【エールのかたち】第3話:「相手のため」ではなく「自分のため」のサポートって?
編集スタッフ 糸井
「頑張って!応援してる! 」そんな言葉に励まされ、これまでいくつか修羅場をくぐり抜けてきました。
でも今、応援する側になってわかるのが、「相手をサポートするのって、難しい」ということ。応援したいと湧き出る気持ちは、心から純粋なものなのに、相手のためをと思った言動が空振りに終わることもしばしばです……。
そこで、「応援スキルをアップしたい!」と、講談社・漫画編集長の助宗佑美さんにお話を聞く本特集。
1・2話では、サポートのノウハウや、「相手に感謝されたい」という気持ちが膨らんでいた時期のことについて話を聞きました。
最終話では、助宗さんがサポートをする上で、一番大切にしていることを教えてもらいます。どうやらそれは、「相手と自分の目的」を常に確認する、ということのようです。
言葉にすれば、いとも簡単なことに思えるこれが結構、厄介もの。応援のしかたに悩む人に陥りがちな課題だと、助宗さんはいいます。
私は、なんのためにエールを送るんだろう?と考えてみる
助宗さん:
「仕事柄、サポートに徹してきて思うのは、相手のためだけを思って何かする必要はないということでした。
大切なのは、まず自分の目的があり、『その目的を達成するために相手をサポートする必要がある』という構図だったんです。
たとえば、漫画家さんと仕事をしている目的は『漫画を一緒に作って、世の中に出して誰かに読んでよかったと思われたい』ということ。
決して、担当の漫画家に好かれたい、感謝されたいというものじゃないんですよね。
その認識が相手ともすり合っていると、お互いの距離感も、付かず離れず保てる。そうすると、してあげたことに対して『なんでもっと感謝してくれないの』と思うことが格段に薄れます」
助宗さん:
「身近なケースで多いのですが、『ただ相手が困っていそうだから救ってあげたい』という突発的な目的で動いている人をよく見かけるんです。
もちろんそれも素敵なことです。でも、『相手のためになりたい』を目的にしすぎると、力んで声をかけすぎちゃったり、かける言葉を間違ったときに、すごく凹む。本当は『間違った言葉』なんてないかもしれないのに、相手の顔色を見すぎてしまうから。
でも本来のサポートの目的は、『作品づくりのため』。それを自分がしっかり認識できていれば、失敗も含めてサポートだと切り替えられるはずだと思うんです」
ときには距離を置くことも
自分が目的を見失わないようにできたとして、相手と目的をすり合わせるときは、どんな風に確認しているのですか?
助宗さん:
「言葉で確認することもあります。この漫画家さん、本当はいい漫画を描きたいと思っているけれど、疲れて見失っているだけなら『こういうことのためじゃなかったっけ? 』と伝えています。
『そうだった!』と気づいてくれたら、『よし、目的は同じなんだから、それぞれのポジションで頑張ろうよ』と元のレールに戻れます。
とはいえ、直接確認しないことも多いですよ。たとえば漫画家さんとの打ち合わせの時間、相手が惰性でただここにいるのか、書けないけどどうにかして書こうとしてるのかって、相手の顔を見ればわかりますから。
でもまあ、しばらく時間をかけてもすり合わない状況だったら、こちらからは一旦距離をとりますね」
仕事や家庭、友人とのつきあいのなか。自分的には「あなたもっとこうしたらいいのに」と思い、機会を見計らって伝えても、相手にとってはそうでもなかった、なんていうことは往々にしてあります。
もし、お互いの目的がずれてきていると感じたとして、それは修正できるものなのでしょうか?
助宗さん:
「究極を言えば、できないと思っています。もちろんアドバイスや少しの話し合いで『明日からはこうしよう』と解決できるくらいの微細なずれは問題ないです。でも、大きなずれは修正できない、という諦めは持っていますね。
話し合いをしてもずれが埋まらない人って、自分の方向性を強く持っている人なんですよね。だから一層、強くずれていく。
でもそれって、向こうにとってはずれじゃないんですよね。私にとってのずれ、なだけ。
別に矯正されることだけが、相手の幸せじゃありませんし。もしかしたら、他の出版社だったらヒットするかもしれないし。
相手の人生としては、それで良いんじゃないかなって」
助宗さん:
「それが、家族間でずれが生じてきているとしたら、状況は少し違ってくるかもしれません。子供が相手だったら、修正する義務が発生すると思うので。
それに、夫婦関係でも『楽しい家庭を作ろう』という目的を、夫もちゃんと持ち続けているかは、なんとなく確かめながら暮らしているかもしれません。そんなニュアンスで、お互いに確かめ合って、サポートしあっています」
夫婦関係でも、目的を作って共有しておけば、何かずれが出てきたときに立ちもどれるレールになる。目的をもって支えることは、仕事だけじゃなく、家族間でもできるのかもしれません。
漫画から学んだ「エール」のカタチ
助宗さんに会うまで私は、サポートというものは「相手のために」という言葉で成り立っていると思っていました。そこには自己犠牲が生まれても、そういうものだと。
でも助宗さんは常に、相手と自分が一緒に見えているイメージを持っていました。あくまで、サポートする目的は、「相手と自分のため」だと。
だから、変に疲れたり、搾取されたり、喜んでもらえると思ってかけた言葉でプレッシャーを与えてしまってとてつもなく凹み・・・なんてことにならないのでしょう。
私にはその姿が、すごく健全なエールのかたちに見えたのです。
別れ際、助宗さんが呟いた言葉が印象に残っています。
助宗さん:
「よく少女漫画で、頬にシャーッと線が引かれて赤くなる描写があるじゃないですか。あれも『惚れるって、感情や体温が高揚することですよね? 』というのを、わざわざ描くことで、定義してあげているんです。
漫画って、全てのコマが1つ1つ、日常で流れちゃうものを止めて、落とし込んでできたもの。放っておいても差し支えない感情を、わざわざ絵にして、セリフやモノローグをつけて『止める』作業で。
相手の言動を一瞬一瞬観察するとか、それをデータベース化するとか、自分のサポートの目的をいちいち確認するとか、そういうことは全部、漫画文化から教わったものなんです」
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
助宗 佑美
静岡県出身。2006年に、講談社入社。少女漫画の編集者として『東京タラレバ娘』『海月姫』(ともに東村アキコ作)、『コミンカビヨリ』(高須賀由枝作)、『カカフカカ』(石田拓実作)など数々の人気作品を担当。「Kiss」編集部を経て、2019年2月、漫画アプリ「Palcy(パルシィ)」編集長に就任。
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