【家族はめぐる】巣立つ子におろおろしながら気づいたこと(文筆家・大平一枝さん)
編集スタッフ 松田
スマートフォンで写真を撮るのがふつうになった今、写真をプリントする機会もぐんと減りました。わたしの実家にある家族の写真アルバムも、いつの頃からか時が止まったように増えなくなり、少し切なく思います。
さて、キヤノン インクジェットプリンター PIXUS TS8430と一緒に、「写真をプリントすることの魅力」について考えながらお届けしてきた、毎回書き手がかわるリレーエッセイも、とうとう最終回。
最後に綴っていただくのは、連載中の金曜エッセイでもおなじみ、文筆家の大平一枝さんです。
(この記事は、キヤノン「PIXUS TS8430」の提供でお届けする広告コンテンツです)
いつか整理しなくちゃと思っていたのですが
大平さん:
「スマホで日常的に写真は撮るのですが、この数年はプリントする機会がなくて。家族の写真は、いつか整理しなくちゃと思いつつ、つい撮りためたままになっていました」
今回、データのままになっていた写真をプリントして、息子さんにアルバムにして贈ってみたいと大平さん。
そこで感じたことを、特別にひとつのエッセイに書き下ろしていただきました。
巣立つ子におろおろしながら気づいたこと
現在25歳の息子は、デジタルカメラからスマホに移行する時代に育ち、見事に中学生からアルバムが1冊もない。スマホの写真データが満杯になると、PCのハードディスクに落とし、気づいたらプリントアウトせぬまま10年が過ぎていた。そのうちやろう、まとめてあげようと思っているうちに、本人は大学の同級生と昨年結婚、あっというまに独立してしまった。
あまりに早い巣立ちで、いまだに私は少しおろおろしている。
ひとり欠けた食卓に慣れず、肉をたくさん解凍しかけて、ああもうよく食べる人はいないのだったと半分冷凍庫に戻したり、クリスマスや誕生日に食べたいもののリクエストを聞けない寂しさを噛み締めたりしている。
コロナ禍で挙式が今夏に延期になった。式までに、中学から今日までのデータをアルバムにして贈ろう。そう思いつつやっぱり重い腰があがらずにいたら、たまたまこのエッセイのお話をいただき、自宅プリントに挑戦することに。
ちょうどよいタイミングだと小躍りし、A4サイズが入るぶ厚いポケットファイルや写真用紙を買い込み、はりきった。
予想どおり、重い腰どころか、たった3回の週末で長年の「写真整理ができていない自分」への自責が解消された。
いっぽう、予想外の行動の変化もあった。
長野で暮らす私の両親にも、オリジナルアルバムを作ってあげようと思い立ったのだ。出産してから、孫の写真を紙焼きで渡したのは0歳の頃、ほんの何回かだけだと気づいた。
いちばんよく知っている父と母の姿が
息子と娘(21歳)のために写真を選んでいたら、傍らに若い父や母の笑顔があるものが多かった。
膝に孫(私の妹の子)を乗せて本を読んでいる父。頭にカーラーを巻いたパジャマ姿の母。笑顔の集合写真や記念写真と違い、スマホがとらえた姿は日常の他愛もない、けれど私が子どもの頃からいちばん良く知っている素のままの両親がいた。
スマホの写真からは、とりつくろいきれない日常がにじみ出る。デジタルの箱の奥で眠っていた思い出たちを、光の中に引き出してあげたい。与えてくれるばかりだった両親に、せめてどんなときもその愛情があたたかく私や孫たちに降り注いでいたことへの感謝を、伝えたいと思った。
息子のアルバム作りが、自分の親に感謝する時間になろうとは、本当に想定外である。
沈んだ顔のふたり
今回、最初にプリントアウトしたのは、笑顔のない息子と娘の2ショットだった。リビングで暗い表情の娘と、真剣な目の息子がなにやらパソコンをのぞいている。少しピンぼけしているこの写真がたまたまデータの最上部にあった。
なんの記念日でもないが、忘れていた記憶がありありと蘇り、胸がぐっと締め付けられた。私立中に進んだ娘が、高校は公立に行きたいといいだし、進路に悩んでいる真っ最中のころだ。
当時、私たち夫婦にとっても一大事で、毎日食卓がどんよりしていた。ある日、サークルやバイトに忙しかった息子が見かねて、妹の相談相手になったのだった。
記憶の彼方に消えかけていた、あの重苦しい夜。大人には心を開ききらない娘も、兄の言葉には耳を傾ける。
どんなきっかけだったか、それさえ忘れるほど、娘の中の小さな嵐はすぐに通り過ぎ、いつもの我が家に戻った。だから、この写真を見るまですっかり忘れていたのである。
家族の毎日とは、こんなとるにたらない小さな喜びや悲しみや不安やとまどいでできている。みなでささやかな喜怒哀楽を一緒に共有しながら、日々はさらさらと流れてゆく。
楽しそうに登校する娘を見て、夫や息子と顔を見合わせほほえみあった朝も。おかんは妹の気持ちがちゃんとわかっていないと息子に諌められた夕も。
自分が子どもの頃のアルバムを見ると、入学式や誕生日や卒業式や旅などハレの日が句読点となり、それらの点をつなぐと、自分の成長が可視化できる。
だが、いま私が作ったアルバムは、特別の日からこぼれ落ちたふつうの日々が、句読点よりもっとこまかな点となり、時間という一本の線になる。
こうしてみると写真を印刷して並べるという作業は、かぼそいけれどたしかにつながってきた線のぬくもりを、確かめる行為のように思える。
息子用のアルバムのポケットファイルは、はかったかのように、籍を入れて両家でお祝いした日で1冊終わった。
これからは、彼女とふたりで新しいアルバムを作っていくのだろう。私や夫はもう映っていないんだよなと思いかけたが、いやそうでもないぞと考え直す。だって、息子のアルバム作りで、私は両親とたくさん再会できたのだもの。
家族はめぐる。
写真は想像以上に雄弁だった。
***
スムーズなプリントが、気持ちを後押ししてくれました
▲大平さんが選んだカラーはレッド。仕事部屋が明るくなったと、色味もお気に入り
今回の息子さんへのアルバムは、つくるのに3日間ほどかかったといいます。PIXUS TS8430はつかってみて、いかがでしたか?
大平さん:
「約8年間分の写真だったので、データを整理するのは大変じゃなかったわけではありませんが、思いのほか楽しくて。始めたら、あっという間に感じました。
機械には苦手意識があったのですが、セットアップの際は説明書を見る必要もなく、画面に設定の順序が出てきてかんたんでした。数十枚の写真がスイスイとプリントできて快適だったのも、アルバムづくりへの気持ちを後押ししてくれたように思います」
▲大平さんは、複数の写真をコラージュしてA4サイズでプリント。『Easy-PhotoPrint Editor』のアプリを使えば、コラージュもかんたんです
▲ポケットファイルには、年ごとにラベルもつけて。「思い出や行事ごとの写真をA4一枚にまとめるようにしました。アルバムも嵩張らず、見やすいですよ」と大平さん
大平さん:
「自宅には以前からプリンターはあったのですが、PIXUS TS8430は家族で共有しやすかったのもよかったですね。
各自のスマホにアプリをダウンロードしておけば、写真はもちろん、最近リモートで授業を受けている娘や在宅ワークが増えた夫も、それぞれ自由に書類をプリントしています」
▲Wi-Fiさえ繋がっていれば、家中どこからでもプリントできます
全4回にわたって、「写真をプリントすることの魅力」についてのエッセイを綴っていただきました。プリントした写真を通して、過去の自分を肯定できたり、一人じゃないと励まされたり。忘れていた記憶が蘇り、その瞬間がより一層大切な一瞬として心に刻まれる。
それぞれの方のエッセイを読んで、わたしも普段の何気ない写真をもっとプリントしたいなと思いました。これから成長していく娘のために、今なかなか会えない友人や家族のために、そして自分のために。
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【写真】木村文平
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(25歳)一女(21歳)の母。
大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com
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