【お坊さんのお悩み相談室】第9回:満員電車がストレスです。どういう気持ちで乗っていればいいのでしょうか
編集スタッフ 松浦
家事や子育て、日々の仕事。私たちのくらしには、小さなことから大きなことまで「悩み」がつきものです。
「お坊さんに聞く、くらしの悩み相談室」は、仕事や子育てなど、日々のモヤモヤを、お坊さんに答えていただく連載。 クラシコムのオフィスに「くらしのお悩み箱」なるものを設置し、スタッフのくらしの悩みを集めました。
お答えいただくのは、著書『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)なども人気の、浅草・湯島山緑泉寺 僧侶の青江覚峰さん。青江さん自身も、3児の父として、子育てにも奮闘中ということもあり、お坊さん目線、そしてひとりの親目線でお話ししていただきます。
満員電車がとてもストレスです。靴を踏まれたり硬いバッグで服をグリグリされたり……大事なものを傷つけられる苛立ちと、降りるときの押し合いなどで人間の余裕の無さからくる利己を感じると、かなり気持ちが落ちます。どういう気持ちで満員電車に乗ればいいでしょうか?(スタッフS)
たしかに満員電車は嫌なものですね。知らない人と密着するなんて、誰だって勘弁してほしいと思うでしょう。一日の始まりがあれだと、気が重くなってしまうのはよくわかります。
でも、どうして満員電車にそれほどいらいらするのでしょうか。
例えばこれが、休日午前7時過ぎのディズニーリゾートラインだったらどうでしょう。通勤電車と同じように大変な混雑ぶりです。周りの様子をうかがえば、みんなテーマパークで過ごす一日のことを考えてウキウキしている様子。キャラクターのかぶりものをしている人もいます。首からポップコーンバケットを下げている人もいます。子どもは待ちきれなくて騒いでいるかもしれません。それでも、怒ったりイライラしたりするような人はいなさそうです。
どうしてか。それは、満員電車でぎゅうぎゅうにされることよりも外のことに意識が強く向いているからです。そんな場面では、知らない人と密着し、服や鞄が押されてよじれても、なぜかそれほどイライラしない。原因は満員電車ではなく、自分を含めた乗客一人ひとりに余裕がなかったり、イライラしているからではと思うのです。
登校初日、入社初日に電車に乗ったときのことを思い出してみてください。外の大勢の乗客にとっては、いつもと同じ不快な朝の通勤ラッシュでも、自分にとっては特別な朝。期待や緊張や不安でそれどこれではなかったかもしれませんし、少し余裕があれば、「これが噂の通勤ラッシュか」「わたしもついに社会人か」と、その状況を面白がっていたかもしれません。
毎日が同じように繰り返されるうちに、日常の小さな喜びや感動に気付かなくなってしまっているかもしれません。
「日々是好日」(にちにちこれこうにち)
有名な禅語です。みなさんも見聞きしたことがあるでしょう。毎日を好い(良い)日とみる。実はこれ、今日はいいことがあったから良い日だ、逆に悪いことがあったから今日は悪い日だ、という意味ではありません。本当の意味は、急な雨でずぶ濡れになろうと、恋人と喧嘩をしようと、仕事でミスをしようと、「起きてしまったものは仕方ないし、それはそれで、いい経験だ」と、明るくあきらめ、受け入れることなのです。
台風の日であろうと、誰かと喧嘩をした日であろうと、たとえ満員電車の中であろうと、「これはこれ。仕方ない仕方ない」と受け入れ、受け流して生きていれば、すべてが好日になるのかもしれません。
青江覚峰
もくじ
僧侶 青江覚峰
浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー
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