【訪ねたい部屋】第2話:玄関はそのまま、庭はがらりと変えて。築43年の古民家再生メリハリプラン
ライター 大野麻里
お宅を訪問し、インテリアを拝見しながら「その人らしさ」を紐解く特集「訪ねたい部屋」を全4話でお届けしています。
1話では、鎌倉山で古民家をリノベーションして暮らす、塙麻衣子(はなわまいこ)さんの自宅を訪ね、移住までの経緯を聞きました。
2話目となる今回は、設計のプロでもある塙さんの視点で、家探しから購入の決め手となった玄関の話、庭づくりなど家が完成するまでの道のりをうかがいます。
古民家購入の決め手は、「玄関がよかった」から
▲海風の影響で湿気が多く、靴は出しっぱなしが基本。引っ越してきた当初はそのことを知らず、何足もカビが生えてしまったそう
この家の購入の決め手は、塙さん夫婦が感じた “ポテンシャルの高さ” でした。なかでも、とくに気に入ったのが玄関だったと言います。
塙さん:
「柱や建具にいい材料が使われていて、現代ではつくれない立派な造りが一目で気に入りました。竹の柱や無垢の木など素材感もいいし、砂利を敷いた洗い出しもいい。職人さんがきちんとつくっている感じがしました。
家全体は老朽化でボロボロでしたが、玄関を見て、漠然と『ここはどうにかなる!』と思ったんですよね。夫と二人ですごくワクワクしたというか、これをどうしてやろう? というか、そんな期待を抱かせてくれる家でした」
▲玄関の棚上にある鐘型のようなかたちの障子窓は、隣の和室につながっている
そんな理由から、玄関まわりはほぼオリジナルを残し、ほかは解体してフルリノベーション。リビングに続く建具は、ふすまからガラスの引き戸に変え、和と洋のテイストが自然につながるような設計にしました。
▲玄関からガラス戸越しに見えるリビング。ガラスの引き戸はオリジナルでつくったもの
塙さん:
「玄関の隣の4畳の和室は、触らずにそのまま残しています。玄関の障子窓とつながっていることも理由のひとつですが、畳の部屋が好きなので残したかったという気持ちが大きいですね。
和室は畳だけ張り替えて、お客さんが泊まれる部屋にしています」
▲昔ながらの洗い出しの床。木製の玄関扉も当時のものをそのまま使っている
塙さん:
「私も夫も古いものに魅力を感じるタイプで、いつか自分の家をつくるときは新築よりもリノベーションがいいなと思っていました。
今まで一緒に仕事をしてきた職人さんを一同に集めて、想いの丈をみんなに伝えて。一緒に家をつくってほしいとお願いして、協力してつくってもらった感じです」
▲リノベーション前の室内のようす。部屋がこまかく分かれ、薄暗い印象だった(撮影:塙正樹)
▲現在のリビングの床はフローリング。天井の梁を残したことで、和と洋の要素がバランスよくミックスされている
イチからつくり直した、理想の庭
庭師として修行を積み、現在はボタニカルブランドを手がける塙さんの自宅とあって、その庭は納得の美しさ。「鎌倉山の家って、こんな庭があるんですねぇ…」と話していたら、聞けば、実はほとんどの木を伐採し、栽植しなおしているものだそう。
塙さん:
「購入したときは木が鬱蒼としていて、ジャングルのようでした。日本庭園だったようで、川の流れがつくられていたり、石もすごくたくさんあって、さらにそれが放置された状態だったんです。
金木犀、梅、びわの木。残す木だけ決めて、あとはすべて伐採しました。土や木は運び出して。車が置ける場所まで距離があるので、木を1本ずつ担いで運んで、それが一番大変な作業でしたね」
▲伐採した直後の庭のようす。ベランダを取り壊し、テラスを設置したところ(撮影:塙正樹)
塙さん:
「この土地は、胃袋のような変なかたちをしているんです。地面も真っ平ではなく、斜面に建っているような家。
玄関前に車を直付けすることができない不便さはありますが、でもそのおかげで、上の道路からも下の道路からもあまり見えないというメリットがあります。庭もつくりがいがありそうで、一目惚れしました」
▲奥行き90cmほどの鉄が錆びたベランダを取り壊しテラスを設置。その下には植物用の温室を設けた
何に価値を置くかで、お金をかける場所は変わる?
▲「The Landscapers」のアトリエ
塙さん:
「工事する前には、近隣の人に挨拶をしながらヒアリングもしました。たとえば『あの木のせいで日が当たらない』とか『敷地の境界線が曖昧』とか、後々問題になりそうなことは解決しておこうと思って。
それに対して費用はかかってしまうけれど、一軒家を買うっていう事はそういう事かもしれないね、と家族で話し合ったんです」
▲びわや梅の実がたくさん取れた年は、ご近所におすそ分け。残りはジャムをつくったりして楽しんでいる
こうしてできた土地に、階段をつくり、ウッドデッキを張り、計画的に植栽をして念願の庭が完成。
塙さんが鎌倉山ではじめたボタニカルブランド「The Landscapers」のアトリエも、その上に建てました。
▲アトリエの内部。窓からの眺めを計算して建てたというだけあって最高のビュー
誰もが憧れるような、自然のなかの古民家暮らし。けれども古いからこその苦労もあるそうで……。
塙さん:
「予算の都合で、外装はあまり補修していないので、強風で外壁材が飛んだりしてます。そういう費用が今後かかることは想定しています。
この辺りが公共下水道ではないことも、住みはじめてから知りました。契約書に書いてあったのかもしれないけど(笑)、その費用もかかるんです。あとは生き物が多いので、最近は床下でリスが電線をかじって給湯器がつかなくなったり……。もちろん虫も多いですし。
でも何に価値を置くかで、お金のかけるところは変わると思っていて。家をいつか売却する前提であれば新築のほうがいいかもしれないですが、私たちは古い家を楽しんでいます」
古民家を手に入れるということは、リスクも承知のうえ。それ以上に、自分たちらしい暮らし方に価値を見出す塙さんの姿勢が素敵に映りました。
3話では、インテリアのプロでもある塙さん夫妻のアイデアがつまった、部屋づくりとリノベーションを拝見します。
(つづく)
【写真】ニシウラエイコ
もくじ
塙麻衣子
インテリア会社「イデー」にて施工部に在籍。退社後、デベロッパーと設計事務所を経て、庭師に弟子入り。2014年、鎌倉山への移住を機に、植物とプロダクトを組み合わせたボタニカルブランド「The Landscapers」を立ち上げる。2016年には旗艦店「AROUND」をオープン。現在は、店舗や個人住宅のガーデニングやグリーンコーディネートも手がける。夫と二人の子どもと4人暮らし。
ライター 大野麻里
編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。
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