【44歳のじゆう帖】本を読むというセラピー

ビューティライターAYANA

テレビはないけど、本はあった

テレビのない家庭で育ちました。昭和51年の生まれの私、幼少期はテレビのない家庭を他に知らないほどで、友人たちの話題も「昨日あれ見た?」ばかり。テレビの存在は絶対でした。

あの頃の私が、いったいクラスでどう浮かずに生きていたのか、今でも不思議です。

正確には中学2年生のとき我が家にテレビがやってきたのですが、そのときはもう自分のアイデンティティのようなものや生活様式がおぼろげながら形成されかけており、テレビを見るという動作が入る余地がなく、テレビに慣れないままなんとなく大人になってしまいました。

20代で実家を出てからも、テレビを購入したことはありません。息子が欲しがるまでは買わなそう。

その代わりというわけではないですが、実家には本が結構ありました。私も学校の図書室によく行っていたし、本屋に入り浸るのも好きでした。活字も漫画も大好きで(ちなみに、文章を書くのは苦手でした)、それは今でも変わっていません。

それで昔から思っているのですが、本って自分のペースで読めるのがすごくよくて、それがテレビと大きく違いますよね。テレビは受け身だけど、本はページを開くも閉じるも自分次第で、能動的に接するものというか。ちなみにインターネットも自分のペースでできるので、私はネットも大好きです。

謎めいた前置きになってしまいましたが、今回は私の好きな本について、ちょっとレビューしてみようかななんて思っています。

圧倒的に心の滋養となる平松さんの本

まずは平松洋子さん。平松さんの本との出合いは、今はなき神楽坂のla kaguだったと思う。陳列されていた『おとなの味』をなんとなく手に取ってめくったらぐいぐい引き込まれ、なんと立ち読みで1冊読み切ってしまったのです(買いました)。

平松さんの作品は全て読んでいる…とまではいえないのですが、15冊くらいは読んでいて、そのほとんどが食にまつわるエッセイなのに、なぜこんなに飽きないどころか読むほどに夢中になるのか不思議で仕方がありません。

そして読んだあとは必ず、まぶしい新緑のように晴れやかでキリッとした気持ちが残る。

おすすめしたいのが、やはりまずは『おとなの味』。味ってこんなに表現方法があるの、と舌を巻くこと請け合いです。

それから『食べる私』。樹木希林さんや伊藤比呂美さん、土井善晴さんなど、さまざまな人の食に切り込む対談集で、エッセイストの平松さんはインタビュアーとしても素晴らしい手腕をお持ちということがわかる。

誰もが平松さんの前では心を許し、きっと誰にも話さなかったあんなことやこんなことをぽろりと語り出すのです。お見事。

最後に、雑誌GINZAで連載されている『小さな料理 大きな味』というエッセイ。これはレシピつきというところが最高に気が利いている。いま一番書籍化を切望している連載です。WEBでも読めます。

平松さんは、なぜこんなにしびれるフレーズを生み出すことができるのだろう。

目の前で平松さんが話してくれているようなフランクさと、鋭い洞察力と、オノマトペのうまさと癖になるリズム感、そしてそのモチーフの多くがわたしたちにとって身近な食であること、ぜんぶがもう、たまらなくずるいと思ってしまいます。

生きることが愛おしくなる村井さんの本

翻訳家でありエッセイストの村井理子さんは、その存在をTwitterで知りました(多分)。もういつだか忘れてしまったけど、ブログを書かれていて、その内容がべらぼうに面白くてすっかりファンになってしまったのです。

翻訳された本たちの例を挙げると、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』、『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』、『人間をお休みしてヤギになってみた結果』……等。

タイトルだけで卓越したセンスがうかがえるのですが、村井さんの真骨頂は、文章が映像として心に受理され、なんだか泣けてくるその温度感なのです。

例えるならヴィム・ヴェンダースやペトロ・アルモドバルの映画みたいな、静かなのにその内側がなんだかエモく、ああ、人間ってすごく変な生きもので、だからこそ愛おしいねって思えてほろりときてしまうあの感じ。

ご本人は中学生になる双子の息子さんたちと旦那さんと大型犬と琵琶湖のほとりに暮らしていて、その生活ぶりは新潮社のウェブマガジン「考える人」の連載『村井さんちの生活』でも読めます。毎度、なんだかじんわりと泣いてしまいます。

そして1月ほど前に、苦手で疎遠だった唯一のお兄様が遠方で死んだという知らせを受けいきなり事後処理と喪主をやることになった一部始終を綴った本『兄の終い』が発売となりました。

即買いしましたが、これだから人間は愛おしいよね、と思えること請け合いなのでティッシュの箱をご用意のうえぜひお読みください。

誰かの心の中や、誰かの見た風景を教えてもらえるのが本の醍醐味だと思います。それによって、直面している問題の糸口をみつけたり、くさくさした気持ちに風を入れていくことだってできる。

「想像力と数百円」という糸井重里さんの有名なコピーのとおり、いつからでも、どこにいても、ページを開くだけでそれが叶ってしまうんですよね。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

▼AYANAさんに参加してもらい開発した、オリジナルのメイクアップシリーズ
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