【チャーミングな家】第1話:はじまりの話を、中庭を眺めながら。

ライター 小野民

人それぞれに性格があるように、家にもきっと性格のようなものがある気がします。

まじめ、おしゃれ、チャーミング、自分の家はどんな性格だろうと考えてみると、なんだか愛おしさが増すような……。

そんなことを考えさせられたのは、まさに「遊び心があってチャーミング」と形容したい素敵なお宅を訪問したから。

家のあちこちで工具が出番を待っていて、どんどん変わっていくことを楽しんでいるような、建築家の戸田晃さん、優子さんの家。家主2人の遊び心と工夫がいっぱいのインテリアは、家をいきいきとした雰囲気で満たしています。

開放感ある自宅兼事務所を案内していただく全4話。第1話では、家の中心にある中庭を眺めながら、この家を建てた理由や暮らしについて聞ききました。

 

もうすぐ築20年。未だ「実験中」の家

戸田さん宅が建つのは、もともとは優子さんの祖父母が住んでいた家があった場所。老朽化していて、リフォームは叶いませんでしたが、床材や建具などは新しい家に再利用されています。

▲祖父母の家の欄間やガラス戸はリビングと土間の仕切りに

晃さん:
「我が家は『つくりすぎない』がテーマで、居心地のいい箱だけつくってあとは暮らしながらいろいろ手を入れていけばいいね、と。仕事柄、自分でつくりながら試したいというのもありましたね」

▲家づくりの過程や暮らしを綴ったブログを中心にまとめられた本。10年以上前に刊行されましたが、実は編集担当の愛読書でもありました

晃さんだけでなく、テキスタイルデザイナーの優子さんも手を動かすことが好き。「欲しいものがないなら、自分でつくる」その精神で、細々したものから住まいまで、変えることを楽しみながら暮らしてきました。

晃さん:
「建ててすぐの頃は、『いつ、完成?』って言われたものです(笑)。

でも、家って年代ごとに変化していくもの。子どもが独立する、価値観が変わる、過ごし方が変わる……。その都度、どんなインテリアがほしいのか模索していくものかもしれません。まだまだいじれるところはたくさんあって、プチリノベーションは続いています。

今はお客さんに『おもしろいね』と言ってもらえるし、スタイルとしてこういう家もあるんだって思ってもらえるようになってきましたね」

そんな家の中心にある象徴的な存在が中庭。どんな想いでつくられたものなのでしょうか。

 

ここは中? それとも外? 中庭が世界を広げてくれた

晃さん:
「庭づくりにはまるとは思わなかったなぁ(笑)。真ん中に空き地ができちゃったから仕方なく手入れを始めたはずだったんだけれど」

実は、戸田家の敷地は、南北に長いため、中心が真っ暗になってしまうからと空き地をつくったそう。そこに植栽を施し、1階、2階のどの部屋からも緑いっぱいの中庭が見られるようになりました。

便宜的に設けたはずの場所が、夫婦それぞれの理由で「この家一番のお気に入り」に挙げるほどかけがえのない存在になっています。

晃さんの趣味は、今では庭仕事。「手をかけていないかのように手入れしている」そうで、自然な林や森、禅寺の庭を参考にした中庭の姿は少しずつ変化を遂げてきました。

一方の優子さんは、庭がつくりだす光と影を眺めるのが大好き。

優子さん:
「木の影が部屋の中に写るんですが、季節によってその大きさや濃さも違っていて。リビングにいると、影と光がすごく楽しい。

夏は部屋が真っ暗になるほど影になって、そこからキラキラした庭を眺めると、水族館で水槽を見ているみたいな気持ちになるんですよ。

夏の光は強いから、夕方になると周りがブルーっぽくなるのもあるのかな。秋から冬になってくると、部屋の中に木陰があるみたいな感じで素敵です」

▲2階から中庭を眺めると木の葉が目前に。小さなオアシスを求めて、クワガタやカブトムシも寄ってきます

 

都会でも、それぞれがつくった小さな景色を借り合える?

▲リビングと庭の境には、ハーブ類の寄せ植え。使う分を家の中から収穫できます

晃さん:
「プランターで何か育ててみたり、ベランダに出てごはんを食べるのも楽しいですよね。窓辺に風鈴を吊るして、音や景色で風を感じるのも、昔ながらの自然を暮らしに取り入れる知恵です。

光や影を楽しむ、空をいつもと違う角度から眺めてみる。それだけで新鮮な気持ちを味わうことができると思います」

晃さんも、お子さんが小さい頃は家の庭にテントを張って寝たりしていたそう。寝室から出て居間で寝てみるだけでも、視点が変わるから発見があるそうですよ。

▲古びた脚立や椅子を利用。脚立にはトレーをひっくりかえして鉢植えを置く場所をつくりました

視点とともに「切り取り方も大事」と晃さん。案内してくれたルーフバルコニーは、隣の家との距離が近いのでコンクリートの壁で目隠ししていますが、そこにくり抜いた窓がつくってあります。

晃さん:
「ここからきれいな紫陽花が見えるでしょう? いわゆる『借景』で、お隣さんが育てている花をここから愛でられるんです。

都会でも、1人で全部やろうとしないで、それぞれがつくった小さな景色を借り合えば、いい街になっていくんじゃないかな、なんて夢見ています」

中庭があることで時間や四季の変化を楽しむ生活をしてきた戸田さんの家。植物を身近に置いたり、視点を変えることで、五感がひらいていく。そんな楽しみを教えてくれました。

次回は、優子さんの工夫がいっぱいのキッチンへ。業務用の調理台を起点に、変化を続けてきた「まるでコックピット」な楽しい場所を案内してもらいます。

(つづく)

【写真】鈴木静華

 

もくじ


戸田晃

1959年東京都生まれ。東京都立武蔵野技術専門校(現キャリアカレッジ)建築設計科卒業。1993年にあるて工房建築設計室を設立し、2002年に戸田晃建築設計事務所に改称。2004年Design it yourself展(OZONE)に参加。http://www14.plala.or.jp/akiratoda/index.html

 


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縫って、編んで、お気に入りの景色を作る(「HININE NOTE 」スタッフ・彩さん)

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