【暮らしのみずうみ – 松本便り】第7話:覚えていないけれど、覚えている。
ライター 桒原さやか
小さい頃のこと、何を覚えている?
夜、夫と子ども時代の話をしていました。
真っ先に夫が思い出したのは、小学生のころの朝ごはん。スウェーデンに住む義理の母は、夜勤で働いていた時期がありました。
仕事が終わるのは、朝の6時。職場からの帰り道、近所にあるパン屋に寄って、焼き立てを買って帰るのがお決まりだったのだとか。
みんなが目覚める前に帰宅し、食事の支度をして、子どもたちを起こします。そこから家族揃っての朝ごはんがはじまるのです。まだほんのり温かいパンにチーズやハム、きゅうりなど、好きなものをのせて食べる。そんな朝の時間が何よりも楽しみだったそう。
夫は今でも朝ごはんが大好きで、よく夜寝る前に「朝ごはんが楽しみ〜」と言うんです。この習慣は子ども時代から始まっていたんだなぁと思います。
そんな夫の話を聞いて思い出したのは、小学生時代の昼ごはん。ある時期、土曜日の昼はコンビニで買うごはんが我が家の定番でした。
コンビニまでは、家から歩いて10分。
父にとっては休日のスタートの時間で、母にとってはごはんのことを考えなくていいお気楽な時間。わたしと2個上の姉は、いつもとは違う気分が味わえて、わくわくした気持ちでコンビニまで向かっていたのを覚えています。
父と母が何を買っていたのか思い出せないのですが、姉はこんぶのおにぎりとチキンラーメン。わたしは、梅おにぎりとどん兵衛。今でもお店でチキンラーメンを見つけると、姉の顔がふっと頭に浮かぶのです。
実は、夫と子ども時代の話になったのにはちょっと理由がありまして。
それはわたしが小さい頃のことをほとんど覚えていないから。夫はどうなんだろう?と聞いてみると、やっぱり彼も同じようです。
我が家の子どもたちは今、2歳と4歳。ママー、ママー!と呼ばれる毎日も、くたくたになるまでいっしょに公園で走りまわる日々も、絵本を読みながら寝落ちしてしまう夜も。この大変で愛しい日々を、子どもたちは覚えていないのか……。
そう思ったら、この毎日が無かったことになるようで、無性にさみしくてたまらなくなったのでした。でも、よくよく考えると、何かの拍子に、昔の記憶がひゅんと頭をよぎることってあります。子どもが生まれてから、その回数は明らかに増えているような気もするのです。
先日、りんごの皮を剥いていて、思い出したのは父のこと。りんごを剥くのはいつも父の係で、「チャンチャーーーンチャカチャカ、チャンチャンチャカチャカ」と陽気に歌いながらむくのがお決まりだったな、とか。
料理をしていたら、いつもキッチンの丸椅子に腰掛けていた母の姿を思い出しました。料理をしながら音楽を聞くのが好きで、エルトン・ジョンの『Your Song』が何度も何度もリピートされていた時期があって、家族みんなで呆れていたっけ。
こんな具合に、どれもこれも思い出すのは、本当にとりとめのないことばかり。こんなことしか覚えていないと言ったら、父と母はがっかりするでしょうか。でも、その記憶が心の奥底にいる「わたし」を、今でも静かに温めてくれているような気がするのです。
覚えてないけれど、覚えている。
子どもの頃の記憶って、そんなものなのかもしれません。
子どもたちが大人になったとき、どんなことを思い出すのでしょうか?
きっと、予想もしないような、なんてことない日常なんじゃないかと思っています。
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていた元スタッフ。冬の旅行で訪れたノルウェーの北極圏にある町、トロムソに一目惚れし、スウェーデン人の夫と共に、2016年6月〜2017年11月まで住んでいた。現在は長野県松本市在住。著書に『北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし』(ワニブックス)「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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