間で、インテリアを自由に、おおらかに楽しんでいる米澤さんのお宅を訪問しています。
最終話となる4話目では、数年越しにかなった理想のベッドルームや、壁のペイントなど、住みながらアップデートしている様子をご紹介します。
雑誌の「理想」を、暮らしに取り入れる方法
リビングのソファ裏のパーティションを隔てた向こう側が、米澤さんのお宅のベッドルーム。
この場所に合わせてオーダーしたという雪山を描いた壁紙が映える、ベッドのみのシンプルかつコンパクトなスペースです。
米澤さん:
「このベッド、昔、量販店で買ったものでヘッドボードが好みでなくて、目にするたびにずっとモヤモヤしていたんです」
”なんとなくモヤモヤ”を抱え続けること5年。やっと、思い描いていたものはこれだ!というイメージを見つけたのは、とある雑誌の中でした。
米澤さん:
「北欧のレストランの壁で、こんな感じのものがあったんです。イメージが固まったら、そこからは夫の出番です。ちょうどいい雰囲気の木材を探してもらい、作ってもらいました」
▲黒と白、2本並べた照明は、インテリアショップ「オルネ・ド・フォイユ」のオリジナル。
いざお気に入りに出会ったら、「好き!」という気持ちを優先する米澤さんのエピソードはいくつかご紹介してきましたが、反面、「本当に欲しい」「心の底からお気に入り」と出会うまでは、けっして妥協はしません。
米澤さん:
「気になるものは、インスタグラムやピンタレストなどで探してストックしたり、インテリア誌やショップをこまめにチェックしたり……やっぱりインテリアが好きなので、情報収集も含めて楽しいんです」
自分はどんなテイストや素材感が好きなのか、いろんなものを見ながら意識しているからこそ、「北欧のレストランの壁=ベッドのヘッドボード」という図式のひらめきが生まれました。
▲リビングと廊下を隔てる扉には、日本の工芸品であるわら細工をあしらって。
そんな米澤さんですが、実は昔からとことんインテリア好きだったというわけではないそうです。「以前は無類の洋服好き」だったと自身を振り返ります。
米澤さん:
「住まいにここまで意識が向くようになったのは、家を購入したことがきっかけです。少しずつ手を加えたり、模様替えしたりするのも楽しくて。
北欧の人は、寒い季節を楽しく過ごすために家を居心地よく整えると言いますよね。忙しく毎日働いていた時に比べて家にいる時間が増えた今、なんだかその気持ち、わかる気がします」
「やってみてダメだったら、元に戻せばいい」
「未完成のままでいい」と伝えてリノベーションをした住まいに越してきて、丸5年。夫婦でコツコツと、その時々での「自分らしさ」を重ねてきました。
「時間が経つうちに、だんだん子どもっぽく感じるようになってきて」と、寝室とを隔てるパーティションは、入居当初の深みのあるブルーから、もう少し大人っぽい色へと1年前に塗り替えました。
たくさんの色の候補から最終的に選んだのは、鉄の混じった塗料に酸化剤を重ねて味わいを楽しむという、「ポーターズペイント」の鉄錆塗料。自然光や夜のスタンドライトの光、また見る角度によっても表情が変わります。アクセントウォールが色だけでなく素材感まで変化したことで、部屋全体のイメージも大きく変わりました。
さらに、奥に見えるウッドブロックの壁も、入居後にDIYで貼ったものです。
▲愛嬌のある時計は、いつか家を買ったらつけると決めていたもの。ミッドセンチュリーを代表するジョージ・ネルソンのデザイン。
住まいを自分らしく。とはいえ、壁の色を変えたりタイルを貼ったり……、となると、実はちょっと勇気がいること。
持ち家ならばなんでも自由にできると思いきや、持ち家だからこそ、釘を打つ場所ひとつにも迷ってしまって決められない、というのも取材先でたびたび耳にします。
米澤さん:
「私も、チャレンジする前はじっくりじっくり考えるし、すごく迷うんです。
パーティションの塗り替えも、色を決めるまでに実は1年くらいかかってしまいました。それでも、もしやってみてダメだったら、元に戻せばいいかな、というくらいの気持ちでいます」
米澤さんにとって、「やらぬ後悔より、やる後悔」を選ぶのは、買い物もDIYや模様替えも同じなのかもしれません。
「失敗したら直す」の繰り返しで、センスは身につく?
「この家具、間に合わせで買ったけどちょっと違うな」「引越しの時にとりあえず配置したけど、なんとなくしっくりこない」。
心のどこかに「なんとなく」をぼんやり抱えながらも重い腰が上がらずに、気づけばそのまま放置して数年……。今の私は、まさにそんな感じです。
そんな話をしていたら、「家具の配置もDIYと同じで失敗したら直せばいい、そう私は思います」と米澤さん。
▲ピーター・アイビーさんのコーヒージャーは、飾っているときも使うときも、どちらも気分があがるお気に入りです。
米澤さん:
「模様替えも、やってみたはいいけれど、想像していたのとちょっと違うな……ということもありますよ。でも、視界に入るたびに気になってモヤモヤするより、変えたほうが気分的にいいんです。
時間がないときに限って、変えてみたくなったりするんですよね。そんなときは、ひとまず元に戻すことも。一旦やめて、時間を置いてみたら新しいひらめきにつながるということもあったり、やっぱりなかったり?(笑)
天気のいい日に、掃除ついでに改めてチャレンジしてみたりもします」
素敵な「自分らしい部屋」に暮らす人も、その完成された部屋に、突然ポンと身を置かれたわけではありません。センスが突然、空から舞い降りてきたわけでもないようです。
「好き」という気持ちを頼りに、たくさんの情報やものに触れ、まずはやってみる。
手を動かして失敗するからこそ、「あれ、これは違う」と気づくことだってできるし、そこからまた新しいことを知るきっかけにつながるはずです。
「センスいいなぁ」と憧れていた人も、そうやってたくさん手を動かしながらのトライ&エラーの繰り返しで部屋をつくってきたと知り、なんだか希望が持てました。
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
米澤麻美
神奈川県在住の主婦。大工として働く夫と2人で、リノベーションしたマンションに暮らす。グリーンやアート、手仕事、コーヒーなど夫婦共通の趣味も多く、休日にはお気に入りのショップを巡るのが好き。森下典子著『日々是好日』(新潮文庫)に心を打たれ、最近はお茶の世界も気になり始めているとか。insragram:@aanimarro
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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