【とっておきの椅子選び】第1話:お気に入りのデザインの見つけ方。北欧家具「talo」を訪ねました

編集スタッフ 栗村

ダイニングチェアには、いつかとっておきのものを迎えよう。そう決めてから全然椅子が買えません。

部屋で浮かないか、長く座っても疲れないか、大きすぎて邪魔にならないか……

特に最初の1脚となると、気になることがありすぎて、なかなか選べないでいます。

 

椅子を選び続けて20年。北欧家具taloの山口太郎さんを訪ねました

そこで今回は、僕が毎日のように訪れているwebサイト北欧家具「talo(タロ)」の実店舗に伺い、椅子選びのポイントを教えてもらいました。

代表である山口太郎さんは20年近くビンテージの家具と向き合い、買い付けのために1年の約半分を北欧で過ごされていらっしゃる、まさに椅子の目利き。

普段、お客さまにはどうのように案内されているのでしょうか。第1話目では、デザインを中心に自分の好みを知る方法を教えてもらいました。

 

フィンランドか?デンマークか?まずは2択で絞る

山口さん
「北欧の椅子と言ってもたくさん種類があるので、1脚だけお気に入りを選ぶのって難しいですよね。はじめて買うとなったらなおさらです。

だから、迷われているお客さまがいたら、まず直感で好きな椅子を指差してもらいます。

そしてその椅子が、フィンランドの椅子なのか、デンマークの椅子なのかで、その人の好みを分けるんです。

この2カ国はデザインはもちろん、作られ方が全然違うので最初に分けてあげると選びやすくなります」

▲店舗も中心から右がフィンランド、左がデンマークと分かれていました

山口さん
「ざっくりと好みがわかったら、それぞれの国の特徴を説明しながら、その方が椅子にどんなことを求めるのかを探っていきます。

例えば1脚で部屋がおしゃれになるような美しい椅子が欲しいのか、それとも長く座るために座り心地の良い椅子を求めるのか、コンパクトでどんな場所でも使えるものが欲しいのかなど。

デンマークとフィンランド、それぞれの椅子の特徴がわかると、欲しい椅子がかなり絞られていきます」

 

アートのようなデンマークの椅子

山口さん
「デンマークの特徴は、美しい椅子が多い。上質な木材を使って、デザイナーと職人が100点満点を目指して作っているんです。アート作品に近いイメージです。

だから1脚あるだけで、部屋をおしゃれにしてくれます。

そして見た目だけでなく、座り心地にもこだわって作られていて妥協が少ない。日本の物づくりに近いかもしれません。

でも反対に、作者の意図が強く出ているので、使う場所や使う人を選ぶ椅子でもあります。サイズ感もフィンランドのものに比べると大きいものが多いです。狭い空間におくと窮屈さが出てしまうことがあるので、どんな場所で使いたいのかイメージしながら選ぶことが大切です。

またデンマークにはデザイナーがたくさんいます。例えばセブンチェアのアルネ・ヤコブセン、Yチェアを作ったハンス・J・ウィーグナーや、フィン・ユールなど、それぞれに特徴があるので、デザイナーごとに深ぼっていく楽しみもあります」

 

余白を残したフィンランドの椅子

山口さん
「フィンランドの椅子で多く見かけるのが、アルヴァ・アアルトがデザインしたもの。

そしてアアルトのものは見慣れた普通の椅子なんです。座り心地も見た目通り、すごくいいというわけではない。

でも使っていくうちに『これでいいんだ』と感じるようになって、次第に『これがいい』に変わっていく。

この作り込まれすぎていない、余白がフィンランドの特徴です。

コンパクトで、シンプルなデザインなので使う場所や人を選びません。

感覚的には、ティーマの食器とかに近いです。見た目は普通だからこそ、使ってみてその良さを理解していく楽しみがありますね。

家具にまつわる仕事をしている人に愛用者が多くて。いろんな椅子を試して最終的にアアルトにたどり着くというのが結構あるみたいです。

見た目が素朴なので、あまりにモダンすぎる家には合わないかもしれません。マンションをリノベーションしたようなやや味わいのある空間などには、もうバッチリ合いますよ」

 

組み合わせで楽しむフィンランドと、1脚でおしゃれなデンマーク

山口さん
「フィンランドの椅子は、迎えた時にどんな家具やインテリアが合うかイメージしやすいんです。

器だったらティーマや、アラビアの少しぽってりとしたものを使いたくなりますし、壁にはフィンランドのポスターとかも欲しくなるはず。椅子自体がシンプルなので、他の家具との集合体でおしゃれになっていきます。

逆にデンマークは、1脚だけで存在感があっておしゃれ。だからその分、他にどんな家具を組み合わせるか、難易度が高いということでもあります」

 

誰でも修理できるアアルト、職人が直すデンマーク

山口さん
「あと特徴的なのは、アアルトの椅子はとにかく丈夫。ビンテージで残っている椅子がたくさんあります。

もともと病院で使われることを想定したデザインだったので、壊れにくくて修理がしやすい。

不具合が起きたら誰でも直せるように、基本的に構造がシンプルで、パーツはネジだけで組み合わされていることが多いです。

だけどデンマークの場合は違います。美しさを優先して、できるだけネジを使わない構造になっているか、使っていても表に出さないことが多い。

だから、デンマークの椅子は家具職人じゃないと直すのが難しいという一面があります。

椅子は使っていくうちにいつかは緩んでくるので、そうなった時にちゃんとお付き合いできるかどうかという心づもりが、デンマークの椅子には必要です」

 

フィンランドとデンマークの中間の椅子

▲ボーエ・モーエンセンのmodel.1222(左)とmodel.122(右)

山口さん
「美しさを追求されたデンマークの椅子ですが、そんな中でもフィンランド的な椅子があるんです。

それがボーエ・モーエンセンの椅子です。モーエンセンの椅子は、もともと量産品としてデザインされたものが多く、デザインも美しすぎず、ぽってりとしています。

特にペーパーコードを使った、J39という椅子や、その形に近いものはコンパクトで日本の家でも使いやすいですよ。

他にもハンス・J・ウェグナーの椅子も量産品として作られたものが多く、美しいけれど、取り回しのしやすいものが多いです。きっとウェグナーのYチェアが人気なのは、軽くて、取り回しがしやすくて、美しさもあるからなんだと思っています」

フィンランドかデンマークか。山口さんに好きなデザインを伝えたら問診を受けているみたいに、だんだんと自分の好きなデザインの傾向がわかってきました。

さて、続く第2話では座りやすい椅子の選び方や、デザイナーの椅子の特徴を教わります。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門


山口太郎(やまぐちたろう)

1973年生まれ。神奈川県伊勢原市にある北欧家具taloのオーナー。27歳でフィンランドに行き、北欧家具の買い付けをはじめる。現在は1年の約半分を北欧で過ごす。
WEBサイト:https://www.talo.tv/


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