【8年目なふたり】前編:不安や悔しさにも蓋をしないで。「感じながら」過ごしていけたなら(二本柳 × 渡邉)
ライター 長谷川賢人
ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。
でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。
今回は、主に商品ページを制作しているストア編集グループで、マネージャーを務める二本柳と、お客さまからのご注文やお問い合わせの窓口であるコミュニケーショングループの渡邉が登場。
入社はともに8年前、年齢は違えど、実は「同期」のふたり。入社当時から主な業務は違えど、かけられた言葉やその存在に、お互いに支えられたときもあったそう。さらに、ふたりともクラシコムで産休を経験するなど、ライフステージも変わってきました。
そんな“8年目なふたり”、クラシコムで働いていくなかで、自身に「変わったこと、変わらないこと」はあるのでしょうか?
前編は渡邉が主に聞き手となって、二本柳に色々と質問してみました。
ひと目見て、「私もこの仕事がしたい!」って思えました
渡邉:
二本柳さんは言葉の人、センスの人って感じがしているんです。アプリでお気に入り登録しているコラムもたくさんあるし、二本柳さんが撮る写真はいつもドラマチック。昔から、編集グループのような仕事をしていたんですか?
二本柳:
ぜんぜんです。前職は2年間、総合電機メーカーの営業職だったんです。学生なりに内省を重ねながら心を決めた会社でした。でも、今思うと「何をやりたいか」ではなく「どんな状況でありたいか」しか考えられていなかったんだと思います。
渡邉:
海外と日本を行き来したいなぁ、とか?
二本柳:
そうそう。他の人にも通じやすい有名企業がいいなぁ、とか。だから、いざ入社してみたら、自分の「やりたいこと」がなかなか見出せず、そこで初めて「あぁ、私は入社前に何も考えられていなかった」と気付かされました。
渡邉:
クラシコムとも、その気付きを経てから出会ったんですか?
二本柳:
何かのきっかけで「北欧」のことをネットで検索した時に、編集チームのスタッフがリュックと布バッグにたくさんの撮影道具を詰めて、「まるで登山へ行くみたい」と言われているコラムが出てきたんです。ひと目で「私もこれがしたい!」って、初めてすごく思いました。ちょうどスタッフを募集していて、それで応募しました。
いつだったか、ラジオでジェーン・スーさんが「人は予想のつかない不安よりもよく知ってる不幸を選びがち」と話していて、わかるなぁ、と。そこで転職という不安を怖さなく選べたのは、やっぱり「若さゆえ」もあるとは思います。でも、具体的なやりたいことに出会えたのが、何より大きかったです。
とにかく手を動かす日々が楽しくて。
渡邉:
クラシコムに転職してみて、どうでした?
二本柳:
本当に楽しくて仕方なかったです。次から次へと新しいチャレンジが続いて、やっと慣れたと思ったら、また未知の課題にぶつかって……みたいに忙しかったけれど、とにかく手を動かす日々が楽しくて。
渡邉:
二本柳さんはマネージャーになったのが結構早かった印象があります。
二本柳:
2年間働いてからですね。
渡邉:
仮に私だったら、自信がなくて受けられなかったと思う。だから、二本柳さんが決断したのをすごいと感じていて。それに、自分で作ることが楽しい日々から、仕事の役目が大きく変わりますし、抵抗はなかったですか?
二本柳:
代表の青木さんと店長の佐藤さんからのオファーのされ方が印象的でした。「今後、生きていく道には『自分のためだけに生きるのか、他人のためにも生きるのか』という岐路があると思う。どちらの道を進んでもよいけれど、二本柳さんにとっての人生がより豊かになるほうを選んでみてほしい」といったように話してくれたんです。
正直に言えば、まだまだ自分自身のスキルを高めたり、もっと学んだりしたい気持ちもありました。でも、その提示のされ方で「自分以外の人を思って心を砕く時間が、人生の糧にもなる」という視点を初めてもらえて。
出産してからは、本当に痛感します。どうしても時間を捧げて、子どもを優先することってあるじゃないですか。どこかで「私」がすり減ってしまうように思うこともあるけれど、「私」だけでは得られなかった喜びや幸福を、子どもから受け取っているなと……あのときのオファーの言葉は、子育てをしていても思い返します。
渡邉:
青木さんと佐藤さんは、端々でそういう言葉をくれますよね。
二本柳:
でも、そこからはマネージャーに対する葛藤が毎日を占めるようになって、最初の2年間は……思い出しても、つらかったですね(笑)。やっぱり自信もないし、役職に対するプレッシャーもあるし、内心はうまくできるのかが怖かったんだと思います。
眠る前に、みんなの顔が浮かんできたら
渡邉:
どうやって、つらさと向き合えるようになっていったんでしょう?
二本柳:
つらかった時期は、自信がないがゆえに、全ての思考が自分だけに向いていたんだと思います。それが時間をかけて、次第に自分よりもチームの人たちを気にかけるようになっていきました。「自分はマネージャーとして大丈夫なのか」の心配よりも、「メンバーはやりがいを持てているのかな。どんなモチベーションなのかな」と、眠る前にもみんなの顔が浮かんでくる。
心配ごとは減らないのですが、その対象が「自分から他者へ」と変わっていくことで、やっと悶々とした時期を抜けられたようです。
その頃からでしょうか。私が今の仕事をしていられるのは、自分の努力ではなくて、チームの人たちが私をマネージャーにしてくれているんだと気がつきました。後輩が成長していくことや、チームでの仕事が輝いていると思えたとき、自分自身で作っていたときよりも、さらに大きな達成感を得られるようになりました。
渡邉:
私も前職でチームリーダーを1年くらい務めたことがあったけれど、本当に何もできなかったんです。それこそ、全てを自分で担わなければいけないと思い込みすぎていたんだって、二本柳さんの話を聞きながらも思いました。結局は、みんなを信頼して任せきれなかったし、それこそ「嫌われる覚悟」みたいなものもなくて、言葉を飲み込んでしまったり。
▲写真左:渡邉、右:二本柳
二本柳:
すごくわかります。リーダーとしては「嫌われたとしても伝える」という覚悟は確かに持たないといけないのかもしれません。ただ、クラシコムの人たちは本質的に「お客さま」しか見ていないからこそ、私が誠実に「お客さま」を見ながら伝えている意見であれば、チームの仲間も「自分を否定された」とは感じずに、納得するまで対話をしてくれる。その信頼関係があるから、「嫌われる」といった概念がそもそもいらないんだ、と思ったんです。
渡邉:
日常的に、率直なコミュニケーションが多いですよね。商品ページも掲載後に「この写真は撮り直したほうがもっと魅力が伝わる?」みたいに、大事な話を軽々とする。その人のことを責めたり、その人の仕事を否定しているわけじゃなくて、目の前の事象を解決するために、みんなで「どうすればいいのか」を考えている。それは、これまでのみんなの仕事を積み重ねて、出来上がってきた文化みたいなもので。
二本柳:
うんうん、行間を読まなくていいコミュニケーションですよね。結局は、みんなが考えているのは「お客さま」のことに集約されるから、自然とそういった話し方ができるのかも。
社内にいろんな人がいるほうが、居心地は良い
渡邉:
私たちも社歴が長い方になってきたよね。
二本柳:
入社して8年目ですもん。歳を取りましたよね、私たち(笑)。
渡邉:
入社してくるスタッフが、一回りも下ということが普通だから。いろんな人が入ってきますし。年齢もばらけてきて、男性スタッフも増えていて。
二本柳:
でも、あんまり変わった感じはしなくて。それは自分も変わってきたからかもしれないけれど、私は同じような人が集まっているよりも、「いろんな人がいるなぁ」という状況のほうが居心地は良いんです。
渡邉:
よく言われるのは、逆じゃない?
二本柳:
確かに言葉の受け取り方が違ったりしたら大変だし……なんでだろう。うーん……あっ、思ったんですけど、私たちが入社した時の応募要項に「お昼ごはんを一人で食べられる人」という条件、ありませんでした?
渡邉:
わぁ!あったかも! 実際に入社してみて、「あっ、本当に一緒にごはんを食べないんだ!」とびっくりしたほど、みんなサバサバというか、さっぱりしてる感じだとは思いました。それぞれが干渉しすぎずに、自分の生活があって仕事があると、どこか割りきっているような。
二本柳:
ランチも一人ずつで、18時に仕事が終わっても、帰りはみんなバラバラで(笑)。似たような感性を持った人たちが集まっているけれど、それぞれが自立している感覚でした。
私は大学生の頃が似たような環境で、すごく好きだったんです。仲が悪いわけではないけれど「ひとり」を好む人の集まりで、でも好きな世界はどこか似ていて、一人ずつが夢中になれるものに浸っている。そこが自分のホームだと思えていたから、クラシコムの社員数が増えても「変わらないな」と感じるのは、それが理由かもしれません。
ちゃんと「感じながら」仕事をしたい
渡邉:
二本柳さんはBRAND NOTEや『青葉家のテーブル』など、クラシコムにとって新しいことを始めるときに、よく関わっていたなぁと思うんです。今の仕事もありながら、もっとやってみたいことってありますか?
二本柳:
正直、本当にないんですよ。目の前のことを打ち返すのに精一杯で、あっという間に8年間が経っちゃった。それで言うと、常に意識したいと思っていることはあって、「ちゃんと感じながら」仕事をしていきたいです。
マネージャーになったばかりの頃は、自分を守るために感情へ蓋をした時もありました。鈍感になるほうが楽だからです。でも、途中で「これではダメだ」と思いました。この悔しさや戸惑い、不安を、ちゃんと味わわなくちゃもったいない!と。
でも、最近は仕事が終わったら、感情と向き合う暇もなく子どもを迎えに行って、ごはんを作らなくちゃいけない。生活を回すために、ちょっとまた蓋をしている感じがあって。
それのほうが楽ですし、波風が立たないけれど、慣れてしまうと感情がおざなりになってしまう。ちょっとしたモヤモヤにも蓋をせず、自分では嫌になるような感情も含めて、向き合いながら仕事をしていきたいです。
渡邉:
子どもを見ていると、感情が全て出ているように見えて、羨ましいと思うくらいのときもあるもんね。
二本柳:
ですよね!「あっ、今、自分の琴線に触れた」みたいな瞬間が、最近ちょっと少ないかもしれないから。そういった心の動きも、全部がお客さまへ届けていくことにつながっていくと思うんです。
(つづく)
【写真】川村恵理
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