【おとなになること】後編:「大丈夫だよ」の一言が、こどもの気持ちを支えてくれる?(俳優・栗林藍希さん)
ライター 長谷川賢人
2021年6月18日(金)に全国公開を迎える、劇場版『青葉家のテーブル』に登場するキーパーソンのひとり、高校生の国枝優子。美術予備校に通うため、青葉家で居候を始める彼女は、母との関係や進路の悩みを抱えます。
センシティブながら、劇中でも大切なこの姿を演じた俳優の栗林藍希(くりばやし あいの)さんに、前後編でお話を聞いています。栗林さんは15歳から芸能活動をはじめ、ドラマや映画に多数出演。つい去る4月には20歳を迎えられ、『青葉家のテーブル』撮影時には、まさに優子と同年代。
映画のことはもちろん、優子を通じた眼差しや栗林さんが過ごす日々から、おとなに近づくことについて葛藤したことまで、後編では深めてみました。
大好きなサッカーで挫折…閉じこもる日々を変えられたきっかけ
劇場版『青葉家のテーブル』で、栗林藍希さん演じる優子は、母の知世との関わり方に悩んでいる姿が描かれます。一方、現実の栗林さんは「お母さんとの関係はずっと良好。喧嘩も一切していません」といいます。
優しく、家族思いで、常に自分を気にかけてくれる。一番に尊敬する存在であるお母さんからの応援に、栗林さんも「良い姿を見せて応えたい」と心を熱くします。ただ、今のように感じられるのは、故郷の新潟からの上京体験に、大きく影響された面もあったようです。
栗林さん:
「新潟では、小学生からサッカー選手になりたいという思いだけで生きていて、サッカー以外のことなんてしたことがないくらい。中学2年生の時にケガや、クラブチームでのレベル差もあって挫折しました。
友達も男の子ばかりで、挫折してから初めて女の子たちと関わるようになったら、どうも苦手なことも多くて……実は、学校も何もかもすべてがイヤになっていた時期でした。現実逃避で映画を観たり、本を読んだりしていて。10歳下の妹や、実家の犬を癒やしの存在に自分を保ちながら、家にこもる生活を送っていました」
栗林さんの世界を広げてくれたのは、洋服好きなご両親でした。そのふれあいは、芸能活動を始めるきっかけにも、自分の興味を外に向ける存在にもなったのです。
栗林さん:
「お洋服はお父さんとお母さんがすごく好きで、習うように影響を受けています。正直、今の流行はわからないけれど、両親が好きだったものはよくわかるんです。ブランドでいうとUNDERCOVERやGOODENOUGHといった裏原系とか。今も毎日、お母さんやお父さんからもらったものを、お守り代わりに一つは絶対身につけています。
14歳くらいから地元で芸能活動をはじめて、高校1年生の夏に上京しました。いざ離れてみたら、ホームシックになってしまって……暇さえあれば新潟へ帰りたくなったし、お母さんに会いかった。よく言われるけれど、近くにいると大切には思えないのは本当なんだな、と気付きましたね。気づいてからは、ぐっと仲良くなったかもしれないです」
頼れるおとなの存在で、殻を破ることができました
劇中、優子も青葉家へと居候し、母との距離を置きます。そして、自分の殻を破るきっかけを、青葉家の面々との関わりの中から見つけていきます。中学生で大きな挫折を経て、上京の苦しみに悶えた栗林さんは、いかに殻を破って今のようになっていけたのでしょう。
栗林さん:
「殻に閉じこもっていた時は『おとなの人が嫌だ』という思いが強かったのですが、でも、逆に殻を破れたきっかけも、おとなの人のおかげです。一度は毛嫌いして大人から離れようと思ったけれど、もう一度頼ってみたら受け入れてもらえて、信用してみようかなと思い直したんです。そういうことが何度か続いて。
正直、損得で考えている部分もあります。でも、絶対に得をした方がいいし、嫌な人でも関わらないといけないことがあるってこともだんだんわかってきて。だから、私は『面白く考える』ようになりました。自分にとって得になるように、とりあえず変換してみる。『嫌なことだけれど、私のことを思ったなりの行動だったのかな』とか。“嫌だけど、嫌いになるのは違う”って感じです」
栗林さん:
「それに、自分が疑いの眼差しから入っていったら、おとなだって私を信じてくれないですよね。裏切られるのは怖いけれど、頼れると思える人なら一度はまた頼ってみようと、19歳くらいから考え方を変えていきました。そうしたら、いろんな人がいるからこそ、“おとな”というくくりで見るのはよくないな、とも気づけました。
『青葉家のテーブル』の撮影から半年くらい前のことで、タイミングがよかったです。でも、また5年くらい経ったらひねくれ精神が出て、考え方が変わってしまうかも(笑)。そういうときに、私はきっと、優子のことを思い出すと思います。こどもとおとなで中途半端なあの頃は、こんなふうに考えて楽になっていたなぁって、励みにするんでしょうね」
「味方でいる」とわかることが、こどもにとっては頼もしい
多感な10代を呼び習わすときに、「何を考えているかわからない」という言葉がつくものです。こどもとおとなの間にいる栗林さんだからこそ、どちらの気持ちも、身近にわかるのかもしれません。「どんなふうに、おとなには接してほしいものでしょうか」と聞いてみました。
栗林さん:
「『何かをしろ』と言われるよりも、『こうした方がいいんじゃない?』って言われた方が、私はしっくりきますね。中学生の頃、私が人間関係で悩んでいるときも、お母さんは『無理して大勢の人と仲良くする必要はないよ』とか、いろいろ助言をしてくれて。
『もっとこうすべき』とは言わずに、『私もそうだったから』と教えてくれたのが、今思えば良かったです。自分とお母さんの悩みが似ているとも素直に思えましたし。
優子と一緒で、私も進路のときにすごく悩んだんです。地元の高校へ行くか、上京するか。そんなとき、お母さんたちのほうが人生経験は豊富ですし、助けてくれた。ピンチのときに助けてくれる存在は、10代からすれば『自分の味方だ』と信じられるきっかけだと思いますし、そういうときこそ、おとなにはチャンス!と思っていいのかもしれないなと(笑)」
人生を長く生きたから、つい口を出したい気持ちも出てくる。それでも、大切なのはそれを押し付けることでは決してなく、「味方でいる」と感じてもらうこと。それは、シンプルですが力強い線引きにも思えます。
栗林さん:
「知りたいことがいっぱいあっても、実際に聞けるおとながいなかったな、とも感じるんです。だからこそ思うのですが、そういうこどもたちの味方となって、悩みを察して、アドバイスを贈れるおとなでありたいですよね。きっと難しいこととは思うのですが、様子を見つつ。
それに、『大丈夫だよ』の一言をかけるだけでも、きっと良いはずなんです。上京のとき、いろんな人に『そんな若さで東京なんて家族は止めなかったの?』と言われましたが、家族は絶対に止めることもなく。やりたいことは自由にやらせてあげるスタンスで、それが嬉しかった。
『やりたいならやればいいんだよ』と、肯定してくれる言葉をもらえるだけでも、気持ちってぜんぜん変わるんですよね。そういう存在になってあげるのが、一番なんじゃないかなって思いますね」
いろいろな年代の人に、観てほしい映画になりました
上京して5年あまり。自らの殻を破り、『青葉家のテーブル』でつかんだ優子役を演じきった栗林さんは、試写会の席で「両親に見せてあげたい」と思いが湧いたといいます。
栗林さん:
「これまで明るい役柄をあまり演じる機会がなくて……前向きで、困難に立ち向かっていくような、自分の中に本来ある姿をやっと見せられます。たぶん、お母さんたちは私のそういう部分を知っているから、スクリーンに写るのは優子だけれど、感動してくれるんじゃないかなって。
自分がたくさんのシーンに出ているのもあって、観る前はドキドキしていたんです。でも、上映時間が過ぎていくにつれて、体の力がふっと抜けて。終わったときには涙がポロポロと出てきました。作品そのものにも感動しましたし、自分がこれほど大きなスクリーンに映っていることにも感動してしまって。涙は出たけれど、本当に面白かったです」
劇場版『青葉家のテーブル』は年齢を問わずに楽しめるところも魅力、と栗林さん。自分たちが演じた10代の葛藤も、おとなたちの“疎遠”や“若気の至り”との奮闘も詰まっているからです。最後に、これから観る方たちへ、メッセージをいただきました。
栗林さん:
「いろいろな年齢の方が楽しめる作品だと思います。おとなの方たちなら、春子さんたちの“20年の絆”に心動かされるでしょうし、私と同い年くらいの方たちは、進路が別れるときの葛藤に共感できるはず。
高校生以下なら、リクたちが結成するバンドメンバーの楽しい雰囲気に惹かれたりするかも。みんなで一緒に観て、楽しんでほしいですし、泣いてほしいですし、笑ってほしい。心を動かしてほしいなと、思います」
映画は6/18(金)〜全国劇場にて公開!
特別パンフレット付き前売り券も販売中です。数に限りがありますので、ぜひお早めにチェックしてくださいね。
映画『青葉家のテーブル』
公式ホームページ
【写真】山根悠太郎
【ヘアメイク】タケダナオコ
【スタイリスト】高上未菜
【衣装協力】
ワンピース¥47,300/near.nippon(ニアー)、サンダル¥30,800/quartierglam(デュプレックス)、ネックレス¥26,400/PLUIE(プリュイ トウキョウ)、バングル/スタイリスト私物
問い合わせ先
デュプレックス tel:03-5789-3109
ニアー tel:0422-72-2279
プリュイ トウキョウ tel:03-6450-5777
栗林藍希
2001年生まれ、新潟県出身。「新潟美少女図鑑」で注目を集めデビュー。主な出演作に、映画『左様なら』(18)『クロガラス2』『シスターフッド』『クローゼット』(19)、ドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』(19)『就活生日記』(20)など。テレビ東京「音流〜ONRYU〜」MC。
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