【わたしの器ライフ】第3話:民藝に囲まれた幼少期や初めての一人暮らしを経て。人生の歩みが表れる器選び(福田春美さん)

編集スタッフ 岡本

食器棚のなかにある、いくつかの大切な器たち。ふだんは何気なく使っているけれど、ふとした時に器に宿る物語に思いを馳せたり、その日の気分に合わせて選ぶことができたら、食卓を囲む心持ちまで変わるような気がしています。

そんな思いから、その人らしい器との付き合い方についてお話を聞いているこの特集。第1話のこてらみやさん、第2話の刀根弥生さんに続いて、第3話にご登場いただくのは、ブランディングディレクターの福田春美(ふくだはるみ)さんです。

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第2話を読む

 

器好きの最初の一歩は、白くてやさしい形から

これまで当店の読み物や動画に何度も登場してくださった福田さん。その中で器好きな面をたびたび目にしてきました。

福田さん:
「ずっと変わらずに好きなのは、白くてやさしい形の器ですね。私にとって、永遠の定番という感じがします。食材が映えるので明るいものは使い勝手もいいんです。

真っ直ぐな線や綺麗な丸ではない、人の手で作られたものならではの揺らぎや歪みのある器は、触れている時も食事をする時も心を柔らかくしてくれる気がします」

食器棚には作家ものを中心にさまざまなテイストの器が並んでいますが、中でも白い器がたくさん。いくつか並べてみると、買った時期や作家さんは違うにもかかわらず、統一感があるから不思議です。

 

器コレクターだった父。幼少期は民藝に囲まれて

器に心を惹かれた出来事について聞いてみると、最初のきっかけは小学生の頃だったそう。器を集めるのが趣味だった父親の影響が大きかったのだとか。

福田さん:
「銭湯を営んでいた父は、器を集めるのが好きで小さい頃から当たり前のように陶器の器で食事をしていました。いわゆる民藝といわれる物で、重くて色が暗くて。なので友達の家に遊びに行った時に出てくるカラフルなキャラクターもののお皿が、当時は羨ましかったですね。

でも振り返ると、素材ごとの洗い方や使う前には水通しをすることなどを、自然と教えてもらっていたのだと気付きました。父が選んだ器と接していたあの日々が今の私に繋がっているなと思います」

福田さん:
「小学校3年生の時に、父が気に入っていた器の真ん中にかまぼこをちょんとのせて、わさびを添えて出したことがありました。そしたらすごく喜んでくれたんです。よく晩酌のおつまみの準備をしていたのですが、器の使い方ひとつでこんなに人を喜ばせることができるんだと驚いて。

器と料理の相性って面白いと、その時初めて感じましたね」

 

自分の「好き」を育てた一人暮らしを始めた頃

高校卒業後にアートスクールに通うこととなり、18歳で一人暮らしがスタート。実家でも魅力的な器に囲まれてはいたけれど、暮らしに合う器を自分自身で選ぶのはまた違う感覚だったと話します。

福田さん:
「自分の好みのもので揃えられるのがすごく楽しかったですね。

雑誌『オリーブ』で岡尾美代子さんが紹介していた雑貨に憧れて、広尾にあったF.O.B COOP(フォブコープ)でカフェオレボウルとデュラレックスのグラスを買ったのを覚えています。あとは無印良品でも白いシンプルな器をいくつか買って。

実家で使っていたような民藝とはまた違った雰囲気の、明るくてモダンな器を集めていました」

自分で自分の暮らしを整えていく最初の一歩で選んだのが、白を中心としたモダンな器。まさに福田さんの器の定番が形作られた時期でした。

 

割れても大丈夫。金継ぎで新しい魅力に出会って

作家さんの展示会に足を運んだり、出かけた先で偶然出会ったりと年月をかけて思い入れの強い器が増えてきたそうですが、そんな大切な器も普段の食事で積極的に使うようにしているのだとか。もしも割れてしまったら、とは考えないのでしょうか。

福田さん:
「器は大好きだけれど、洗う時もしまう時もあまり気にせず扱っています。なので時には欠けることもあるんですけど、器は日常で使うものだから仕方のないことだと思って。

それに割れた器には、金継ぎをするという道もあります。それまでとは違った表情を見せてくれるから、割れたお皿を金継ぎに出すのも楽しみのひとつですね。時々自分でもやりますが、毎回笑っちゃうような出来になってしまうので、プロにお任せすることが多いです」

▲「この器の金継ぎは黒田さんにお願いしたいと思い続け、8年待ちでようやく叶いました」

福田さん:
「このフランスで買った白の大皿は、憧れの金継ぎ師である黒田雪子さんにお願いしたもの。

本当に気に入っていたので割れた時はすごくショックでしたが、黒田さんの手で直してもらった今、それまで以上の宝物になりました。

大切だからこそ、日々使ってその良さを感じていたいんです。割れたら割れたで、また別の輝き方があるから大丈夫。そういう懐の深さも器の面白いところですよね」

 

最近また、器の好みが変わってきました

福田さん:
「最近は、ゴツゴツとした土の素材感が伝わってくるようなものに惹かれていて、器の好みがまた変わってきました。ここ数年、仕事で作家さんと関わるようになったのがひとつのきっかけかもしれまん。

このあいだ購入したのは、沖縄の工房でものづくりをされている当真 裕爾(トウマユウジ)さんのお皿。

素敵な作り手の方と出会うことで自分の好きな感覚も少しずつ変化していくのだと思うと、器選びにはその時の自分が表れる気がします」

▲ここ数年で惹かれるようになったという素材を感じられる器たち。写真中央手前にあるのが、当真さんの作品。

やっぱりすごくいいですよ、自分の好きなものに囲まれているのって、と取材の最後にしみじみと話していた福田さん。器への造詣が深い福田さんが、これから先どのような器に心動かされ、好みに変化が生まれるのか、また時を経てお話を伺いたいと思いました。

***

この特集の取材を終えて、いつか手に入れたいと思っていた脚付きのデザートカップを、自分へのご褒美にという言い訳で思い切って購入しました。器を買ったのが久しぶりだったからでしょうか。食卓に並べた時はもちろん、食器棚を開けて目が合うたびにわくわくしています。

それと同時に、これまで毎日活躍してくれていた定番の器たちにも出会いの時があったことを思い出しました。

職場の先輩に結婚祝いでもらったこのプレートは、パンとフルーツにちょうどいいサイズ。大ざっぱに盛ってもサマになるから朝食で重宝してる。

夫と初めて旅行に行った先で買ったこの和食器は、煮物が美味しそうに見えるんだよね。柄に一目惚れしたんだっけ。

私と器のいい関係が見つけられずにいると思っていたけれど、使う日々のなかで、自然と器のいいところをたくさん見つけていたことに気付きます。

新しく仲間入りしたデザートカップも、取材の日の高揚感とともにいくつもいいところが思い浮かぶように、これからたくさん使っていこう。器好きな3名のお話を聞いた今、そんなふうに思っています。

(おわり)

【写真】松村隆史

 

もくじ

 

福田 春美

ブランディングディレクター。ライフスタイルストア、ホテル、プロダクト、企業などのブランディングを手掛ける。趣味は料理と旅。著書に自身の生活の様を綴った『ずぼらとこまめ』(主婦と生活社)がある。22年11月+CEL工房系ランドセルブランドを手がけた際は、そのロゴを民藝の最後の巨匠・柚木沙弥郎氏が担当。22年3月京都・HOTEL MOKSAのディレクションを担当。同年7月に萩・浜崎本町にできた二ッ櫂船旗プロジェクトのPRディレクションとアドバイザーを担当した。


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