【力を抜きたい日の食卓へ】第四回:好きなかたちで、食べる人の小さな幸せを願って

麻生 要一郎

島で宿をやっている頃、船も飛行機も辿り着けないような台風の夜、みんなでコーヒーを飲みながら、こんな話をした事を記憶している。

「もし、無人島でずっと食べるものを5つ選べるとしたら?」(水を除く)

皆、唐揚げ、カレー、パスタ、コロッケと単独でも満足出来るようなものをあげていたが、僕の答えは「ごはん、パン、豆腐、コーヒー、プリン」。皆から、ごはんのおかずは何だとか、色々指摘を受けた。言われてみれば、そうかも知れないが、僕はとにかくごはんが好き。

お弁当のケータリングを頼まれた時に、お櫃に少し残ったごはん。梅干し、あみの佃煮、柴漬けや、薬味味噌をちょこんとのせて食べる。ほんの一口、余った時は、塩をひとふりというのも美味である。卵かけごはんも良いけれど、目玉焼きをのせるのも良い、白身をカリカリに焼いて、ごはんにのせたら醤油をそっと一垂らし。水戸の出身というのも関係しているのか、納豆も欠かせない。朝炊いたごはんを、夜に食べる時は、鍋に水と冷やごはんを入れて、おかゆにしてしまう。若い時にはおかゆに見向きもしなかったが、外食が続いた時など無性に食べたくなる。

ごはんは、土鍋、ル・クルーゼ、文化鍋、炊飯器と気分によって使い分けて炊いている。炊いたものを、お櫃に移して、茶碗によそう。いい加減な僕は、お櫃の手入れが悪く、蓋ががたがただけれど、蓋が閉まれば良いのだからと、そのまま使っている。炊き上がりのあつあつなところを、お櫃に移すと、温度やご飯の持つ水分が、ちょうどよくなる感じがする。

気分に寄っては、土鍋からあつあつを茶碗によそいたい、みたいな日もある。そういう事は、料理屋でもないのだから、気取らずその日の気分に合わせたら良いと思っている。

ごはんの炊き方(お鍋)

・米2合、水360mlを用意する。
・優しく米を研ぎ、浸水させておく。(30分〜1時間)
・鍋に米と水を加えたら、蓋を開けたまま中火にかけて、ぶくぶくしてきたら蓋をして一番弱火にして10分程、蓋を取らずに。
・火を止めたら、10分蒸らして完成です。

お鍋によって、炊く量によっても、バランスが色々あると思います。臆せず、試してみて下さいね。

ごはんのお供

・しば漬け… 冷蔵庫にいつも常備、紫か緑かは気分に寄って、疲れた時にかじっても、疲労回復するような気がします。
・あみの佃煮… 子供の頃から、霞ヶ浦や涸沼でとれたあみの佃煮が僕の好物。全部丸ごと食べるというのは、栄養価が高いと思っています。
・納豆… 水戸生まれの僕は、納豆が好き。小粒、大粒、黒豆、ひき割り、種類によって味わいも様々、お好みを見つけて下さい。
・梅干… 美味しそうな梅干を見つけると、必ず買っています。どう漬けたのかに寄っても味わいは様々。難逃れにも◎
・薬味味噌… ごはんにちょんとのせたり、生野菜につけたりの薬味味噌も色々常備。焼いたお肉と食べても美味しい。

***

おにぎりの形は色々だと学んだのは、幼稚園の頃に母が入院したとき。母のおにぎりは、三角形に近いおにぎり。好きな具は、鮭やたらこ。アルミホイルで包んであった。母が不在の時、父方の祖母が作ったおにぎりは、俵形で中身は梅。開けた時、想像していた形と違ったので、がっかりしたのを覚えている。

今の僕のおにぎりは、梅が良い。具が見当たらなければ、美味しい海苔で包んだだけでも良い。そしてすぐ食べる時、塩はせず、梅の塩気、焼き海苔の香りを楽しんでいる。パリパリした海苔も良いけれど、僕はしっとり巻かれた感じが好き。

手が大きいわけではないが、どうしても小さく握れない。おにぎりを専門に提供している方達の、コロンとした可愛い佇まいの倍の大きさはあると自負している。我が家に晩御飯を食べにいらして、一人暮らしという方には、ごはんを余計に炊いて、翌朝にでも食べてねと帰り際、大きなおにぎりを手渡す。しっかり握っているから、崩れたりすることはない。

ケータリングの時に、小さなおにぎりを依頼された事がある。忙しい仕事の合間に食べるから、小さい方が良いと言うわけだ。そこで僕は型を使うことに。木型でそのまま抜いて見ると、冗談みたいに小さく感じた。小さいのがリクエストとは言え、納得が行かず、しゃもじで軽くごはんを足した。握り甲斐がないなあと思いながら、一人に二つずつおかずを添えて持って行くと、包みを開けた誰かが「大きいー!」という声を上げた。喜んでいる様子なので安心したが「それでもいつもより小さいんだけどな」と心の中で思った。その時、気を揉むので仕事では、おにぎりはやめようと思った。

そんな時に、ミュージシャンの友人が「この丸とも、三角とも言えない、人がにぎった感じのするおにぎりが好き」と言ってくれた。僕はそれが嬉しかった。彼女のコンサートで「要一郎さんの大きなおにぎり」というタイトルでおにぎりを作らせてもらう機会をもらって、僕の野暮ったいおにぎりが日の目を見た。

上手に握れないと嘆く方もいるかも知れない。丸でも、三角でも、どんな形でも良い。好きな形で、自分も含めて、食べる人の小さな幸せを願って、ごはんをギュッと握ったら、それは立派なおにぎりなのです。正解なんてないのですから、どうぞ優しい気持ちで握ってみて下さい。

美味しい炊き立てのごはんを食べたなら、明日もきっと大丈夫。

 

家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。

Instagram:@yoichiro_aso

 

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らしまわりを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。

Instagram:@wakanababa

 

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