
心療内科医・鈴木裕介さんに、日々の心のざらつきやストレスへの向き合い方についてお聞きする特集。
前編でお聞きしたのは、ストレスを抱えてしまう理由や、自身をケアするための「水質管理」のこと。続く後編では、今の私たちに必要なストレスへの向き合い方についてお聞きしました。
前編を読むなぜ、辛いことに気づけないのだろう

前編でお聞きしたのが、ストレスに気づかず動き続けて、それが身体の不調として現れるまでのこと。そもそも私たちは、なぜストレスを自覚するのが難しいのでしょう。
鈴木さん:
「ほとんどの人がストレスにまみれていて、それをストレスだと思いたくない、というのは原因の一つだと思います。長期間のストレスに曝されて抗ストレスホルモンが枯渇してしまうことや、私たちが日々浴びている情報量からも、そう感じるのは自然な流れです。
歯がすごく痛いけど、歯医者に行ったら負けな気がする、と思ってしまうことってありませんか(笑)それと同じで、ストレスも見たくないし、なかったことにしたい。
予想から外れることや変化を不快だと感じるのが人間。そういう生き物なんです。結婚や昇進など、一見ポジティブと思われるようなことも含め、変化はストレスになりえます。
だからどんなに辛くても、『昨日までと同じ日常が続くこと』の方が楽だと感じて、そちらを選んでしまう。その結果、ストレスを直視することを避けてしまいます」
誰にでもある「コミュニケーションの小骨」

鈴木さん:
「ストレスを認識するのは難しい。けれど認識することで、対処できることはグンと広がります。まずは『これは自分にとってストレスなんだ』と気づくことから始めてみてください。
ちょっと気になるなということがあったら、それをメモに残しておくのも有効です。
どのくらいちょっとかと言うと、会話中に相手の何気ない一言が気になったとか、そのくらいのこと。僕はこれを『コミュニケーションの小骨』と呼んでいます。
これはすぐには大きなトラブルになりにくいので、こんなこと気にしてはいけない、と自分を抑え込んでしまいがち。けれど『小骨』が積み重なることで、休んでいるのに疲れが取れないといったストレス状態につながってきます」
生きていく限り、負の影響も与え合ってしまうもの

『コミュニケーションの小骨』がそうであるように、ストレスに向き合うためには、自分自身の心の動きをなかったことにせず「認識する」ことが第一歩になるのですね。
鈴木さん:
「そうですね。例えば仕事でミスをしたときに『自分はだめなんだ』といった大きな括りで自分を悪者にしてしまう、思考の癖。これは正確に自分を認識しているとは言えなくて、『過度な一般化』や『大ざっぱ認知』と呼ばれます。
本当にあなたは『全ての事象に対して』だめなのでしょうか。よくよく細分化してみると、自分は特にここに関して、こういう場合に限ってはうまくいきにくい、といった限局性があるはずなんです。物事によって、その程度も違うかもしれません。
これは他者に対しても言えることですよね。この人はいい人、悪い人、ということはなく、すべての人がいろんな面を持っている。どんな人も、100%善悪どちらかということはありません」

鈴木さん:
「ですから人間は生きていく限り、他者に負の影響も与えてしまうものです。
家族や友人、同僚。僕たちはつい、相手に良い影響だけを与えていたいと考えてしまうものですが、そんなことは不可能で。それがどう影響するかも、相手や時間によって変わっていきますから」
その防護服、手放していいタイミングかもしれません

鈴木さん:
「他にも思考の癖として、例えば『相手に嫌われたくなくて、顔色を伺いながら行動してしまう』といったものもありますよね。これは背景に、過去に他者との関わりによって傷ついた経験があることが多いです。
この癖は、今まで身を置いていた環境の中で安全に生き抜くために適応していった結果。また傷つきたくなくて、もう失敗しないぞと、自分を守ってきたんです。決して悪いことではないですし、実際そのおかげで何度も救われてきて、今のご自身があるはずですよ。
ただその守りによって、身動きが取りにくくなっていると感じることもあるかもしれません。
そのとき一度考えていただきたいのが、その思考の癖は『今の自分の幸せに、どれだけ役に立っているか?』ということです。
例えばゲームの中で、敵と戦ったり身を守ったりするために、重い防護服や武器を身につけていたとします。でも冒険は進み、過酷な環境を抜け出して、今は敵が現れない平和な町にいるかもしれない。その場合それらは脱いで身軽になった方が、動きやすくなりますね。
今いる場所や周りの人が、以前とまるっきり同じである人は少ないのではないでしょうか。たとえ同じであっても、時が重なり、変化していっていることがあるかもしれません。
もし今の幸せにはなくても大丈夫なのではと感じるのなら、手放すタイミングが来ているということです」
気づいたら身につけていた防護服は、ここまで自分を連れてきてくれたもので、決して悪ではない。この事実によって、今だけでなく、過去の自分までもが救われるようでした。
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映画の中の何気ないワンシーンに、覆い隠していた感情が湧き上がってきて、居ても立ってもいられなくなる。ラジオのパーソナリティの言葉によって、ずっと心に引っかかっていたことが初めて明確になる。
今まで目を瞑ったり蓋をしたりしてやり過ごしてきた、日々の心のざらつき。
これらをすくい上げることができたなら、いつどこにいたとしても、少しずつでも、そこは安心できる場所になっていくのかもしれません。
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
鈴木 裕介
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。
高知・東京・神奈川の病院や診療所で一般内科・へき地診療・在宅医療を経験。転職しコンサルタント経験を経て、2018年に「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開業。専門はトラウマ・解離臨床、人材育成・コーチング。近著に『「心のHPがゼロになりそう」なときに読む本』(三笠書房)、『がんばることをやめられない』(KADOKAWA)など多数。著者累計30万部以上。スプラトゥーンの総プレイ時間は3000時間以上で愛用ブキはパブロ。
X(Twitter): https://x.com/usksuzuki
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