【あきらめるの意味】前編:「もっとできる」と模索した仕事。大切なのは、自分の大きさを受け入れることでした

編集スタッフ 松浦

「あきらめる」のもうひとつの意味

あきらめること=想像していたことが不可能だと気づき、その望みを捨てること。

それは年末の大掃除だったり、昔からの夢だったり、小さいことから大きなことまで、生きていればいろんな「あきらめ」があります。それはたいてい、情けなくて、悔しくて、できれば思い出したくないものです。

ただ、あきらめるにはもう一つの意味があるらしい……

そんな話を、とあるお寺のお坊さんから聞いたことがありました。それは明らかにするという意味。なぜ、できなかったのかを明らかにし、それを納得した上で断念するという話でした。

言い換えれば、自分のいいことはもちろん、嫌なことも含めて、自分自身を明らかにすること。自分をしっかり知ることで、人は初めて本当の努力ができるのだと。

「あきらめる」=「自分を知ること」

今回は、そんなちょっと前向きな「あきらめるの意味」について考えていきます。

お話を伺ったのは、当店の特集でもいつも素敵な写真を撮ってくださる、フォトグラファーの馬場わかなさん。

人物はもちろん、料理や、インテリアでも、馬場さんが撮る写真は、飾ることなく、それを作る、使う「人」を感じます。

そんな馬場さんは、仕事の現場でも、チャーミングで、肩の力がほどよく抜けていて、どこか軽やか。この日の取材も、陽気な笑顔で出迎えてくれました。

 

9ヶ月で退職。甘かった昔の自分

高校時代にはいっていた写真部をきっかけに、写真の道に進んだという馬場さん。大学でも写真を学び、卒業後は夢だったフォトグラファーになるため、広告写真撮影プロダクションで働き始めます。

馬場さん:
「写真を始めた当初は、ロックな少女で『ライブを撮りたい!』と燃えていました。大学では、上田義彦さんなど、有名な写真家の広告写真を見て感動し、『私もこんな力のある広告写真を撮りたい』って熱くなってました」

そんな思いで入社したプロダクションでしたが、たった9ヶ月で辞めてしまったと言います。

馬場さん:
「当時、社内にはアシスタントと呼ばれる人がたくさんいて、その多くが入社10年目とかでした。フォトグラファーとして第一線で活躍しているのは、経験もあって、それなりに年もいってるベテランばかり。

そんな様子をみて、時間がかかるなあ!と思ってしまったんです。もう少し続けていたら、また違う人生が待っていたかもしれない。

でも、まだ若くて根性なしだった私は、自分自身と向き合えず、ただ逃げてしまっただけ。甘いですね」

当時の選択は前向きなあきらめというよりも、ただのギブアップだったと、馬場さんは振り返ります。

 

カメラ一本で大丈夫か。自分の大きさと向き合えなかった日々

思い切って一歩を踏み出すも、昔は自分の軸がブレブレだったと話す馬場さん。その中で、自分のやれることを模索していきました。

馬場さん:
「会社を辞めたはいいものの、最初はカメラ一本でやっていくことは正直怖かったです。

そんな不安から、もう一つ何かできないかなと考え、夜間にデザインの学校に通い始めたことがありました。『私は、カメラとイラストの二足のわらじを履くのだ』って。

でも、デザインの学校に通い始めて1年が経った時、ふと、二足どころか、どちらのわらじも履けていないことに気がつきました。まず一つがちゃんとできてないのに、二つなんて無理な話。『一体自分は何をやっているんだ。写真はどうしたんだ!』と、何もできていなかった自分を責めました」

 

やっと自分と向き合えた、本当のあきらめ。

その後、馬場さんは、写真一本で仕事をしていくことを決意。アルバイトをしながらも、「カメラマン」と書かれた名刺を作り、様々な出版社に営業に行ったと言います。

馬場さん:
「アルバイト先で出会った出版関係の人にも、実績なんてほとんどないのに『私、実は写真も撮っているんです』と、こっそり名刺を渡していました。当時は、そこまで必死でした。

でも、腹をくくって『カメラマン』と名乗りだしたら、少しずつ作品をみてもらえるチャンスが増えてきたんです」

実績も、仕事も、人脈もない。そんな中でも、自分が決めた写真の道で、どんなものでも、一つ一つ全力投球だったと言います。

馬場さん:
「朝から晩まで、オフィス街でアンケートをとりながら撮影したり、撮影しても結局指の先くらい小さく印刷されていたり。もっとかっこいい仕事がしたい!と思ったこともありました。

でも冷静に考えれば、それも当然のこと。実績のない若者にお願いできる仕事なんて、限られてる。

ときには、自分のアウトプットに対して、『つまらん!』『愛がない!』と言われ、再度撮り直したこともありました。悔しくて、その度に号泣しました。でも、それが今の自分。痛みと一緒に、自分の大きさが少しずつ分かるようになったんです。

というより、本当は知っていたけど、『自分はもっとできる』って思いたかったのかもしれない。自分の大きさとやっと向き合えるようになったというほうが正しいですね」

後編では、馬場さんの考えるあきらめるの意味について話を聞きます。

(つづく)

【写真】原田教正

もくじ

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馬場わかな(ばば・わかな)

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らし周りを撮影。 好きな被写体は人物と料理。その名も『人と料理』(アノニマスタジオ刊)という 17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った著書がある。他に『Travel Pictures』『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)『祝福』など。

▼馬場わかなさんの書籍はこちら


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