【とある街での物語】後編:風と土を繋ぐ場所になれたら(ミスミノリコさん・マツーラユタカさんご夫婦)
編集スタッフ 松田
暮らす場所を変える。働く場所を変える。
そんな決断をするのは、人生でどんなときなのでしょうか。
この特集では、一昨年東京から山形県・鶴岡に拠点を移し、料理と生活道具のお店「manoma」をオープンしたミスミノリコさんとマツーラユタカさんご夫婦に、今の暮らし・働き方に至るまでのストーリーを伺いました。
ついに移住。最初はスムーズにいかなくて……
2018年の夏、とうとう移住を決意したミスミさんとマツーラさん。おふたりの得意分野を活かした料理と生活道具のお店というコンセプトやイメージを膨らませつつ、鶴岡へ引っ越してきたのは2019年の6月の終わりのことでした。
マツーラさん:
「物件は元の空間や厨房をそのまま活かして引き継げそうだったので、6月の終わりに鶴岡へもどって、8月にはお店をオープンできるかなとぼんやり思っていたんです。今思えば、甘く見積もっていたなと。お店の開店準備と同時に、自分たちが生活する家の方も整えなきゃいけない。その両方をやっていくのはなかなか大変でした」
ミスミさん:
「家賃が発生するからお店も少しでも早くオープンしたいけれど、いろいろ整わないことも多くて。お店をやるにしても、法人化の手続きや保健所の申請、順番にこなしていかなくちゃいけなくて。てんてこ舞いでしたね。
申請がすぐにおりず、どうしようかと思ったときに、助けてくれた人もいて。たくさんの人の力を借りて、10月になんとかオープンしました」
ミスミさん:
「タイミングよく市内に話題のホテルができて、個人のレストランや路面店も少しずつ増えたこともあり、地元以外からのお客様もよくきてくれました。
最近は地元のお客さんも多くなって、繋がりが深まってきて。たわいのないようなお話するだけでも楽しくて。それは、お店やる前にはわからなかったことですね。場を構えて、お客様を待つって良いなと感じているところです」
思い描いていた生活と違った?
「住環境においては、思い描くイメージと違ったんですよ〜」とミスミさん。暮らしのリズムも以前と大きく変わったそう。
ミスミさん:
「自分が思い描いていたのは、古民家みたいな庭がある暮らし。でも、実際はお店も住んでいる集合住宅も市内の中心に近くて、街ぐらし感があります。
真冬は思っていた以上に晴れの日が少なくて、気分がどんよりすることも。わたしは雪国ビギナーなので、雪かきも慣れなくて。生活も東京で仕事していたときと違い、ほぼお店にいて家にいる時間がないのでなかなか片付かなくて、まだ引っ越しのダンボールがありますよ(笑)」
まるで詩の世界にいるよう
ミスミさん:
「でも、新しい楽しみができたんです。
疲れたなと思ったら、車ですぐ出かけられる源泉かけ流しの温泉へ。近くの山を散策したり、夏は海へ行って泳ぐことも。それがとってもリフレッシュできて、欠かせない時間になっています」
▲地元の方にとって、親しみの深い金峯山にて。おふたりもよく散策に出かける場所だそう
マツーラさん:
「日常でみえる風景が本当に美しいんです。季節で移り変わる庄内平野の景色を眺めながら車を走らせて、海へ夕日を見に行って、温泉でゆるんで。もうほかには、何も要らないと思わされます。
北海道の根室にいる友人が “毎日、詩の世界にいるようなもの”と言っていたのですが、その意味が今はわかる気がします」
ミスミさん:
「季節を感じながら、日常にこういうささやかな楽しみがあるだけで、こんなに充実するのかと思いました。洗濯物はたまっていたりするけれど、きれいな景色を眺めて過ごすことができれば、今はそれでいいかなって」
▲鶴岡市内からみえる月山。ミスミさんが初めて訪れたときに心を掴まれたのもこの風景
さまざまなモノゴトを繋ぐ場所に
mamomaではお料理の提供や生活道具の販売だけでなく、さまざまな個展やイベントを企画して開いています。
お店の名前には、その地でずっと根ざしてきた地元の「土の人」と、別の土地からの新しい風を運んでくる「風の人」、その間に入ることで、さまざまな文化やモノを繋ぐ存在でありたいという想いが込められているそう。
ミスミさん:
「イベントをきっかけに、全国からいろんな作り手の方に鶴岡にきてもらって、お客さまと交流してもらう、そんな機会をたくさんもてたら素敵だなと。
東京・国立のカゴアミドリさんには2019年のオープンしてすぐのタイミングと今年の秋、2回きてもらって、国内外で丁寧に編まれたかごの展示販売を行いました」
ミスミさん:
「2年前のイベントではワークショップも行ました。朝ごはんをつくって、かごに盛り付けて。カゴアミドリさんが各地でフィールドワークしてきた素材の採集やカゴづくりの映像や写真をみながら参加者の方と一緒にディスカッションをしました。今年の秋は状況が難しくワークショップの開催は見合わせましたが、リピートできてくれたお客さんもいて、ワークショップが楽しかったと言ってくださって。
いろんな方とこういう時間をもちたいという想いもあって、このお店をつくったので、役に立てている気がして嬉しかったですね」
マツーラさん:
「去年は、地元の高校生から、地域活性のゼミの一環で “地域の素材をつかった食のイベントをさせてください”と声をかけてもらって。
一緒にメニューを考えたり、漬物をつくっている生産者のおばあちゃんやお米農家さんにインタビューしたことをまとめた地域PRのリーフレットをつくったり。
若い人にとって、生き生きと暮らしている大人たちの存在を知ることは、この地域で暮らしていきたいと思える理由のひとつになると思うので、こういうイベントを僕たちと一緒にやりたいって思ってもらえたのは嬉しかったです」
マツーラさん:
「僕たちのお店を通して、いま住んでいる土地のことをより深く知れたり、他の土地の文化に触れたりすることで、世界が広がって、自分の暮らしの中に新しい気づきがあったらいいなと願っていて。
いろいろな分野のことを、さまざまなカタチで、発信し続けていけたらと思っています」
自分らしさを活かす場所は
おふたりらしさを活かした場所を、新たな地でみつけたミスミさん・マツーラさんご夫婦。
「『移住』というとすごく大きな決断みたいに聞こえるけれど、必然的に、そんな流れがだんだんと何年もかけて押し寄せてきたような感覚もあって。わたしたちは、鶴岡に来るべくして来たんだなと感じます」とおっしゃっていたのが印象的でした。
偶然の重なりのように思えることも、自分たちらしさって?とおふたりが何年も考え続けていたこと、チャンスがまわってきたときに、悩みつつも恐れず決断をしたこと、それがすべて繋がって、いまのおふたりの姿があるんだなとお話をきいて感じました。
自分がこれからどんな暮らしを、どんなふうに働いて、どこで重ねていきたいのか。今一度、考えたくなりました。
【写真】五十嵐丈
もくじ
ミスミノリコ
ディスプレイデザイナー、暮らしの装飾家。店舗のディスプレイや雑誌、書籍のスタイリングなど幅広く活躍。暮らしを彩るデコレーションアイデアやラッピング、衣服の繕いなど、手作りの楽しさを発信。著書に『繕う愉しみ』(主婦と生活社)など。2019年に東京から山形県鶴岡市に移住、カフェ&セレクトショップ「manoma」をオープン。Instagramは@min_misumi から。
マツーラユタカ
物書き料理家。金子健一とともにフードユニット「つむぎや」として活動するかたわらライター稼業も。著書に『お昼が一番楽しみになるお弁当』(すばる舎)など。雑誌nice things.ではコラム「ソウルフードトラベラー」を転載中。2019年に地元である山形県鶴岡市に移住、カフェ&セレクトショップ「manoma」をオープン。Instagramは @matsu_tsumugiya から。
【manoma】
山形県 鶴岡市朝陽町18−8
定休日:火・水・木 (不定休あり)
Instagram: @manoma_tsuruoka
https://manoma-tsuruoka.com/
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