【心地よい住まい】前編:建築家の中村好文さんに会いに、週末の大磯へ

ライター渡辺尚子

住まいは、わたしたちの暮らしを包むいれものなんだなあ、と思うことがあります。

心地よい住まいに暮らしていたら、気分がよくなるし、なんでもない1日を大切に感じられる気がします。とくにこの1年は、その思いが強くなりました。

では、心地よい住まいって、どんなものなのでしょう。

専門家にお伺いしてみたくなって、あの方にお会いすることにしました。

建築家の中村好文(なかむら・よしふみ)さん。中村さんを知る人たちはみな、親しみをこめて「コーブンさん」と呼びます。

 

建築家の「小屋」へ

中村好文さんは、名の知られた建築家でありながら、個人住宅の設計を大切にしていらっしゃいます。誰かが等身大で暮らすための住まいをコツコツとつくっているのです。

そうした家を手掛けている方なら、きっとわたしたちの疑問にこたえてくれるはず!

……とはいうものの、内心ドキドキでした。

難しいお話が出たら、ついていかれるかな。

こどもみたいな質問に、答えてくださるかしら。

でも、そんな心配はいりませんでした。

「心地よい住まいですね。その話をするなら、週末、大磯にいらしてください」と短めのメッセージをいただいたのが秋半ばのこと。

平日は設計の仕事で都内をはじめ、各地を飛び回っている好文さん。週末は大磯の「小屋」で過ごしている、というのです。

えっ、小屋?

約束の日はあいにく、いまにも雨粒の落ちてきそうなお天気でした。

潮風の香る大磯駅から車で5分、急斜面をひたすらのぼりつめ、見晴らしのよいところに出ると、門の前で好文さんが待っていてくれました。

「いらっしゃい、どうぞ」と通されたリビングルームからは、広々とした海が見えます。

「わあ!」と歓声をあげたわたしたちに、好文さんは「晴れていたら本当は富士山が見えるんだけどね」と残念そうに、そしてすまなそうに、けれどもちょっと得意そうに言いました。

「ほら、あのあたり」と指差す先にはぼんやりと、雲が重なっています。

好文さんはそのあとも幾度も「晴れていたらねえ」と、わたしたちの代わりに残念がってくれました。

 

四畳半でも特別な場所になる

腰掛ける間もなく好文さんは、「まず小屋を案内しますよ」と、庭に出ていきました。二階建ての小さな建物が玄関先に建っています。

あまりにも小さく、さっぱりとした外観なので、最初わたしは「物置かな」と思いました。

「まあ、入ってみて」と好文さん。

扉をあけると奥にはトイレとシャワーブース。びっくりするほど小さな螺旋階段をくるくるとのぼり、天井を押し上げると、二階に出ました。

「わあ!」と、思わずまた叫んでしまいました。

板間には作りつけのソファ、大きな出窓から見えるのは、広々とした空と、たっぷりとした緑。まるで絵画のようです。見惚れていると「窓辺に腰掛けるといいよ」と好文さん。言われるがままに腰掛けてみると、景色のなかに包まれて、すっかり心が落ち着いてしまいました。

好文さん:
「ね、なんとなくぼーっとしちゃう場所でしょう。僕もここにいるときは、本を読もうとしても海を眺めていたり、ウトウトしてしまったりするんだよね」

それにしても小さなスペースです。子どもの頃に遊んだ「秘密基地」のような、あるいはハックルベリーの小屋のような。

好文さん:
「ここは四畳半よりひとまわり大きい、3メートル角9平米の広さ。方丈記の方丈と同じサイズ。

ソファに寝転がってみるのもおすすめ。そこから見える海の景色もいいからね」

初めてお邪魔したお家でそんなことして、いいのかしら……と思いつつ、ソファに寝そべってみると、ふわあ~。これは、気持ち良くて、お昼寝したくなる……。

好文さん:
「そうでしょ。皆川明さん※1も時々やってきて、ここで昼寝したりしていきますね。ソファの布地はミナペルホネンのもの。僕はふだんあんまり建築に色を持ち込まないけど、ここにはもうちょっと、華やかな気分がほしくてね」

※1:ブランド『ミナペルホネン』のデザイナーの皆川明(みながわ・あきら)さん。好文さんとは長年親交を温めてこられたそうです。

 

心地よさをシェアする幸せ

たった9平米に、心地よい居場所がいくつもあります。窓辺、ソファー、すべすべした木の床、それから……。

気持ち良い景色にあわせて窓の高さや階段の位置を設計し、心落ち着く素材を選ぶ。人の五感にあわせて住まいをつくっているから、気持ち良いのです。

「風景のいい窓は、気持ちが外へ出て行こうとするもの」と好文さんが教えてくれました。ああ、そうか。だから、かぎられたスペースでも狭く感じず、気持ち良いと思えるんだ。

しかも嬉しいのは、心地よさをひとりじめするのではなく、好文さんが「ほらほら、こっちに座って」「ここでも試してみて」と誘ってくれること。わたしたちが体験して心弾ませているのを、喜んでくれること。

そうか、心地よさって、どんなにスペースがかぎられていても、ひとりじめせずに、そこにいる皆でわかちあえるものなんだ……。そう、思いました。

 

【写真】上原未嗣

 


もくじ

 

中村好文(なかむら・よしふみ)

建築家。1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。宍道建築設計事務所勤務ののち、都立品川職業訓練校木工科で学ぶ。吉村順三設計事務所を経て、1981年レミングハウスを設立。1987年「三谷さんの家」で第1回吉岡賞受賞。著書に「住宅読本」「住宅巡礼」等。最新の著書は「百戦錬磨の台所 vol.1vol.2」(学芸出版社)。


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