【あのひとの子育て】石原文子さん〈前編〉子どもと一緒にいる。必要な目は離さない。でも、私は私。

ライター 片田理恵

子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。正直、わかりませんよね。だって正解がないんですから。

だから私たちはさまざまなお仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる “あのひと” に。

連載第12回は、「工芸喜頓」店主・石原文子さんをお迎えして、前後編でお届けします。

 

子育ての取材を受けるといったら、夫や友だちが驚愕!?

東京・上町で民芸の器屋「工芸喜頓」を営む石原文子(いしはらふみこ)さん。システムエンジニアの夫と小学4年生の善蔵(ぜんぞう)くん、2年生の菊(きく)ちゃんと4人で暮らしています。

取材をお願いするメールのやりとりの時から「子育ては苦手」「うちでは子育ては夫がしている」「子育ての取材を受けるといったら、夫や友だちに驚愕された」などの言葉が次々と飛び出してきて、ハラハラしてしまったくらい。

でもどうしてもお願いしたかったのは、初めてお目にかかった5年前からずっと、私には石原さんの子育てがまぶしく見えていたからなんです。

「みんな試行錯誤しているんだなという一例としてなら」と笑顔で快諾いただき、ご自宅にお邪魔しました。

 

怒らない子育てをしようとは思わない

掃除・片付け好きの石原さん。ご自宅はこの日もすみずみまでピカピカ。よく使い込まれたアンティークの家具やオブジェが並ぶリビングにたっぷりと光が差し込んで、なんともいえず心地よい空間です。取材にお邪魔した3月初旬、美しい器が鎮座する台所の窓には、手が届きそうなほど近くに、つぼみをほころばせた桜の枝が伸びてきていました。

石原さん
「我が家は子どもたちの遊び場として開放しているんです。私たち夫婦が仕事をしていても、放課後や休みの日はいつでも友達を連れてきてOK。誰でも、何人でもOK。だからたいてい、部屋の中はすさまじいことになっていて。

寛容なわけじゃないんですよ。私、本当にしょっちゅう怒ってますから。夫が留守で私と3人の時は子どもたちが『今日はやばい』と話し合ってるくらい。よその子でも悪いことをすれば叱りますしね。みんな『菊のお母さん、こええ』って言ってます」

子どもたちに自宅を開放する。さらっとおっしゃいましたけど、それってかなりハードルの高いことじゃないかと思います。片付けるのも片付けさせるのもエネルギーが要るし、忍耐力も相当必要じゃないですか?

石原さん
「うーん。子育ては忍耐が大事とか、怒らない子育てをしようとか、実はあんまり思ってないんです。ベースにあるのは楽しく暮らしたいってことですね。だからガマンはしないし、無理もしません。怒鳴り声も、笑い後も、歌声も、そのままマンション中に響き渡ってる(笑)。住人の方たちにはわが家のことが筒抜けだと思いますよ。

家を開放することも、無理にしているわけじゃないんです。理由は単純で、今、子どもだけで遊べる場所が少ないから。公園でも規定があったりして、意外と自由に使えないんです。だったらうちで遊んだらいいと思って」

 

子どもは子ども、私は私の時間を楽しむ

自分の子どもだけでも手いっぱいなのに、子どもの友だちまで見られるなんてすごい……。石原さんのことをそんなふうに感じる方もいるかもしれません。私たちはつい、「子どもと一緒にいるなら面倒をみないといけない」と思いこんでしまうものだから。

石原さん
「子どもとその友達を引率して、みんなで映画に行くこともあります。私は一緒には観ませんけどね。子どもが観たい映画は、私が観たい映画とは違うから。

だから着いたらまず『はい、映画館での約束は?』と聞いて『上映中はしゃべらない』『ポップコーンは絶対こぼさない』『始まるまでも騒がない』とか、守らなくちゃいけない約束を確認しあいます。映画が終わる頃にまた迎えに行くんですけど、それまでは、私は私の時間。お買い物したりして楽しんでます」

 

子どもの力を借りて、自分の世界が広がっていく

子どもと一緒にいる。必要な目は離さない。でも、私は私。石原さんの言葉からは、そんな揺るぎのない信念が伝わってきます。どうしたらそんなふうに、自分らしくふるまえるんでしょうか。

石原さん
「私、以前は
子どもが苦手だったんです。どう接したらいいかわかないし、言うことが伝わらないってイメージがあって。大人同士でも好きな人としかつきあわなかったし、自分がおもしろいと思った人にしか興味がなかったんですよね。今思えば世界が狭かったなと思います。

だけど子どもを生んで、子ども自身や子どもの友だち、その子のお父さんお母さんっていうふうに世界が広がっていって、自分とは全く違う考え方、趣味嗜好の人とも自然とつきあうようになりました。それは時にストレスをともなうものではあるんですけど、でも、ストレスフリーな人なんていないから。

それよりも子どもの力を借りて、自分の世界が広がっていくことの方が出来事として大きかったし、おもしろかったんですよね。だから私でも “子どもウェルカムおばちゃん” になれたというか。

子どもたちを見てるのも、おもしろいです。けんかして、また仲良くなってという繰り返しを見ていると、『お互い様』っていうのがどういうことなのかよくわかる。

私は子どものけんかには口を出さないのがモットーなんですけど、それはいい時の関係も、悪い時の関係も実際に目にしているからかもしれません。悪い時しか見ていなければ、きっと口を出したくもなりますよね」

 

話好きで、世話焼きで、すぐ怒る「近所のおばちゃん」

今のお母さん世代である私たちが子どもだった頃は、まだかろうじて「近所のおばちゃん」という存在が残っていたように思います。話好きで、世話焼きで、すぐ怒る。だけどなんだかいつでも楽しそうだった、明るいおばちゃんたち。

母になってからというもの、あのタフさや素直さがやけにまぶしく見えるようになりました。おばちゃんは親であると同時に、地域で暮らす子どもたちみんなにとっての「大人」だったのだと、今ならわかる。石原さんに感じるのはもしかしたら、それと同じような憧れと親しみの気持ちかもなのしれません

続いての後編ではパートナーであるご主人、善蔵くん、菊ちゃん、それぞれとの関係性、石原さんが今感じている子育てへの思いを伺います。

(つづく)

 

【写真】神ノ川智早

 

石原文子

アパレル業界でのマーケティング職を経て、民芸の器の店「工芸喜頓」およびオンラインショップ「日々の暮らし」をオープン。夫と二人三脚で仕事と子育てを切り盛りしつつ、小学生のふたりの子どもたちとの毎日を楽しんでいる。

ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。


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