【44歳のじゆう帖】猫との生活

ビューティライターAYANA

動物と暮らす、ということ

シーという名の猫(4歳)と暮らしている。

ひょんな出会いから彼を生後三ヶ月で引き取るまで、私はあらゆる動物を飼ったことがなかった。亀や昆虫、金魚すらない。実家に動物がいたことはないし、祖父母をはじめ、親戚一同思い返しても、動物と暮らしている人は見当たらない。

小学生のとき近所に住む友人宅が、文鳥だったかインコだったか、鳥を飼い始めた。それを見て羨ましくなった私は、親に「私も動物を飼いたい」と申し出てみた。

あらゆる決定権を持つ父親からの答えは「動物は死んでしまうから飼うのはダメだ」。その言葉が持つ得体のしれないインパクトに怖くなり、それ以降私は二度と動物を飼おうと思わなくなってしまった。

今思えば、父のその発言はかなり抽象的で、子どもへの進言としては説明不十分である(父親の言葉とは得てしてそういうものかもしれない)。そもそも父は動物を飼ったことがあるのだろうか。

なぜ死んでしまってはダメなのか。悲しいから?世話が面倒だから?動物を飼うなんて楽しいことばかりじゃない、その重さをお前は背負えるのか、そう言いたかったのだろうか。それとも父自身がその重圧に耐えられないと言いたかったのだろうか。なんとなく後者のような気もするが。

猫という動物への憧れ

私が猫を好きになったのはいつからだろう。あまり覚えていない。

「犬派か猫派か」と問われる場面ってちょいちょいあると思うのだけど、私は猫派。犬だってウサギだってキツネだって嫌いじゃない。でも好きなのは猫。ちなみに次点はフクロウ。

松本大洋さんの漫画『鉄コン筋クリート』のなかに「犬って嫌いだな。こいつら誰にでもシッポ振るんだぜ」というセリフがあって、猫はちゃんと自分を持っていて気高いんだぜと言っているようで、なんだかかっこいいな美しいなと思った記憶がある。

当時高校生、猫を意識するようになったのはあのあたりからだろうか。それともコニカのビッグミニで写真を撮りはじめ、近所の野良猫たちを被写体にするようになった大学生のあたりだろうか。

それからも、神様の寵愛を受けて精密に開発されたとしか思えない美しすぎるフォルムと、猫の気高い精神との相性のよさには感服するばかりで、私はずっと、そこに何かしらの理想を見ていたのかもしれない。

猫が好きだけど、飼いたいと強く思うことはなく、プラスティックなアイドルを画面越しに見るような感覚で、猫という存在を捉えていた節がある。

でも中年になり、めちゃくちゃ気軽に「やってないことをやっておきたい」みたいに思う終活みたいなタームがやってきたときに、猫と暮らすことや出産についてついボンヤリ想像してしまった。

そこからご縁が重なって、保護猫のシーと私は出会ったのだった。

実体験にかなうものはない

さあ、シーと暮らしてみて4年。猫に限った話ではないが、ひとつの属性の特徴を定義しすぎると、そこに理想や幻想が紛れ込んでしまう、というのがよくわかった。猫も個性でさまざま。

シーに関してはどちらかというと「お主は犬か?」と言いたくなる局面が多く、猫という生き物に思い描いていたイメージよりもなんか無邪気な生き物であった。気高く美しいというよりはドタバタコメディの登場人物みたいな。

家に帰ると、一階の入り口に自転車を停めた時点からうるさく鳴きはじめ(ご近所迷惑)、階段を上りドアを開けようとすると今にも飛び出さんとする勢いで内側からドアを押してくるし、家に入っても抱きかかえて撫でない限り、私について回って鳴くのをやめない。

あるいは、息子に絵本を読んだり、膝にのせて歯磨きをしたりしていると、必ずふたりの間にぐりぐりと割り込んでくる。

オンラインで打ち合わせをやっているときなんかは、こっちを構えって感じでめちゃくちゃ大声で鳴いては膝に乗って頭をすりつけてくる。

正直私は彼のこの犬っぷりに引いている。そんな風に思うこと、猫と暮らすことがなければ絶対に体験できなかっただろう。「あなたはあなたで生きてね。私は私で生きるわ」ってのが猫だよねと思っていただろう。

猫と暮らすことでいろんな感情が生まれる。なでることで慰められたり、服をボロボロにされてイラついたり、泣き喚かれて面倒だったり、その感情の機微が愛おしかったりする。

それらの小さくて多様な感情のピースを、組み合わせて一枚のタペストリーを作っていくような日々。そこにはキラキラした色もどんよりした色も混ざっていて、でもそのすべてが、猫との生活を通してはじめて体感できたもの。

そのタペストリーこそが豊かさの象徴なのではないか、なんて思う。

かつて父に言われた「動物は死んでしまうから飼うのはダメだ」という言葉に対して、今なら私は、やってみないと味わえない物語がある、と言い返したい。私は強欲だから、なるべく多くの感情を、感動を、味わって死にたい。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

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