【わたしの器ライフ】第2話:お花の教室をきっかけに器の販売へ。日々の道具のいいところを見つける秘訣(刀根弥生さん)

編集スタッフ 岡本

食器棚のなかにある、いくつかの大切な器たち。ふだんは何気なく使っているけれど、ふとした時に器に宿る物語に思いを馳せたり、その日の気分に合わせて選ぶことができたら、食卓を囲む心持ちまで変わるような気がしています。

そんな思いから、その人らしい器との付き合い方についてお話を聞いているこの特集。料理家のこてらみやさんに続いて、第2話にご登場いただくのは、器店「うつわ shizen」オーナーの刀根弥生(とねやよい)さんです。会社員時代を経て、導かれるように今の仕事へと行き着いたこれまでについてもお話を伺いました。

第1話を読む

 

花の教室がきっかけで、器の世界へ

東京・神宮前にある器店・うつわ shizen(しぜん)は、2006年にオープンして今年で17年目。陶器や木工、漆器などさまざまなジャンルの器があり、作家さんからの信頼も厚いお店です。

刀根さん:
「器に惹かれたのは、20代半ばに通っていたお花の教室がきっかけでした。

雨宮ゆかさんが主宰する暮らしに馴染むお花がテーマの教室で、習う場所が器屋さんだったんです。片口の器などに自然に生けるといったスタイルが気軽で家でも真似しやすく、月2回のお花の時間が楽しみでしたね」

定期的に器店に足を運ぶなかで、お店に並ぶ商品を眺めたり、お花との相性を考えたりするうちに、器の奥深さに魅了。そのタイミングで器店でのスタッフ募集のお知らせを見つけます。

刀根さん:
「当時は事務の仕事をしていて、やりがいや面白さも感じていたのですが、もっと自分自身がわくわくできる仕事があるんじゃないかなと思い始めた頃でした。これはいい時期かもと思って、その器店で販売員として働くことに決めて、25歳で転職しました。

接客をしていると、この素敵な器をお客さんに勧めたい、聞かれたことに自信を持って答えられるようになりたいと自然と思うように。お店で購入して家で使うというのを繰り返しているうちに、器のいいところをたくさん知れたように思います」

 

使うことで、初めて気付くことがたくさんある

その器店には約5年ほど勤めましたが、店舗が安曇野へ移転することとなり退職。これからの仕事を考えた時、今後も器に関わりたいという思いが強まったといいます。

刀根さん:
「青山にある『うつわ 楓』によく通っていたので、何かできることはないか相談したんです。すると、ちょうど姉妹店を出そうと思っているから店長として働いてみない? と声をかけていただいて。商品のラインナップや内装などオープンから関わり、今の『shizen』ができました」

▲上から2番目、4番目の器が中尾万作さんのもの。

刀根さん:
「器の販売に携わって25年。昔から変わらず思っているのは、器は使うことで良さを知れるということです。

初めて自分で買った作家ものの器は、中尾万作さんのご飯茶碗だったのですが、やっぱりご飯を盛った時の佇まいが一番美しいんですね。それに制作過程でしっかり焼いているから丈夫でがしがし使える。見た目が美しくて使い勝手がいいというのは、実際に使って知れたことでした。

なのでお客さまにも、大切な器こそぜひ日常で使ってその良さを堪能してもらえたら嬉しいです」

 

自由でたのしい器たち。使い方にルールはないから

お店では、実際に刀根さんが家で使っていいと感じたものだけを扱うようにしているのだそう。それゆえ、食器棚には素材も形も本当に幅広い種類の器が並んでいました。

刀根さん:
「食材が引き立つシンプルな器ももちろん好きですが、変形皿にも目がなくて。畑中圭介さんの向付(むこうづけ)は手書きの模様や不揃いな脚が見ているだけでも楽しい気持ちになります。用途もいろいろで、漬物を数種類のせたりお花を生けたりしてもいい感じに」

▲左:畑中圭介さん作、右:田辺京子さん作

刀根さん:
「バナナモチーフは田辺京子さんのお皿ですね。5本連なっている房バージョンがあったりシールの部分がエクアドルやフィリピンだったりと同じものがひとつもなくて、どれにしようか迷ってしまいました」

いい器に出会うと、どんな料理が似合うだろう、こんな使い方もできそうと想像が膨らんでいくという刀根さん。私が思っていたよりも、器の世界はずっと自由なのだということを教えてもらった気がします。

 

夫婦の晩酌セット。ぐい呑みと小皿に目がありません

器を収納している3畳ほどのパントリーを見せてもらうと、壁一面が食器棚になっていました。キッチンの左隣にあり、出して料理を盛る、洗って乾かして仕舞うという動線もばっちり。

刀根さん:
「大まかに素材で分けて、大きさが揃うように重ねて収納しています。軽くて湿気に弱い木工などは上段に、重さがある素材は下段に。奥のものにも手が届くように、手前が低くなるように心がけていますね」

刀根さん:
「ダイニングテーブルの近くにも小ぶりな食器棚を置いて、晩酌で使うぐい呑みや小皿などこまごましたものを収納しています。

夫がよく使っているのが、厚みのある黒のぐい呑み。作家さんご本人もお酒が好きな方でこだわりがつまっているからか、これで飲むと一段とお酒が美味しいと大のお気に入りです。口当たりだけでなく、味も違うと言うんですよ。思い込みもありそうですけどね」

「これで飲むお酒は美味しい」と自信を持って言える器があるって、なんて幸せなことなんでしょう。そんな器と過ごす晩酌の時間は、忙しい毎日を支えるかけがえのないひとときであることがうかがい知れます。

▲左:夫が愛用している長谷川奈津さん作のぐい呑み。右:刀根さんが手に取ることの多い矢島操さん作のぐい呑み。

 

盛り付けひとつで料理がぐっと華やかに

取材の最後に、器にまつわる個人的な悩みを相談してみました。それは盛り付けに苦手意識があるということ。今日は美味しくできたぞと、意気揚々と料理を盛るのですが、どこかチグハグな印象だったり、あまり美味しそうに見えなかったりするのです。

刀根さん:
「盛り付けって難しいですよね。私は幼い頃から食べることに興味津々で、大人になった今も料理が好きなのですが、器との相性はずっと模索中です。

でも『前にあの料理を作った時、あの器にのせたら素敵だったな』というストックがいくつかたまってきました。やっぱり日々使ってみることが一番の近道。自分の心が動いた組み合わせを覚えておいて、また試してという作業を繰り返すと、自然と盛り付け上手になれる気がします」

▲手羽先の煮物を盛り付けた様子。「少し煮崩れしたので、食材ごとに分けて盛ってみました」

刀根さん:
「我が家は夫も料理をするのですが、以前は盛り付けにこだわることはなかったんです。気になるときは私がこっそり盛り直したりしていたんですけど(笑)

でも何年も繰り返すうちに、平たい大皿に汁物を盛るとべちゃっと見えるから深皿にしようとか、白い器と黒い器で見え方が全く違うということに気付いたのだと思います。自分的にいいと思える料理と器の組み合わせが何パターンか作れたみたいで、今日の感じすごくいいねという日が増えました。

いつも大皿を使うところを小皿に分けて出してみるだけでも新鮮に見えるはず。使って試すを繰り返すなかで、これからも器のいいところをたくさん見つけていけたらと思います」

我が家にある作家ものの器は、片手で数えられるほどしかありません。

だからこそ使うことをためらっていたけれど、せっかく出会ったこの器をもっと使ってあげなくちゃ。いいところを見つけられるのは私だけなのだからと、刀根さんとお話しした日から意識的に手に取るようになりました。

まだおっかなびっくりだけれど、これに盛ると美味しく食べられると確信できる日がきっと来る。そんな予感がしています。

(つづく)

【写真】松村隆史

 

もくじ

 

刀根弥生

東京・神宮前の器店『うつわ shizen』店主。花の教室で器と触れ合ったこときっかけに器の魅力に引き込まれる。店舗では常時、日本各地の作家ものの器を取り扱い、手に取って見ることができる。5年ほど前に建てた一軒家に夫と二人暮らしている。


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