【かぞくを知りたい】後編:かぞくかいぎを重ねて変わったのは、親である私自身の姿勢でした。
編集スタッフ 岡本
この春、年中になる4歳の息子に今日の出来事を聞くと、答えは決まって「たのしかった!」の一言。もう少し詳しく……といくつか質問してみるものの、なんとなくはぐらかされてしまいます。この子は日頃何をして過ごしているのだろう? 困っていることはないのかな、なんて考えていると、案外家族のことを知らない自分に気付いたのです。
そんな時に出会った一冊の本をきっかけに、かぞくかいぎ研究家でありライターの玉居子泰子(たまいこ やすこ)さんにお話を伺いました。どうして家族で会議をするのか、子どもへの声かけで心がけたいことなどをお届けした前編に続き、後編では、かぞくかいぎを続けた玉居子さんご家族の変化についてお届けします。
前編から読む
ごっこ遊びで息子の本音がぽろり
玉居子さんは現在、中学二年生の息子と小学六年生の娘の二人の子どもを育てています。かぞくかいぎに行き着いたのは、息子の癇癪に悩んだことがきっかけだったそう。
玉居子さん:
「毎晩数時間にわたって夜泣きをしたり、思い通りに靴が履けなくてイライラしたり、息子が2歳を過ぎたあたりから癇癪がひどくなって。怒りでしか自分の気持ちを表現できない息子を見て、何ができるだろうと夫婦で考えていました。
二人で過ごす時間を増やしたり、眠る前に内緒話をしたり、試行錯誤を続けること数年。たまたま息子とぬいぐるみを使ったごっこ遊びをした時に、『お母さんお父さんともっと話したい』と言われたことがありました。ちょうどSNSを通してかぞくかいぎを知った頃でもあったので、息子ももう小学一年生だしできるかもしれないと、夫に提案したんです。
そこで、まず紙に「今週あったいいこと、悪いこと」を書いて発表しようということにしました。でも、初めてのかぞくかいぎは息子も娘もないない尽くしの回答で、ものの5分で終了。親だけが発表して終わりましたね(笑)。来週もやりますよ〜と声をかけると『ええ〜』という反応でしたけど、とりあえず続けてみようと、1〜2週間に一度のペースで続けていました」
▲左が初めての時、右が数ヶ月続けた時の息子の記録。
玉居子さん:
「変化が出てきたのは、二ヶ月たった頃。息子は熱中している野球のことを話したり、娘は紙に得意の絵を書き添えて表現したり、子どもたちなりの方法で表現するようになったんです。
それからしばらくすると、『今日こんなことがあってね』と、かぞくかいぎ以外の場でも自分から話すことが増えていきました」
当時の議事録を見返すと、変化の様子がありありと伝わってきます。たった10分のかいぎを重ねたことで、「話してみよう」「言葉にしてみよう」という姿勢に変わっていったようです。
自分の意見を言ってもいいんだ
本を通して印象的だったのは、大人も子どもも自分の気持ちを言葉にするのがなんて上手なんだろう、ということ。かぞくかいぎを重ねた賜物なのでしょうか。
玉居子さん:
「かぞくかいぎを続けたから、すぐに気持ちを言葉にするのが上手になった、というわけではなのかなと私は思っています。確かにテクニックや経験を積めばできるようになると思いますが、かぞくかいぎをすることで培われるのは『自分の意見を言ってもいいんだ』という、もっとシンプルな確信が蓄積されることかもしれないなって。
気持ちを言葉にする難しさには、『こういうことって言ってもいいのかな』『こんなこと思ってるの変じゃない?』と、心にフィルターをかけてしまうことがひとつありますよね。人それぞれ感じ方は自由なのに、知らず知らずのうちにフタをすることで、言葉にするのを余計難しくしてしまうのだと思います」
玉居子さん:
「でもかぞくかいぎを通して、自分の考えをお父さんやお母さんのと同じように扱ってもらえる、自分の意見が家族の選択肢のひとつになっている、と感じられることで、『自分の考えていることを言っても大丈夫』と思えるのかなと。
かぞくかいぎの取材やワークショップをすると、子どもって親のことを本当によく見てるなって思うんです。察することができるからこそ、すでに用意された正解に導くようなかいぎではなく、ひとりひとりが対等に向き合い、横道にそれながら楽しく話せるかぞくかいぎが広がっていったら嬉しいですね」
かいぎが減った今。それでも不安にならないわけは
息子さんが小学一年生の頃から始まった、玉居子家のかぞくかいぎ。今ではほとんどやらなくなったのだとか。
玉居子さん:
「かぞくかいぎをすることは減りましたが、食事の時やニュースを見ながらよく話をしますし、親の話を最後まで聞いて自分の意見を言ってくれるようになりました。とはいえ、息子は思春期真っ只中。雑談はあるものの、今日学校であったことなどはあまり話したがりません。だけど大事なことは話してくれるのだし、話したくないことを無理に聞き出さなくてもいいのかな、と思うんです」
三者面談で先生から初めて聞く話もたくさんありますよ、という言葉に、私だったらあれこれ気になって必要以上に話しかけてしまいそう……と想像しました。かぞくかいぎで築いた信頼関係があるからこそ、不安にならずにいられるのでしょうか。
玉居子さん:
「信頼関係というほど綺麗なものではない気がしますが、親があれこれ言わなくても子どもは分かっているんだなと感じることがたびたびありました。
息子が小学二年生の頃のかぞくかいぎで『今週あった嫌なこと』を聞いたら、『野球に行く時間が30分違っただけなのに、怒っちゃったこと』って書いていたんです。息子は時間をきっちり守りたいタイプで、できないとパニックになることがあって。その時は私も『仕方ないでしょ』と少し喧嘩になったんですよね。
でもかぞくかいぎのなかで、『あの時の自分の振る舞いはよくなかった』って、自ら省みる姿を見て、“あ、ちゃんと気付いているんだ” と思いました。
つい『ああいう時は怒っちゃダメだよ』って言いたくなるけれど、やったらいけないことや反省すべきことに子どもは気付いている。今思うと、そういう発見が今の関係性に繋がっているのかもしれませんね」
家族が大切にしたい世界観を知って、楽になりました
取材の最後に、かぞくかいぎをして変わったことについて聞いてみました。
玉居子さん:
「どんなにかぞくかいぎを重ねても、言い合いになったり問題が起こったりはするものです。でも家族の間に『なんでも言って大丈夫なんだ』という空気が作れていると、何かを話すにしてもそれほどハードルは高くないように思います」
玉居子さん:
「何より変わったのは、親である私自身の姿勢でしょうか。子どもに『教える、叱る、促す』という親としての姿勢を保つのはそれほど重要ではなくて、一人の人間として子どもの内側にあるものを聞かせてもらう、という姿勢が取れるようになりました。
週末の過ごし方ひとつとっても、前後の予定を考える大人としては、子どもの提案を叶えるのって面倒だなと思ったりしますよね。でも無理のない範囲で子どもの意見をすくい上げていくと、その子の世界観が見えてきてある時からすごく楽になったんです。この子はこういう時に気分が乗るんだな、こういうことは本当に苦手なんだなというのが親も本人も分かってきて、そのうち子どもが自分で選べるようになりますから。そして時には、親が大切にしていることや悩んでいることを話したりもします。
家族それぞれが大切にしたい世界観をお互いに知ることができたのは、かぞくかいぎをやっていてよかったことのひとつですね」
家族のことを全部把握していたいわけではないはずなのに、どうして「もっと家族を知りたい」と思ったんだっけ。取材のあと一人振り返ってみると、はたと思うことがありました。
きっと私は、家族が生きていく上で大切にしていたいことを理解したい、という思いが強まっていたのかもしれません。その思いに至ったのは息子の成長がきっかけではあったけれど、夫や娘に対しても同じ気持ちでいます。
「世界観が分かると楽になる」という玉居子さんの言葉を聞いて、家族を知りたいとモヤモヤしていた心にすっと光が差したような気がしました。
時に暖かくて、時にややこしい家族のこと。同じなようで違う存在を認め合うひとつの方法として、かぞくかいぎを始めてみたい。一度しかないこの人生でせっかく巡り合った「かぞく」なのだから。
(おわり)
【写真】ニシウラエイコ
もくじ
玉居子 泰子
1979年、大阪生まれ。二児の母。育児、仕事、福祉など幅広い媒体で記事を執筆するフリーランスの編集者、ライター。自身の家庭での対話を見直したこときっかけに、数年に渡り家族会議についての取材を重ねる。著書に『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密(白夜書房)』がある。ホームページはこちら
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