【おしゃれな人】第1話:就職難の中、独学ではじめたウェディングドレス作り。

ライター 一田憲子

さっとすれ違いざまに、「わあ、素敵な人だな」と振り返る。一度会っただけなのに、佇まいが記憶に残る。

「おしゃれ」というと、どんな服を着て、何と何をどうコーディネートして……と考えがちですが、実は、もっと感覚的で、その人だけが持つ「気配」のようなものじゃないか?と感じることがあります。

ウエディングドレスのブランド「ロンブル エ ラ ルミエール」を主宰し、ドレスのデザイン、制作を手がける山室瑠衣(やまむろ るい)さんも、そんな方でした。

ワイドパンツに合わせるトップスは、ピタッと体にフィットするニット。アクセントに取り入れたスカーフの色や、モダンな形のイアカーフが、ピリッと効いてシンプルだけれど、計算しつくされたバランスの美しいこと!

神宮前のヴィンテージマンション内にあるアトリエ兼お住まいでお話を伺いました。

▲「アイリーン・グレイ」デザインのソファとサイドテーブル。古いマンションにモダンな家具が見事に調和している。

 

時を経たヴィンテージマンションに、モダン家具を組み合わせて

「実は、物件マニアなんです」と笑う山室さん。東京オリンピックの年に建ったというこの古いヴィンテージマンションも、ずっと憧れていたそうですが、なかなか空きがなく、知り合い経由で、「こんな部屋があるけどどう?」と教えてもらったときには、飛び上がるほど嬉しかったのだとか。

以前のアトリエに引っ越したばかりだったのに、即決でこちらに移ってきました。

山室さん:
「ずっと少ないもので暮らしてきたんですが、5年前に結婚してから、好きな家具を少しずつそろえています。フランスに行ったときに女性建築家、アイリーン・グレイが、夏の数ヶ月を恋人と一緒に過ごした、というヴィラを訪ねました。

それが本当に素晴らしくて。そこで、私は今まで選択肢にはなかった、スチールパイプに恋をしてしまったんです」

▲こちらはスイスの「USMハラー」の家具。アートブックや好きな花を飾っている。

そこでこの新居にも、アイリーン・グレイデザインのスチールパイプを使ったソファーやテーブル、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセンのダイニングテーブルなどをそろえました。

究極のシンプルさを追求したスチールパイプの機能美は、意外や古いマンションによく似合います。

 

自分が必要とされる場で仕事がしたい

実は、ヴィンテージマンションも、モダンな家具も、山室さんが今作っているウェディングドレスも、1本の線でつながっているのだと言います。

北海道出身の山室さん。服飾の専門学校に行くために上京。卒業後は縁あって秋田県に移住し、飲食店の立ち上げに加わって働き始めました。そうこうするうちに、友人からの誘いで、秋田市内の古いビル内にアトリエを持つことに。当時からすでに友人に頼まれてウエディングドレスを作るようになっていたそう。

どうして、ウェディングドレスだったのでしょう?

山室さん:
「普通の洋服は、私の役割ではない気がして。周りには素敵な洋服がすでにありましたから。それよりも、当時はウェディングドレスにほとんど選択肢がなく『貸し衣装屋さんに、気に入るものがなくて』という方がたくさんいらっしゃったんです。

『なんにもなくていいのに、絶対に”何か”がくっついているんです』とみなさんおっしゃって(笑)」

▲「フリッツ・ハンセン」のテーブルに、「ハンス・J・ウェグナー」のYチェアを組み合わせた打ち合わせスペース。

実は、山室さんがウェディングドレス制作に関してはまったくの独学。洋服の型紙をベースに展開させていったそう。

山室さん:
「私がデザインするのは、基本的には伝統の形に忠実だと思います。Aラインやマーメイドライン、プリンセスラインなど。女性の体を柔らかく、すっと美しく見せてくれるラインは昔からずっと変わりません。それは、長く残っている建物や家具の普遍的なフォルムやデザイン性に通じている気がします」

28歳で東京に戻り、アルバイトをしながら物件を探してアトリエを持ちました。それにしても、どこの会社にも属さずフリーランスとして働き、しかも作るものはウェディングドレスだけ、と絞る潔さといったら! 「それ1本で食べていけるかな?という不安はなかったのですか?」と尋ねてみると、「なんとかなるだろうと思って」と笑います。

 

学ぶことで、作りたい形に近づいて

▲山室さんが作ったウェディングドレス。ボディはシルクサテン、シルクタフタ、シルクシフォンなど。真っ白ではなく優しい生成りの色合いが中心。

「余計なものがくっついていない」。それが山室さんが作るウエディングドレスのベースです。そのためには、過不足のないフォルムや、シンプルだけれどニュアンスのある素材感や色であることが必要。そこに山室さんらしさをプラスしているのが繊細なディティールです。

4年前から、フランスのオートクチュール刺繍学校にリュビネル刺繍を習いに行っているそう。

山室さん:
「リュビネル刺繍は、フランスのリュビネル地方で始まったもの。パリに工房があったのですが、だんだん衰退してしまって……。そんな時、シャネルが技術を守るために傘下に納めたんです。そこが90年代から始めたという学校のことは、ウエディングドレスを作り始める前から知っていました。

それまで手で刺繍をしていたんですが、どうしても表現できない美しさがあって。そこで、『やっぱり今学びに行かなければ』と決意したんです。

以来、1年に一度1か月半ぐらい集中して通うようになりました。私にとってそれは、本当に幸せなひとときだったんです」

▲専用の針を使って、薄い生地の裏側から刺繍を施す。手ではできないより細かいあしらいが可能に。

薄い生地にビーズなどを縫い止めることができて、自由に自分の好きな絵を刺繍で描くことができるのでとても楽しいです。楽しすぎて毎日夢に見るぐらい(笑)。残念ながら去年から、コロナで行けなくなってしまって」


▲ 特殊なかぎ針を使い、ビーズやスパンコールなどを効率よく早く縫い留めることができるのが、リュビネル刺繍の特徴。

一着ずつオーダーで作る場合もあれば、ドレスのレンタルも。レンタルする場合も、試着してサイズが合わなければ一度ドレスをほどき、その人に合わせて再度縫い直すと言いますから驚きです。

 

働きすぎて体を壊し、自分を甘やかそうと決めた

5年前に結婚して、仕事の仕方ががらりと変わったという山室さん。それまでは、人生=仕事で朝起きてから夜寝るまでずっと仕事をしていました。

山室さん:
「寝ずに仕事をすることもしょっちゅうで……。そうしたら30歳のときに心臓発作を起こして倒れたんです。明らかに働きすぎでした。彼と出会って結婚してからは、夕方6時には仕事を終え、そこから夕飯の準備をします。やっと自分を甘やかせるようになりました」

▲コロナ禍で、部屋にグリーンを置いて楽しむようになったそう。好きであつめていたガラスの器を利用してテラリウムに。

社会のすでにある仕事に、自分を合わせるのではなく、自分が好きなこと、美しいと思うことをひとつずつ集め、新たな仕事を立ち上げる……。それが山室さんの選んだ道でした。だからこそ「物件好き」「フランス」「スチール家具」「刺繍」という一見バラバラなパーツがすべて組み合わされて、山室さんにしか生み出せない世界を立ち上げることができたのかもしれません。

そしてそれこそがきっと山室さんの「たたずまい」や「気配」をもつくっているはず。

次回は、そんな山室さんのおしゃれについてのお話を伺います。

 

【写真】鈴木静華

 

もくじ

 

山室瑠衣

デザイナー、ドレスメーカー。北海道帯広市生まれ。バンタンデザイン研究所ファッション学部で、パターンを学ぶ。2006年、秋田県にウエディングドレスと服飾資材を販売するアトリエ兼店舗「トワル rui」をオープン。2008年より、オーダーメイド専用アトリエ「アトリエトワル rui」とし、予約制のサロンに変更。2011年東京に移転。2014年からプレタポルテライン「ロンブル エ ラ ルミエール」をスタート。シンプルでありながら、美しいフォルムと、他にはない繊細な刺繍をあしらったウエディングドレスは、知る人ぞ知る存在。https://www.l-lumiere.com


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