【整えるふたり】前編:雑然としたところに、ルールや方法を見つけたい(山根 × 兵働)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、当店で取り扱う商品の仕入れを担当する「MDグループ」のスタッフ山根と、経理や総務、労務、財務といった仕事でクラシコムを支える「アドミニストレーショングループ」のスタッフ兵働が登場。

業務では直接的な関わりはそれほど多くありませんが、お互いにグループや組織が円滑にまわるように、じっくり考えて仕事に臨んでいるという一面も。そんな “整えるふたり”、クラシコムで働いていくなかで、自身に「変わったこと、変わらないこと」はあるのでしょうか?

前編は兵働が主に聞き手となって、山根に色々と質問してみました。

 

クラシコムなら「働けるかも」と思えました

兵働:
山根さんは、どんなきっかけでクラシコムに入社したんですか?

山根:
最初は、クラシコムのある国立という街で配られるフリーペーパーのライターをしていたことがあって、会社を取材したんです。そこで青木さん(※クラシコム代表の青木)と知り合いました。僕は音楽バンドを組んでいて、その縁からオフィスでライブをさせてもらったり、お店の紹介ムービーの制作を手伝ったりして、関わりができていきました。

兵働:
あっ、じつは私も昔バンドを組んでいて……。いま懐かしく思い出しました。

山根:
そうなんですか! 楽器は何を?

兵働:
ベースです。といっても大学のサークルでやっていただけですけどね。

山根:
僕はギターとボーカルで。クラシコムの社員って楽器経験者が結構いますね。しかも、なんだかベーシストが多い気がする(笑)。

兵働:
まだ他にもいるかも(笑)。すみません、話の途中に。

山根:
いえいえ。それで、仕事を探していたら、青木さんが「クラシコムでジャム工房をつくったけれど人手が足りないからやってみない?」と声をかけてくれたんです

ジャム工房を経て、クラシコムの社員として改めて働くことに決めたのは、自分の人生でもターニングポイントでした。バンドをもっと仕事にしたくてもビジネスの実体験が足りないと感じたり、子どもを授かったりと、自分自身も得ていくべき経験や今後の生活面を考え直す時期だったんです。

兵働:
クラシコムで働くことが、当時はベストな選択だったのでしょうか?

山根:
そうですね。もともと僕は、いわゆる “社会性” に自信がなくて「会社なんて入れないだろうな」と思っていたけれど、クラシコムなら「働けるかも」と決めました。

兵働:
意外です。山根さんはコミュニケーションが上手だし、企画のアイデアもよく出していて、そういうイメージがなかったから。

山根:
そういうのもクラシコムで働くうちに表現できるようになってきたことですね。お客さまとやり取りするコミュニケーショングループで勤め始めて、そこからMDグループで商品の仕入れや在庫管理、Instagramの更新といった仕事をするようになっていきました。

兵働:
私、山根さんがやっていたInstagramのお買い物ライブを見て、「上手につかめるトング」買いました!

山根:
えっ、本当ですか?! 兵働さんのお客さま時代に影響していたなんて、嬉しいなぁ。

※KURASHI&Trips JAM LABORATORY…2017年秋に運営終了

 

100案から選ばれた「春いちボトムス」

山根:
当時、店長の佐藤さんやスタッフたちが商品名にうんうんと悩んでいるシーンもよく見ていて、僕は担当でもないのに気になったことはちょいちょいと口を挟んでいまして。その流れで、ネーミングの時にもアイデアを出すようになって、採用されることもあったんです。そのうちに名付けの担当になっていきました。

兵働:
思い出深い商品、ありますか?

山根:
今も続いている「春いちボトムス」とか、「『旅の気分に着がえよう』ピンタックのロングワンピース」とか、ですね。

商品を企画したスタッフや佐藤さんの話をじっくり聞いて、お客さまのメリットを色々と考えて、言葉を並べてみながら探していました。「春いちボトムス」は100案くらい考えて残ったものです。

兵働:
最近はどんな仕事がメインですか?

山根:
MDチームとしてバイヤーもしていますが、外から見えにくいところで言うと「売上の管理」が大きいです。商品の売上予測を立て、予算を作り、進捗を確認しています。バイヤーとしても自分が動くよりも、メンバーが見つけた商品の取り扱いを判断する役割が増えてきました。それを取りまとめて、マネージャーや佐藤さんに提案するんです。

兵働:
売れ行きを見ないといけないなんて、またドキドキですね。

山根:
担当者のほうがもっと緊張していると思いますが(笑)、確かに「予測と大きく違う!」となったときなんて、僕もドキドキです。

 

「混沌のなかに秩序を見出したい」

兵働:
でも、バイヤーも初体験の仕事で、グループを移るときに戸惑いはありませんでしたか?

山根:
新しい環境が好きなタイプなので、戸惑いはなかったです。最近、自分の特性みたいなものに思いを巡らせてみたら、僕は「混沌のなかに秩序を見出したい」という欲求があったんです。整理された環境ではなくて、雑然としたところから僕なりにルールや方法を見つけていくことに喜びがある、というか。だから、新しい場所を任せてもらえるのもウェルカムで。

ただ、バイヤーとして物を見る目はゼロに等しかったので、まずは展示会で自分なりにピンとくるものを選んで持ち帰って、商品会議にかけてみて……という繰り返し。なかなかアイテムが会議を通らなかった頃は、「何がだめなのかわからない」というツラさも体験しました。

兵働:
山根さんの言う「秩序」が見つけ出せない状態なわけですね。

山根:
そうです。特別なきっかけがあったわけではないですが、インプットを増やして、一定量を超えたあたりから「北欧、暮らしの道具店」で扱いたい商品が、じわじわと見えるようになってきました。

今は売上管理も任せてもらえるようになって、「どういった要素が揃えばお客さまにもっと喜んでいただけるのか」を考えるときに、まだまだ釈然としない部分があって。いろんな情報を揃えてみて、掛け合わせて、整理しながら目標となる「数値」を組み立てていくことにトライし続けています。

兵働:
表計算ソフトに並んでいる数値から、人の気持ちや喜びに関連する法則を見つけようと。

山根:
「この数値とこの要素は関連がないように思っていたけれど、実は深く関わっているんだ!」とわかったり。大量の情報からポイントを見出すことが面白くて、のめり込みました。

 

今の自分のままで、大丈夫なんだ。

兵働:
話がすこし戻るようですけど、どうして山根さんはクラシコムなら大丈夫だと思ったんでしょう。社員の多くに共通していることだったり、働きやすさを感じたりすることはありますか。

山根:
良い意味での「センシティブさ」を、みんなが持っているのかなと。同僚やお客さまに対する心の機微、商品の品質、クリエイティブに関するわずかな違和感といったことに、敏感に気付ける力と言うんですかね。

それらが強かったり、「自分が何を感じているか」を注視できたりする……それが仕事やコンテンツに繋がっているし、必要なことに投下できていると思うんです。あとは自分ごと化する力があるなぁともよく感じます。業務面で言うと、当事者意識の強さがある。

兵働:
あぁ、わかります。「誠実さ」はポイントの一つですね。

山根:
僕はクラシコムで自分の「センシティブさ」に向き合えるようになりました。今でこそ分かるんですけれど、実はそれまで、どこか生きづらかったかもなぁって。身の回りに似たように感じる人も少なくて。それがクラシコムで同僚と働いて、届けるコンテンツに共感して、やっと「今のままの自分でいいんだ」と、居られるようになったんです。

兵働:
しかも、コミュニケーショングループやMDグループは、そのセンシティブさをとても活かせる部署だと思うんです。目の前の事柄に対する違和感を、流そうと思えば流せるけれど、そのままにしない。自分として譲れないことは、声に出してみる。それを肯定してくれる人が周囲にいる。私もそれは共感しますね。

山根:
いつも「ご機嫌でいたい」という気持ちもあるんですけど、それも心に負担がなるべくかからない形で働きたいから大事なんだろうなって。

 

自分はこう思う、の内側を考える

兵働:
MDグループも新しいメンバーが入ってくることが最近は増えていますが山根さんとしては、気を付けていることや、伝えるようにしていることなど、ありますか?

山根:
決まりごとなどはなくて、まずは日々のみんなのあり方が、そのまま道しるべのようになっているのかもしれません。

僕自身は、メンバーが仕入れたい商品を判断する立場になって、フィードバックの仕方には気をつけるようになりました。新しいスタッフに限ったことではないですが、その人にとってネガティブな影響を及ぼすようなことを言わないようにしたいですね。

「自分自身はこう思う」と伝えるときも、どんな言葉で話すか、どういう考えが背景にあるのか、というのを、まっさらな気持ちになりながら表に出すことは意識しています。

兵働:
それも一つの誠実さ、なんだと思いますよ。

(つづく)

 

【写真】川村恵理

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