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毎朝つかうマグカップ、古いものを受け継ぐこと。身近なお気に入りや習慣が、北欧からヒントを得ているということはありませんか。
インテリアブランド『IDÉE』のディレクター、大島忠智(おおしま・ただとも)さんは、自分らしい住まいについて長く考えてきました。北欧の文化に触れたことが、その思いをより強くしてくれたのだそう。
大島さんが影響を受けてきた「北欧」のこと、4回にわたってお届けします。
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大島さんが箱根と東京を行き来するようになり、3年が過ぎました。
コロナ禍に思い立ち取得した運転免許。行動範囲がぐんと広がり、箱根との距離が縮まったころ、いくつかの偶然や出会いを経てはじまった二拠点生活です。
東京では、ところ狭しと並ぶ家具や雑貨と暮らしています。どれも愛着のあるものばかり、大切に育ててきた住まいです。けれども箱根では、せっかくならばすこし違ったふうに過ごしてみようと決めました。
尊敬する建築家が手がけた、高台に建つ古いマンション。その意匠を生かし、できるだけシンプルに、より厳選した自分の好きなものだけになるようにしつらえました。どこを切り取っても、どこを向いても、自分の言葉で伝えられる「好き」が詰まった空間です。
自分の住まいを、自分の手で心地よくしていく。
長くインテリアの仕事をしてきた大島さんが、変わらず大切にしてきたことです。その思いをより強くしたのは、15年前にスウェーデンで見た光景でした。
街のあちこちにあるインテリアショップには、幅広い世代の人が行き交っていました。
とりわけ意外だったのは、ヴィンテージショップも同じように人が集まっているということです。
ふらりとのぞいてひとりで自由に眺め、またふらりと出ていくおじさん。次のカーテンはどうしようかと話し合う老夫婦。楽しそうに雑貨を見る若い女の子。まるでウィンドーショッピングを楽しむように、誰もが気軽に、気楽にヴィンテージショップをのぞいていました。
北欧では、長く厳しい冬を少しでも快適に過ごせるよう、住まいへの意識が高いということは聞いていました。でも暮らしを楽しくしたいという気持ちが、文化として根付いていることを肌で感じたのはそのときでした。
コートを買うのにえいやと思い切ることがあるのと同じくらい、椅子ひとつにも思い入れを持つひとが、もっともっと増えたらいいな。そんなふうに大島さんは感じています。
椅子は日に何度も、この先何年、何十年と使うもの。そこに込められた職人の時間と手間を知れば、価格への納得はもちろん、椅子と過ごす生活そのものにも愛着が増すと信じているからです。
だからといって、高い家具、ヴィンテージのインテリア小物で室内を整えることに価値があるという話ではありません。
日用品ひとつにも、「これがいい」と自分で感じて選ぶこと。
「どうしてこれが好きなのだろう」を、じっくり考えること。
贅沢ではなく、心地いい暮らしのために。
北欧で触れた価値観を伝えたいのは、大島さん自身が、住まいに向き合うことをなにより楽しく、豊かだとこころから実感しているからです。

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Text : Akari Fujisawa
Photo: Ayumi Yamamoto
大島 忠智
インテリアブランド『IDÉE』ディレクター。カフェマネージャーや広報担当を経て、2011年よりバイヤーとして国内外で家具や雑貨の買い付けを行う。インタビューウェブマガジン『LIFECYCLING』主宰。現在はブランドの垣根を越え、総合ディレクションを手がける。著書に、染色家・柚木沙弥郎と共にインテリアから暮らしを豊かにすることを考え抜いた『柚木沙弥郎 Tomorrow』(ブルーシープ)がある。
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