【訪ねたい部屋】第3話:制約は楽しめる? 家具好き夫婦のリノベーション

ライター 大野麻里

お宅を訪問し、インテリアを拝見しながら「その人らしさ」を紐解く特集「訪ねたい部屋」を全4話でお届けしています。

今回訪ねたのは、鎌倉山の古民家をリノベーションして暮らしている、塙麻衣子(はなわまいこ)さんのご自宅。

3話目は、コストダウンしながらも理想の家を実現したリノベーションのアイデアについて。そして夫婦共に大好きだというインテリアについてもお話をうかがいます。

 

考えたのは「費用をおさえて、よく見せる」

▲キッチン横のディスプレイされたコーナー。左上は娘さんがつくったという切り絵

夫の正樹さんとの出会いは、大学卒業後に勤めた「イデー」でした。退社後、塙さんは設計・内装の仕事、正樹さんはアパレル業界へ。そんな二人の家だからこそ、家やインテリア、ファッションなど、部屋のあちこちからその好奇心の高さがうかがえます。

塙さん:
「家のリノベーションは夫が施主のような立場で意見を出し、私が設計を担当をしました。手持ちの家具も多いので、装飾的なことはあとからすればいいかな、と。壁の白い箱をつくるイメージでした。

あとは建物の基礎や状態を見ながら。一番費用がかからず、でもよく見せるには? ということを常に考えながら進めました」

▲キッチンはリクシルのシステムキッチンを採用。タイルとの組み合わせや面材と取手の配色で、オーダーメイドキッチンさながらの雰囲気

もともとは小さな部屋が4つに分かれていたという間取り。壁を抜き、約20畳の広いリビングダイニングに変更しました。

塙さん:
「水回りの位置を変更すると工事費が跳ね上がるので、キッチンやお風呂の位置は変えていません。そこを軸にして、生活の動線を考えながら、部屋をどうつくるかを考えました」

洗面台はIKEAのキャビネットを土台にして、安価な集成材をわたした。引き出しから製作するよりも大幅にコストダウン

 

大きな箇所を工夫して、コスト削減でも印象をチェンジ

▲洋室と和室の壁を取り壊して一部屋に。2つの窓枠の高さが微妙に違うのはその名残り

塙さん:
サッシは全部入れ替える予定だったのですが、予算オーバーで断念。古い家特有の、ガラス面の中央に区切りの枠があったのですが、それを取り外して、中のガラスだけ新しいものに入れ替えました。こうすることで窓の外の視界がよくなりました」

もうひとつ、大きくコストを下げたのは壁をクロス仕上げにしたことです。

塙さん:
「当初の予定は塗装でしたが、それを減額してクロスに。家が古くて下地が整っていないので、新築用クロスだと職人さんに断られてしまうことも多いのですが、『ひび割れしてもいいので!』とお願いして貼ってもらいました」

 

ここだけは譲れない。「ドア周りとタイルの表情づくり」

塙さん:
「逆に、コストを少し上乗せしたのは
ドア周りです。ここに既製品が入ると、無難な印象になってしまうので、建具だけは絶対につくることを決めました。建具って、高いんですよね。なので極力シンプルに、最小限にしています」

タイルにも、塙さんらしいアイデアがありました。

実は洗面所の床と、キッチンの壁に使っているのは同じタイル。貼り方を変えるだけで、まったく異なる表情を見せています。

塙さん:
「洗面所のタイルは私が組み方をデザインしました。キッチンの壁は、通常半分ずらしで貼ることが多いタイルを、3分の2ずつずらしているんです。ぱっと見てどうなってるかがわからないのが面白いなと思って」

 

好きなものを蓄積して、家に詰め込んで

家具は以前の住まいから持ち込んだものも多数。塙さん曰く「統一感がないんです(笑)」とのことですが、国籍不明のミックスされた雰囲気が、なんともいえず心地よい空間です。

塙さん:
「好きな家具のテイストとか、私たちはないんですよね。そのものをみていいなと思ったら、それが北欧であれアメリカであれ日本のものであれ、買って好きな場所に置いちゃいます。それが無茶苦茶に混ざっている状況です。

この家のために買ったというものよりも、それまでずっと持っていたものが、どんどん蓄積されている感じです」

▲北欧家具店で偶然見つけて即決で買った珍しいヴィンテージテーブル。天板の長さが200cm近くあり、フィンランドの調理師学校のためにアアルトがデザインしたものだとか

▲夫がアメリカのヴィンテージショップで購入した映画館の椅子。床に直接打ち付けて固定している。ラグのコレクションも多い

 

「キッチン家電」は極力隠す?  生活感を減らすコツ

自宅と庭を、レンタルスタジオ「KAMAKULAND」として撮影用に貸し出すこともある塙邸。そのため、生活感がほどよくありつつも、とはいえ出すぎないよう工夫も凝らしていると話します。

塙さん:
極力安くつくるなかで、生活感が出る理由は何かな? と考えたんです。私がたどりついたのは、魚焼きグリルとキッチン家電でした。なので魚焼きグリルはあきらめて、キッチンの引き出しをフラットな印象に。魚はフライパンで焼いています」

塙さん:
「冷蔵庫やキッチン家電は、扉を隔てた隣のスペースにまとめました。子どもが小学生なので、冷蔵庫にメモを貼ることもしばしば。これだとリビングからは見えないので気になりません」

部屋にはたくさんのものが飾られているのに決してごちゃごちゃして見えないのは、さりげない工夫の積み重ねなのだと、話を聞いて感じました。

最終話の4話では、実際に移住してみて思うことや、暮らし方の変化について話をうかがいます。

(つづく)

【写真】ニシウラエイコ


もくじ

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塙麻衣子

インテリア会社「イデー」にて施工部に在籍。退社後、デベロッパーと設計事務所を経て、庭師に弟子入り。2014年、鎌倉山への移住を機に、植物とプロダクトを組み合わせたボタニカルブランド「The Landscapers」を立ち上げる。2016年には旗艦店「AROUND」をオープン。現在は、店舗や個人住宅のガーデニングやグリーンコーディネートも手がける。夫と二人の子どもと4人暮らし。

ライター 大野麻里

編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。


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