【力を抜きたい日の食卓へ】第三回:夜のコンビニの冷凍食品売り場で

麻生 要一郎

実家から車で30分ぐらいの場所に「涸沼(ひぬま)」という汽水湖がある。

子供の頃に母に車で、涸沼へドライブに連れて行ってもらうのが好きだった。色々な水鳥や季節になるとトンボもたくさんいて、景色が綺麗な事、そしてなんと言ってもしじみの名産地。涸沼のしじみは、粒が大きいのが魅力。通りの店先に「しじみ販売」という看板を見かけては、母にねだるのである。子供の頃は、食わず嫌いが多く、本人が食べたいというものは大いに尊重された。

母が亡くなったので、それは記憶の中の光景でしかない。大人になってからも、たくさん行った気がするのに、小さい頃に母の茶色いカローラで行った情景が一番鮮明に残っている。

家人は青森の出身で、当地では十三湖がしじみの名産地として名高いが、彼の実家のすぐ側にある小川原湖のしじみは、同じ太平洋側の汽水湖だからなのか、大粒でぷっくりした感じが涸沼と通じるものがある。僕は東京でしじみを買う時にお互いの馴染みである、涸沼か小川原湖のものを選ぶ。

魚屋のおじさんから貝は冷凍すると美味しくなるよと教わってから、見つけるとたくさんカゴに入れ、普段はあまり冷凍をしない僕も、砂抜きしてから、冷凍保存するようにしている。砂抜きをしていると、必ず愛猫のチョビが覗き込む。忙しい時、そのまま鍋に入れたら良いのだから便利である。

しかし、たくさんあると、鍋にたくさん入れたくなってしまうのが、僕である。ある時、美味しそうだなあと思って買い置いたラーメンが冷蔵庫にぽつんと残っていた。そこでふと思い付き、しじみたっぷりの汁にラーメンを入れてみたら、それがとても美味しかった。ラーメンじゃなくて、そうめんやフォーでも、パクチーの代わりに三つ葉でも、良いと思う。

しじみラーメン(1人分)
・しじみ 2カップ分
・水 500cc
・ラーメン 1玉(生麺を使用)
・パクチー 1株
・なると 2枚
・酒 大さじ1
・ごま油 小さじ1
・塩 適宜
・胡椒 適宜

作り方
1. ラーメンを茹でて、ザルに上げておく。
2. 鍋に水としじみを入れて、中火にかけて煮立ったところに酒を加えて、火を弱火にしてから、塩、胡椒で味を整えます。パクチーは食べやすい大きさに切り分け、なるとはスライスしておく。
3. 器に1のラーメンとごま油を入れてから、先にスープを注いで麺をほぐしながら、しじみも盛り付け、仕上げにパクチーとなるとをのせたら完成。

***

あれはたしか、松本へ行った帰りだったと思う。旅疲れもあったのか、それとも駅前の翁堂で買った「たぬきケーキ」を早く冷蔵庫にしまいたかったからなのかは、記憶が定かではないが、晩御飯を家で食べる事にした。

山間を抜けて、新宿駅に到着する時、ああ我が家に帰って来たと安堵するのである。都会っ子を気取っているのではないが、家から新宿駅までは歩いて15分程、最寄りの駅と言っても過言ではない。その日は、冷蔵庫にあまり食材のない日で、百貨店はもう閉まっている時間、新宿駅から歩いて帰る途中のコンビニで、品薄になった食品のコーナーの棚をしみじみと眺めていた。

その頃、我が家ではちょっとした焼売ブームが起きていた。神田駅の近くで、通りがかりに入った中華料理店の大きな焼売が、適度な弾力とふんわりとした食感を合わせ、作り立てな感じで、とても美味しかった。また食べたいなあと思い、再訪すると閉店の貼り紙があった。以来、美味しい焼売を探し歩いたが、なかなかあのお店に並ぶ味にはお目にかかれずにいる。新橋にある老舗の中華料理屋の焼売は、どこからどう見ても小籠包で、レンゲにのせてふうふうしながら食べる。皮が薄焼き卵とか、餃子よりも自由度が高く奥深い。

話は逸れたけれど、品薄になった夜のコンビニの冷凍食品売り場で焼売と目があった。蒸籠で蒸そうかと思ったけれど、蒸籠を棚の奥から取り出す事を想像すると面倒に感じたので、以前に焼売を揚げた時に美味しかった事を思い出して、家に帰って油の中に放り込んだ。

蒸籠を使うのは案外と手間、僕にとっては揚げ物をする方がずっと気が楽なのだ。揚げ物が面倒臭く感じてしまう方には、小さな蓋付きの片手鍋を使うのがおすすめ。キッチンで邪魔にならないし、少量の油で上手く揚げられ、蓋があれば閉めておけば色々気がかりが減る。

焼売を揚げれば、周りはカリカリ、中はふっくらとして美味しい。僕は、この時の経験から、いざという時の為に、冷凍庫に焼売を保存している。これが何とも心強くて、冷凍庫を開ける度にニヤッとしている。

揚げ焼売
• 焼売 1パック(召し上がられる個数で)
• 揚げ油 適量

作り方
1. 鍋に油を入れて170℃位に加熱、焼売(周りに霜や水分がついていたらキッチンペーパーでよく拭いてから)を入れる。皮がこんがり色づいたら引き上げる。
2. 焼売をお皿にのせてパクチーも添えて、黒酢だれにつけて食べる。

パクチー黒酢だれ
• パクチー 1束
• 黒酢 50cc
• ごま油 小さじ1
• 蜂蜜(又は砂糖) 小さじ1
…パクチーを食べやすい大きさに切る。小さめのボールで、黒酢とごま油と蜂蜜(又は砂糖)を和えておいて、パクチーの根元のあたりを適量入れておき、香りを移す。葉の部分も好みの量を入れる。

僕が島で宿をやっていた時、横浜から来るお客様が何組か重なり、皆、打ち合わせをしたかのように焼売をお土産に下さって、何パックか積み上がった事があった。友人にも声をかけ、半分を蒸して、半分を揚げて、焼売パーティーを楽しんだ。その後、数日はお客様が手土産を下さる時に、焼売かも知れないとドキドキしたものだった。

僕は、料理を生業にしているけれど、台所に立ちたくない日、作りたくないけれど外食もしたくないような日、食材がないけれど買い出しに行けなかった日、色々ある。そういう時に、どうにか工夫したものが、こうして食卓に並び続ける事だってある。手を動かしているうちに、のってくる事だってある。

毎日の事だから、無理せず気楽に、正解なんてありません。食卓に何を並べたって、自由なのです。さて、今夜は何にしようかな。

家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。

Instagram:@yoichiro_aso

 

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らしまわりを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。

Instagram:@wakanababa

 

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